そうして蕾は開花する

有箱

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「花咲――って――ギャップの塊――ねー」

 隣からの声に顔が引っ張られる。気を引く名刺により、つい耳を傾けてしまう。ちなみに、現在先輩は不在だ。

「でも、めっ――くりしましたよ。だってあん――声出せるのに――っちゃ小さいし、喋んないし。意見すらしないし。でも、あんな人――出来るんだなーって――ました」

 滲む無礼に睨みを送ったものの、当人は気付かない。腹は立ったものの、疑問にだけは共感できた。
 なぜ、あれほど控えめな先輩が舞台に立つのか。僕には想像もつかなかった。



 疑問を持ったとて、切っ掛けなしに質問できるほど積極的じゃない。それが僕である。
 疑問は温めたまま、僕は先輩との日々を連ねた。

「林野くん、演技、結構上手だね」

 向き合い、空で一通り演じたのち呟かれる。突然の褒め言葉に、僕は林檎と化してしまった。
 目の前の微笑には、もう戸惑いの欠片すらなかった。どこか、滲み出す緊張感はあったが。

「とても助かったよ。練習、一緒にしてくれて」

 準備でもしていたかのように、流暢に先輩は言う。

「ぼ、僕が声を……聞きたかった……だけなので」
「……す、素敵って……言ってくれたもんね……。あれ、嬉しかった……」

 二言交わした後には、もう余裕を失っていたが。
 入部当時は、こんな未来を描いてすらいなかった。

「明日……ですね、公演。か、軽くでいいよって言われてたけど、本気で成功して欲しいです」
「……私も」

 明日は、ついに公演が行われる。一ヶ月以上かけて積み上げた、努力の集大成を披露するのだ。
 予定より深く関わったせいかもしれない。表に立つのは先輩なのに、強い緊張で体が強張った。他人の僕でこれだ。先輩はもっと、強い金縛りに見舞われていることだろう。

 力付ける言葉を探したが、別れても、家に帰っても見つからなかった。
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