96の間には

有箱

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 満足だ。死ぬ間際、心にあるのは想像よりも安らかな感情だった。
 いや、まだ怖さはある。しかし、キナとの約束があれば打ち消せる気がした。

 キナの爽やかな泣き顔に混じり、思い出すのは淡い記憶だ。
 それは、あの海での出来事だった。どうやら俺は死神としてではなく、人としてあの場所に赴いていたらしい。それも、人生最後の日に。

 俺はキナと同じだった。同じように暴力や苛めで人生を狂わされた。
 今は最早、客観的な思い出しかなく、人だった頃の感覚はない。それでもキナを哀れんだのは、本能が反応してのことだったのだろう。
 自分と同じように、不幸なまま幕引きをして欲しくなかったのかもしれない。

 生きた先に、幸福が待っているとは限らない。けれど、それでも幸福を求め続けてほしいと願う。
 
 次はどこへ行けるだろうか。地獄か、天国か。それとも、もっと別の所か。
 ただ、叶うのならば、キナが語ってくれたような平和の世界に行きたい。そこでキナに会えたならば、もっと良い。

 死神だけど、神に願いをかけてみようか。
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