そうして蕾は開花する

有箱

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 四月とあれば、快適な日も多くなる。今日は朝から、外で食事すると決めていた。
 人目も人気もない、眠気を誘いそうなポジションを見つける。校舎から離れているせいか、声も音もほとんど聞こえなかった。

 だが、食事終了間際になり、空間に音が近づいてくる。少し早い足音だ。
 導かれるように顔をあげると、現れたのはジャージ姿の先輩だった。かなり驚いた顔をしている。一拍置いて何か言ったようだが、僕には聞き取れなかった。
 翻りかけた先輩が、何を思ったのか留まる。それどころか、僕の元へと近付いてきた。

「あのっ! 隣いいかな!」

 少しボリュームの上げられた声は、僕の中に響いた。反射的に頷くと、先輩は一人分の間隔を開け腰を落とす。何かを探し回った後のように、汗ばんだ額を袖で拭っていた。
 発言に備え口元を注視する。だが、袖に隠れてしまった。何か言っているが、またも上手く聞き取れない。
 もどかしさと恥ずかしさに抑制を受けながらも、どうにか唇を紡いだ。

「……先輩、あの」
「はい!」

 顔は見られなかった。確実な返事を捉えたいのに、弁当箱と目を合わせてしまう。

「す、すみません、僕。あの、耳が少し聞こえづらくて……」
「あっ、ご、ごめんなさい! き、聞き取りにくいよね……私の声!」

 先輩の弱音が脳に響いた。どうやら、声量があれば顔を見ずとも聞こえるらしい。
 劇の時と同じ感覚が、憧れの感情を小さく蘇らせた。何の台詞も用意できないまま、否定だけが口をつく。

「えっ、えっと、違っ……」
「びっくりしたでしょ」

 澄んだ声が、真っ直ぐに耳を通った。顔をあげると、先輩が僕を見て困笑していた。

「えっと、ほら、よく見に来てくれてたでしょう、劇。こんな人間だって知って、びっくりしたよね」

 僕が一方的に逃亡した、あの日と同じ笑顔がある。

「あっ、よく言われるから気を使わなくてもいいよ……って私何言ってるんだろう!」

 こちらを見たり、目を逸らしたり。閊えながらも伝えようともがく姿は、どうしてか僕を惹き付けた。
 もしかすると、自分と重なるからかもしれない。

「え、えっと、びっくりはしました。けど、あの、実は僕、先輩の演技に憧れてこの高校に入って……えっと、先輩の演技は素敵だし、あと、えっと、声も素敵です。ちゃんと話してくれれば……あ、悪い意味じゃなくて。先輩の声は他の人より聞き取りやすくて……だから、聞いていたくなると言うか……」

 だからこそ、伝えなくてはいけないと思った。当然、上手くは纏められなかったが。

 あまりにも不甲斐ない発言に、全身が火照る。思わず顔を背けたところで、壇上と同じくらいの声が聞こえた。

「あ、ありがとう!」
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