不幸に笑う君と

有箱

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「ほら、やっぱり災難でしたね」
「そうかな、楽しかったよ?」

 約三時間後、私達は家に戻っていた。部屋の中で、登起の頬に絆創膏を貼る。脱衣場では洗濯機が音を立てた。

「道で滑ったり、人にぶつかったり、自販機でお釣りが詰まったりがですか?」

 皮肉を込め、あえて具体例をあげてみる。反応は予想通り、笑顔での肯定だった。だが、もう驚かない。なぜなら出来事の直後にも同じ顔をしていたからだ。

 他にも小さな不幸が幾つも生じたが、彼は常に楽しそうだった。全ての出来事をポジティブにする天才なのかもしれない。だからこそ不幸を知りたいのだとしたら。

「わっ」

 突然電気が消える。辛うじて回りは見えたが、暖房や洗濯機が止まってしまった。部屋の温度はまだ低く、早々体は冷えてくる。

 悄然としていると、やっぱり登起は笑いだした。何がおかしいのか声まであげている。そこまで爆笑されると、落ち込むのが逆に馬鹿らしくなってきた。

 もしかして彼なら、全て笑い飛ばしてくれるのかなーーなんて期待が仄かに降る。

「……停電かブレーカーですね。見てきます」
 
 それからも、登起は学校帰りに家を訪ねてきた。必ずといっていいほど私を外に連れ出し、お決まりのように不幸に巻き込まれては笑った。傷や汚れを増やしながらも笑顔の堪えない彼は、まるで神様のようだった。

 不幸を受け入れる彼に、私は未経験の感情を覚えはじめていた。

***

 いつものように扉を開くと、ジャージ姿の登起がいた。脳内で赤信号が鳴る。私の不幸体質は実に恐ろしく、隣にいなくとも影響を与えてしまうことがあった。それは互いの関係が深いほど及びやすい。

「制服着てないですが、何かありましたか」
「まぁね」

 変に濁され、心にもやが落ちた。全てを把握するべき理由はない。なのに知りたくなる。

 ここ一ヶ月ほどで、私は多くの感情を経験した。とは言え、元々起伏が浅いせいで各々がとても薄くはある。ゆえに呼び名の分からない物ばかりだったが、確実に心に積もってゆくのは感じた。

「不幸になるのが嬉しいんでしょ、じゃあ遠慮してないで堂々と教えて下さいよ」

 強い口調で言い放つと、登起は僅かに戦く。だが、隠してはいなかったようだ。

「切られた」
「やっぱり」

 淡々と返事しながら、胸の内では痛みを感じている。自ら尋ねておいて傷付くなど、自分がよく分からない。

「あの、もうそろそろやめ「いやー新鮮だね! こんな体験できると思わなかったよ」
「え……」

 勝手に口を突いた言葉に、自分自身驚愕した。二重の意味での戸惑いが溢れる。一つ目はここまで来ても楽しげな彼に。二つ目は、関係を壊そうとした自分に。

「俺、色々なことがあって本当に楽しいよ。だから東堂さんも気を遣わず友だちでいてよ」

 改めて告げられ、混乱だらけの心身を一時停止した。

 そうだ。病に倒れたって、例え死んだって、それを彼が求めているなら良いじゃないか。そうだ、そもそも私といるのも不幸が提供されるからでーー。

「分かりました」

 心が強く痛んだ訳は、やっぱり理解できなかった。
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