96の間には

有箱

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3日目

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 無邪気に遊ぶ姿を見ていると、何だか胸が痛む。こういう所があるから失敗ばかりなのだと自覚はしている。
 だが、逃しても問題のない命ならば、もう少しだけ生かしてあげたい――そう思ってしまうのは、性格なのだから変えられそうにない。

 振りきるようにし、縮小化した鎌をみやる。回収のイメージを、改めて固め直した。

「見て見て! こんなに高く登れた!」

 登り棒を登りきったキナは、片手を上げて大きく振っている。公園はすっかり過疎化しており、ここにも影一つなかった。
 端から見れば、一人で遊ぶ小学生に見えるだろう。しかし、キナには却って良かったのか、全身で公園を満喫している――ように見えた。

「手を離すんじゃない。危ないぞ」

 忠告に応じ、キナはすぐに手を戻す。その上、ゆっくりと降りてきた。続いてブランコへと向かったが、使用禁止の札の前で立ち尽くす。その背中は悲しげだった。

 駆け足で戻ってきたキナが、目の前で顔を上げる。また笑顔だ。

「ありがとう」
「どうした急に」
「こんなに楽しい気持ちになれると思わなかったから、ありがとう」

 そして、それだけ言うと鉄棒へと走り去った。
 感謝され、唖然とする。ただ、沸いた感情の中に喜びはなかった。あるのはやはり寂しさだ。キナの、終わりを見据えた台詞に心が痛んでいるのだ。

 こんなにも純粋で可愛らしい子どもが、なぜ必要以上の荷物を背負わなければならないのか。死について考えなければならないのか――書類の文字が浮かんでは哀れんでしまう。

 回収を見送れば、キナは幸せになれるのだろうか。それとも、ここで取ってしまった方が、彼女にとっては幸福なのだろうか。
 俺だって死にたくはない。死ぬのは怖い。けれど、それは。
 もっと簡単に、終わらせるはずだったのにな。

「こっち来て!」

 呼ばれて顔をあげる。煌めく笑顔の裏に、どれ程の怖さを隠しているのか想像した。

***

 明日は学校をサボって探検でもしよう。そう約束した。
 死神さんも眠るのか、横で私より先に眠ってしまった。こうして見ていると、羽はあるけど唯の人間にしか見えない。

 手を伸ばしそっと触れてみる。思った通り感触はなく、指先は体に透け込んだ。やはり、彼は私は違う生き物みたいだ。
 けれど、それは希望のようにも思えた。

 人から見えないのならば、秘密で一緒にいることだってできる。これから先だって、死神さんがいれば私は生きていけるかもしれない。死神さんさえ許してくれれば――。

「一体何考えてんだか」

 思惑を当てるような声に、肩が跳ねる。怖々振り向くと、黒い服の女の人がいた。いや、人ではない。恐らく死神さんと同じ種族の生き物だ。手に持たれた鎌や、黒羽がそれを証明している。

「こ、殺さないで……」

 反射的に溢していた。最初に死神さんに告げたものと、矛盾する台詞にハッとなる。
 見せつけるように、呆れた様子の溜息が溢された。視線は死神さんへと注がれている。

「殺さないわよ。第一、請け負ってないものに手出しは出来ないし。それより」

 ギロリと鋭い視線が私を睨んだ。見慣れた目付きに、日々が色濃く呼び覚まされる。

「あんた言いなさいよ。私の命を回収して下さいって。そうしなきゃクロ死んじゃうんだから」

 底の見えない話のラスト、想像すらしなかった語句が耳に残った。命令の言葉も霞むくらい、大きく響く。

「さっさと言いなさいよ、分かったわね」

 それだけ言い残すと、背を向け部屋から出ていった。小さく描いた未来が崩れ落ちる。
 
 そうだ。私は間違いで生まれた人間だから、いなくなった方が自然なんだ。
 お母さんにも、学校の皆にも、死神さんにも、皆にとって都合が良い。それは当然、自分自身にも。
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