happy birthdayを君に

有箱

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episode:千佳(後編)

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 スパークランドは、時間など物ともせず賑わっていた。遊んでいると、誕生日も悪くないな、なんて単純思考が働きそうになる。それほどに人も景色も輝いていた。ただ、同時に切なさも込み上げたが。

 ここにいる多くの人間が、誕生日を特別なものとし素直に楽しんでいるのだろう。いや、誕生日だけではない。クリスマスだったり年末年始だったり、用意された特別な日を楽しんでいる。何も疑うことなく、純粋に。

 私はというと、特別な日は毎回苦痛だった。世間一般としての過ごし方を知識として持っているせいで、そのギャップに苦しんだ。
 ケーキもご馳走もなく、心からの祝福もない。そんな一日に身を置きながら、自らの不必要さを実感する。今日だって、ここに来るまではそんな日だった。
 いや、今は少し違う葛藤があるけれど。

「千佳、楽しめてる?」
「……うん。こんな楽しくていいのかってくらいには」
「それなら大成功! けど、自分なんかかとか思うのは俺に失礼だから全部ポイな」

 読心を思わせる催促に黙り混む。だが、彼の言う通りだ。納得した私は、改めて躊躇いを封印する決意を固める。
 颯のためならば可能だったのか、半ばがむしゃらではあったが、その後の時間は全身全霊で楽しめた。

***

「閉園直前に花火が上がるんだってさ。そこまでいてもいい?」

 観覧車からの景色を眺めていたが、声に反応し顔をあげる。向かいの席にて、颯は懸命にパンフレットを読み込んでいた。
 何時間か遊んだが、颯は自分を差し置き、私を楽しませることに力を注いでいるようだった。

「むしろ颯は時間大丈夫なの? お母さんが心配とかでいつも早く帰るじゃん」
「お母さんには言ってあるから大丈夫。何かあったら連絡してっていつも伝えてるし。好きなだけ遊んでこいとも言ってたよ」
「そう……」

 どうやら、この計画は颯の独断ではなかったらしい。それなら少し安心だーーと言うのも、颯の家は母親が病気で働けないらしく、毎月の生活費を颯が担っている状況だからだ。それなのに私の為に勝手に散財でもしたら、罪悪感に潰されることになる。

「あのさ、颯もちゃんと楽しんでね。あとお金はいつか返すから」
「や、マジでそこ気にしなくていいし俺もちゃんと楽しんでるから」

 視線はパンフレット行きだが、言葉通り表情は楽しげに見えた。そんな顔につられ、私も控えめに微笑む。
 誰かと共に過ごす時間が、こんなに幸福だとは知らなかった。

 結局、私たちは閉園時間まで遊び回った。無論、全て回り切ることはできなかったが。

 ジェットコースターやコーヒーカップに乗ったり、メリーゴーランドに揺られたり、ポップコーンを食べたり落とし物を届けたり、お土産店を見るだけ見たり、肩を並べて次の目的地を目指したり。
 知識だけだったものが経験になって行く様は、とても充実していた。

***

『ただいまより、花火が始まります。ただいまよりーー』

 アナウンスを合図に、テーマパーク内が騒ぎたつ。
 それからすぐ、最初の花火が上がった。一発目にふさわしい、カラフルで大きな花火だ。続いて何発も発射され、空は儚い花でいっぱいになった。祭りの花火とは全然違う。規模ではなく、美しさが。その理由は明白だ。

「千佳、今日は楽しめた?」
「うん、楽しかった」
「良かった。プレゼントになった? 誕生日良いものだって思えた?」
「まぁ、うん。ちょっと苦手って気持ち減ったかも」

 概念を上塗りされる日が訪れるとは思わなかった。いや、違う。きっと私は、心の中でずっと望んでいた。それに知ってもいた。認める機会がないだけだった。

 颯を見ると、満足げに微笑み空を仰いでいた。だが次の瞬間、視線が落とされ目線が合う。

「千佳、改めて誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう。俺、千佳と会えて幸せだった。てかさ、なんて言うかさ、望まれて生まれてなくても別に良いじゃんね」

 ーー物なんてなくても良いから、心からの祝福が欲しいと。存在することを喜んでほしいと。
 辛くても頑張ってきたねって。生まれてきてくれて、生きていてくれて嬉しいよ、と。そう誰かに言って欲しかったんだ。
 そして、その気持ちをを颯は毎年届けてくれていた。慰めではなく、心からの言葉で。

 誕生日が苦手だったのは、誰からも必要とされていないーーそう感じるのが辛かったからだ。

 微かな笑みが、自然と口元に宿る。最後の花火が散ったのか、空は一気に暗くなった。場に寂しげな空気が充満する。皆、終わりを惜しんでいるのだろう。私もはじめて周囲と同じ気分になれた。

「一週間後、颯の誕生日だったよね……」

 颯は驚いたのか、瞳を丸くして絶句する。それもそのはずだ。誕生日を明かしあったのは、保育園の時以来なのだから。
 しかし忘れることはなかった。毎年、祝福される度に自然と思い出していた。私は本当は誰よりも、誕生日を特別な日にしたかったのかもしれない。

「覚えててくれたんだ」
「うん。私、本当はずっと誕生日を祝われたかったのかも……生まれてきて良かったって思いたかったのかも……だから今度は私がお祝いする!」

 誕生日というのはきっと、思いを伝えるための日だ。貴方が生まれてきてくれて良かったと、生きていてくれて良かったと、私の隣にいてくれて嬉しいと。
 そういうことを敢えて言えない私達の為、用意された日だーーだから私も。

「ありがとう千佳。でも俺はいいよ」

 振ってきた声で口角が下がる。想定外の反応に一瞬固まった。目の前にあったのは、少し切なげな笑顔だった。

 もしかすると颯も、私と同じような何かを抱えているのかもしれない。
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