217 / 245
【2】
しおりを挟む
◇
美音は、ゲームセンターにて携帯を見詰めていた。鈴夜からの着信を期待しての行為だ。けれど連絡は一切入っていない。
軽く悲しみを落として違うページへと移動する。ハングルネームと文字列の並ぶ画面を一瞬見たが、昔よりも面白みが感じられず直ぐに閉じてしまった。
「美音ちゃん、また対戦しようよ」
前に一度対戦した事のある常連客が話しかけてきて、美音は反射的に携帯をポケットに仕舞いこむ。
「良いですよー、でも今回も私勝ちますから」
「美音ちゃん強いもんねー、標準が適確だもん。大会とかも出れそう」
褒め言葉に純粋に喜ぶと、美音は玩具の銃に両手をかけた。
◇
樹野は、サイトを介して知った真実に胸を痛めていた。
書き込みや、見てしまった動画が頭から離れない。動画は一応無音で見たのだが、無音動画だけでも純粋な樹野にとっては衝撃の強いものだった。
友達が殺されたシーンが、焼きついて離れない。貼り付けられた血塗れの写真が、くっきりと脳内に存在している。
思い出せば思い出すほど、怖くて怖くて震えが止まらくなった。
巻き込まれてしまうのが怖い。誰かが背後から襲って来たら怖い。本当は家に引きこもってしまいたい。
けれど、それでも、こんなにも無防備な依仁を一人にする事は出来ない。
現実を知りながらも、今自分が抱いている物とよく似た恐怖を抱きながらも、果敢に立ち向かっていた彼を一人きりで残す事はできない。そして恐らく、それらは私の為だろうから。
だから、何があっても見捨てられない。
ゆらゆらと揺れる感情に押し潰されてしまいそうで、樹野はどうしたらいいか分からなくなった。
◇
淑瑠は鈴夜の力を借りて立ち上がり、車椅子を利用して用事を済ませ、ベッドへと戻り倒れ込んでいた。点滴で薬が投与された事により、眠そうにしている。
「……鈴夜ごめん……たくさん言いすぎたよ……」
「良いよ、大丈夫。嬉しかったよ、淑兄。本当だから、僕淑瑠兄を支えるから」
「……ありがとう」
泣き腫らした後の笑顔には、真実味がある。
鈴夜は自分が受け入れてもらえた気になって、嬉しくなった。
ずっと淑瑠を支えて行こう。心が回復するまでは隣で寄り添い共にいて、元気になったら仕事に復帰して、別の方面からも支えていこう。
鈴夜は、心の中で密かに誓った。
空気が静かな所為もあり、淑瑠が眠りかけた頃、医師が顔を出した。
「調子はいかがですか?」
「……あっ、えっと……」
「……大丈夫です」
音に目覚めたのか、淑瑠はまだ眠気を残しながらも微笑んでいた。
「そうか良かった。点滴外すね」
医師が慣れた手付きで点滴針を抜き、止血シールを貼っていると不意に淑瑠が切り出す。
「……先生、何時家に帰れますか……?」
「……そうだねぇ、帰りたいの?」
「……はい、帰りたい……です……」
鈴夜は、早速自分の気持ちを汲み取ってくれた淑瑠に深く感謝した。一緒に料理をしたいとの希望を、叶えてくれようとしているのかもしれない。
「……まぁ、自宅療養って手もあるけど辛いよ?」
医師は笑顔を作りつつも、顔色に曇りを描いていた。恐らくは、希望に沿う事に躊躇が残るのだろう。
「…もちろん薬は出すけど、強い痛み止めも直ぐに使えないし、松葉杖を使うとしても家だと難しくはないかな…」
鈴夜は喜んだ半面、残る現実感に悲しみも落とした。医師の発言だと、今後も暫く、淑瑠の体は正常に戻れないと受け取れる。
「……大丈夫です、頑張るので」
「だったら検討してみようか」
「……お願いします」
だが、そんな現実を当人は受け容れて、嬉しそうに微笑んでいる。
医師は前向きに見える淑瑠を見て、困り笑いをしながら、退室した。
「……淑兄大丈夫?もうちょっと考えてみなくても良い?」
鈴夜は、自分の発言が帰宅を願う理由に繋がっている可能性を考え、改めて投げ掛ける。
淑瑠は軽くゆったりと何度か首を横に振り、囁くほどの声で答えた。
「……大丈夫だよ、帰ってまた一緒にご飯作ったり……テレビ見たりしたいもんね……」
「……ありがとう……また前みたいに過ごそう……」
淑瑠の生きる方面全てに、自分の存在がある。
今までと変わらずに、自分ばかりを見詰めてくれている優しさが嬉しくて、目尻が熱くなった。
その後、医師の口から淑瑠の退院予定日を聞いた。3日後の木曜日だ。しかし体調を考慮し、伸びる可能性もあるとの事だ。
その夜、歩がやってきてその事を話すと、とても嬉しそうな顔をしてくれた。
美音は、ゲームセンターにて携帯を見詰めていた。鈴夜からの着信を期待しての行為だ。けれど連絡は一切入っていない。
軽く悲しみを落として違うページへと移動する。ハングルネームと文字列の並ぶ画面を一瞬見たが、昔よりも面白みが感じられず直ぐに閉じてしまった。
「美音ちゃん、また対戦しようよ」
前に一度対戦した事のある常連客が話しかけてきて、美音は反射的に携帯をポケットに仕舞いこむ。
「良いですよー、でも今回も私勝ちますから」
「美音ちゃん強いもんねー、標準が適確だもん。大会とかも出れそう」
褒め言葉に純粋に喜ぶと、美音は玩具の銃に両手をかけた。
◇
樹野は、サイトを介して知った真実に胸を痛めていた。
書き込みや、見てしまった動画が頭から離れない。動画は一応無音で見たのだが、無音動画だけでも純粋な樹野にとっては衝撃の強いものだった。
友達が殺されたシーンが、焼きついて離れない。貼り付けられた血塗れの写真が、くっきりと脳内に存在している。
思い出せば思い出すほど、怖くて怖くて震えが止まらくなった。
巻き込まれてしまうのが怖い。誰かが背後から襲って来たら怖い。本当は家に引きこもってしまいたい。
けれど、それでも、こんなにも無防備な依仁を一人にする事は出来ない。
現実を知りながらも、今自分が抱いている物とよく似た恐怖を抱きながらも、果敢に立ち向かっていた彼を一人きりで残す事はできない。そして恐らく、それらは私の為だろうから。
だから、何があっても見捨てられない。
ゆらゆらと揺れる感情に押し潰されてしまいそうで、樹野はどうしたらいいか分からなくなった。
◇
淑瑠は鈴夜の力を借りて立ち上がり、車椅子を利用して用事を済ませ、ベッドへと戻り倒れ込んでいた。点滴で薬が投与された事により、眠そうにしている。
「……鈴夜ごめん……たくさん言いすぎたよ……」
「良いよ、大丈夫。嬉しかったよ、淑兄。本当だから、僕淑瑠兄を支えるから」
「……ありがとう」
泣き腫らした後の笑顔には、真実味がある。
鈴夜は自分が受け入れてもらえた気になって、嬉しくなった。
ずっと淑瑠を支えて行こう。心が回復するまでは隣で寄り添い共にいて、元気になったら仕事に復帰して、別の方面からも支えていこう。
鈴夜は、心の中で密かに誓った。
空気が静かな所為もあり、淑瑠が眠りかけた頃、医師が顔を出した。
「調子はいかがですか?」
「……あっ、えっと……」
「……大丈夫です」
音に目覚めたのか、淑瑠はまだ眠気を残しながらも微笑んでいた。
「そうか良かった。点滴外すね」
医師が慣れた手付きで点滴針を抜き、止血シールを貼っていると不意に淑瑠が切り出す。
「……先生、何時家に帰れますか……?」
「……そうだねぇ、帰りたいの?」
「……はい、帰りたい……です……」
鈴夜は、早速自分の気持ちを汲み取ってくれた淑瑠に深く感謝した。一緒に料理をしたいとの希望を、叶えてくれようとしているのかもしれない。
「……まぁ、自宅療養って手もあるけど辛いよ?」
医師は笑顔を作りつつも、顔色に曇りを描いていた。恐らくは、希望に沿う事に躊躇が残るのだろう。
「…もちろん薬は出すけど、強い痛み止めも直ぐに使えないし、松葉杖を使うとしても家だと難しくはないかな…」
鈴夜は喜んだ半面、残る現実感に悲しみも落とした。医師の発言だと、今後も暫く、淑瑠の体は正常に戻れないと受け取れる。
「……大丈夫です、頑張るので」
「だったら検討してみようか」
「……お願いします」
だが、そんな現実を当人は受け容れて、嬉しそうに微笑んでいる。
医師は前向きに見える淑瑠を見て、困り笑いをしながら、退室した。
「……淑兄大丈夫?もうちょっと考えてみなくても良い?」
鈴夜は、自分の発言が帰宅を願う理由に繋がっている可能性を考え、改めて投げ掛ける。
淑瑠は軽くゆったりと何度か首を横に振り、囁くほどの声で答えた。
「……大丈夫だよ、帰ってまた一緒にご飯作ったり……テレビ見たりしたいもんね……」
「……ありがとう……また前みたいに過ごそう……」
淑瑠の生きる方面全てに、自分の存在がある。
今までと変わらずに、自分ばかりを見詰めてくれている優しさが嬉しくて、目尻が熱くなった。
その後、医師の口から淑瑠の退院予定日を聞いた。3日後の木曜日だ。しかし体調を考慮し、伸びる可能性もあるとの事だ。
その夜、歩がやってきてその事を話すと、とても嬉しそうな顔をしてくれた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる