This is a peeeen!!

有箱

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第1話:これはペンですか?

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 最近購入したお気に入りのペンが、カリカリと音を立て紙に筆跡を残してゆく。女子にしては汚いと評判の、やや潰れ気味の文字が綴られた。
 因みにペンのインクは黒色で、外装は男っぽさのあるカッコいいデザインだ。

 時々下の階で立つ足音を気にしながら、目の前のノートへと一心に視線を宛てる。
 今、私が書き綴っているのは日記だ。日々の出来事やら思いやらを綴る、例の奴だ。昔からの習慣で、毎日のようにつけている。
 最近の題材は、専ら好きな男子についてが多い。

 実はクラスメイトの一人に気になる奴がいる。シンジローという背の高いイケメンだ。
 そいつとは幼馴染みでもある。偶然に偶然が重なって別の組になったことが一度もなく、常に共にいた存在と言えよう。
 私は最近、そいつに恋していると気付いてしまった。

 とは言え可愛げも無ければ、友人に「ウオコって、無性に冷めてるし感情なさそうだよね」とまで言われる私だ。
 因みに〝ウオコ〟はあだ名で、死んだ魚のような目をしている女子、との意味が込められている。
 まぁ、実際に冷めていて死んだ目をしているのだけれど。

〝意識しちゃってから シンジローと上手く距離が取れない。けど多分 アイツは気付いてすらいないんだろうな。私だけ、こんなに意識して馬鹿みたい〟

 自ら勢いで生み出してしまった、こっぱずかしいポエムを見詰めながら一人絶句する。
 我ながら恋なんて性に合わない……と、転生を神に願いながら、次なるポエムを生み出そうとした時の事だった。

『うむ、そなたも可愛らしい所があるのだな』

 突如どこからか聞こえた見知らぬ声に、自然と肩が竦む。さすがの私でも、オカルトの類は頂けない。
 不審に思い、一旦ペンを下ろして辺りを見回したが、人の気配すらどこにも無かった。

 気味が悪くなり、考えすぎて疲れているのだろうとの結論を胸にベッドに潜り込んだ。

**

 翌日、辺りを警戒しながら一日過ごしてみたが、見知らぬ声は聞こえなかった。
 友達にも相談してみたが、幻聴だと片付けられてしまい、何気なく病院も薦められた。

 やはり、悩みすぎているのかもしれない。
 しかし、恋の病とはどこを受診すれば良いのだろう。

 昨夜聞いたきりの覚えの無い低音ボイスを想起し、深い深い溜め息をついた。

**

 とは言え、こんな可笑しな話を母親にして本気で心配させるのも申し訳ない。
 という結論もあり、結局いつも通りの日々を送ることに決めた。

 好きな漫画を読んでゲームをして、一時間程度勉強をして、ご飯を食べて風呂に入って、日記を綴る為に勉強机に向かう。

〝今日もシンジローは素敵でした。でも そんな事言ったら多分…というか絶対気持ち悪がられるなぁ。ところで 私の頭は可笑しくなっているのだろうか〟

 インパクトの強い声を思い出し、更なる文字を綴るべく紙にインクを擦り付けた。

『可笑しくはない。恋とは良いものだ、心が温かくなる』

 呼び覚まされる恐怖に立ち上がり、辺りを必死に見回す。しかし、誰もいない。気配もない。
 やばい、さすがに怖い。しかし、頭が可笑しいと思われるのも頂けない。

〝やばい やばい やばい どうしよう めっちゃ怖い〟

 発散場所の無い感情を、取りあえず目の前にあった日記帳に吐き出す。明日の朝、この文字が消えていたら夢だと片付けられるのに、と淡い願望を抱く。

『やばいとは何がやばいのだ』

 一方的に吐き出した筈の叫びに返事が来て、ただ唖然とするしかなかった。
 やっぱり、真剣に病院を考えた方が良いかな……。

『怖いとはもしや私の事か? 私はここにいるではないか。ここだここ』

 〝ここ〟〝ここ〟と曖昧極まりない説明をされながらも、吸い寄せられるように声の源を探す。すると、それは意とも簡単に見つかった。

「……もしかして、ペン……?」

〝って私 ありえなくね?〟

 行き場の無い感情を綴った瞬間、パパパパッパパーン!と声にされた擬音が聞こえてきた。
 その瞬間、突然冷めた。

 恐怖していたのは、正体が分からなかったからのようだ。危害を加える存在ではないと確認できた今、恐れは完全に消え失せた。

『正解! 私はペンだ、宜しく』
「……はぁ」

 声の出るおもちゃ疑惑が内で生じ、軽く全体を見回してみる。しかし、外見は何ら変哲のない作りだ。
 普通に使えるのかも改めて確認したが、全く問題は無かった。黒いインクはすんなり出る。

『テンションが低いな! 君はいつもそうなのか!?』
「そうですけど」
『それよりも、シンジローに告白はしないのか?』

 切り出されて気が付いた。彼ペンが日記の内容を見ていたことに。
 あの数々の、ポエムを見ていた事に――。

「…………寝よう……」
『おい! 私の話は無視か! ウオコよ! おーい!』

 呼びかけを遠ざけるようにして、私はベッドに潜り込んだ。そうして、布団を頭まで丸被りする。
 明日、目覚めたら夢だったと言えますように。そう願って。

**

 その翌日も、私はペンを握った。もちろん確認の為である。
 起床してから今に至るまで、まだペンの声は聞いていない。それが、夢だったからならば良いのだが。

〝昨日はおかしな経験をした〟

『可笑しな経験とはなんだね?』

 早速現実だと分かったと同時に、ペンが話し出すタイミングを見極めた。
 恐らく筆記時か、それからの数分間――といった所だろう。

 要るか要らないかよく分からない何かを得た所で、今日は取り合えず彼の話に耳を傾けてみる事にした。

「何で突然話し出したの」
『妙に冷たい言い方だな、いつもの君はどこへ言ったのだ?』
「これが私ですけど」
『いつも気持ちを綴っている君はもっと……』
「それ言うと圧し折りますよ」
『……突然話が出来るようになったのだ。神様に聞いたら奇跡だと言っていた』
「……はぁ」

 よく分からない世界観を理解する気にもなれず、一先ず相槌だけを打つ。それよりも、顔のないペンのどこから声が出ているのかの方が気になった。

『そうだな、折角だから私含む仲間達の思いを君に伝えたいと思うのだ。聞いてくれるか?』
「はぁ……」
『ありがとう、やはり君は良い子だ。感謝するぞ』

 勝手に承諾と取り違えられてしまったが、話を聞くくらいなら良いだろうと飲み込むことにした。
 そうして、話す不可思議な無機物――ペンとの奇妙、いや微妙な生活が始まった。
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