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暗転
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翌日も、百円玉は置かれていた。新たなメッセージも残されている。
また、足音に気付けなかったようだ。
〝ちゃんと食べれていますか。いっぱいあげられなくてごめんね。また来ます〟
メッセージを目にした瞬間、ママの寂しそうな顔が浮かんできた。
やっぱりママは、私の事をまだ好きでいてくれている。けれど、私が駄目な子だから、迎えに来るか迷っているのかもしれない。
やっぱり、薔薇を買わなきゃ。私は良い子だと、ママがこんなにも大好きなのだと伝えなきゃ。
早速手に取り、空き缶に放り込む。体の違和感と引き換えに、聞こえた音は気持ち良かった。
空腹感を抑える為、出来るだけ動かずその場に留まった。ママの好きな小説の、好きなシーンを繰り返し読んで空想する。
頭がふわふわしたが、慣れた感覚ゆえ気にしなかった。
*
そのまま時間を過ごし、日を跨いだ。気付かない内に寝落ちたらしい。何だか、酷く喉が渇いている。
今日もまた、百円玉は置かれていた。メモはないけれど。
だが、これで目標数には到達した。やっと花を買いにいける。
缶の中の二枚と合わせる為、逆さまにして手に落とした。
――積もりが、過って床に落としてしまった。小さく音をたて、散乱した物の中へ滑ってゆく。
急いで取ろうと椅子から降りたが、その瞬間眩暈がした。体が床に落ちてゆく。衝撃を緩和する為、勢いよく付いた右手に衝撃が走った。
激痛に襲われ、そのまま横に倒れる。久々の痛みに――だが、今までより強い痛みに顔を歪めた。
自らの身に何が起こったか分からず、混乱だけが頭を埋める。
右手が痛い。喉が渇いた。心臓がドクドクと音を立てている。何が何だか分からない。
不図、一メートルほど先に煌く物が見えた。先程落ちた百円だ。混雑するものの中にある。
そうだ。ママに薔薇をあげるんだった。その為に我慢していたんだ。今更負けられない。
左手で這い、百円へ近付く。予想よりも長い距離に、心が折れそうになった。
だが、やっとの思いで辿りついた。左手を伸ばし、百円玉の上に被せる。
ぎゅっと握ろうとした矢先、視界の右端に違和感を感じた。チラリと見えたのは肌色だった。
誘われるよう、右側を見遣る。
「パパ……?」
――そこには人の手が、それも見覚えのある手があった。
背筋が凍りついた。視力の問題で、鮮明な輪郭は見えない。しかし、それでもパパの手であると確信出来た。
あれは、何度も私を殴りつけた手だ。
重なる非現実に、動揺は止まらない。とっさに百円を握り締めた手は震え、脳は事態の解明を求める。
轟く痛みを我慢しながら、パパのいる方へ進んだ。再確認も兼ね、恐る恐る触れてみる。
息が詰まった。その手は冷たく、固かった。
冷えた私の手より、遥かに――。
その状態は、いつかに小説で読んだ〝死〟の症状を彷彿とさせた。
もしかして、パパはずっと家に居た?
私が知らない間に、この状態になってた?
じゃあ、あの手紙は? パパが帰らない事を、ママは知ってたの?
もしかして、ママがパパを――?
激痛と空腹、加えて混乱が襲い掛かり、私の意識はそこで途絶えた。
百円玉を、強く握り締めたまま。
また、足音に気付けなかったようだ。
〝ちゃんと食べれていますか。いっぱいあげられなくてごめんね。また来ます〟
メッセージを目にした瞬間、ママの寂しそうな顔が浮かんできた。
やっぱりママは、私の事をまだ好きでいてくれている。けれど、私が駄目な子だから、迎えに来るか迷っているのかもしれない。
やっぱり、薔薇を買わなきゃ。私は良い子だと、ママがこんなにも大好きなのだと伝えなきゃ。
早速手に取り、空き缶に放り込む。体の違和感と引き換えに、聞こえた音は気持ち良かった。
空腹感を抑える為、出来るだけ動かずその場に留まった。ママの好きな小説の、好きなシーンを繰り返し読んで空想する。
頭がふわふわしたが、慣れた感覚ゆえ気にしなかった。
*
そのまま時間を過ごし、日を跨いだ。気付かない内に寝落ちたらしい。何だか、酷く喉が渇いている。
今日もまた、百円玉は置かれていた。メモはないけれど。
だが、これで目標数には到達した。やっと花を買いにいける。
缶の中の二枚と合わせる為、逆さまにして手に落とした。
――積もりが、過って床に落としてしまった。小さく音をたて、散乱した物の中へ滑ってゆく。
急いで取ろうと椅子から降りたが、その瞬間眩暈がした。体が床に落ちてゆく。衝撃を緩和する為、勢いよく付いた右手に衝撃が走った。
激痛に襲われ、そのまま横に倒れる。久々の痛みに――だが、今までより強い痛みに顔を歪めた。
自らの身に何が起こったか分からず、混乱だけが頭を埋める。
右手が痛い。喉が渇いた。心臓がドクドクと音を立てている。何が何だか分からない。
不図、一メートルほど先に煌く物が見えた。先程落ちた百円だ。混雑するものの中にある。
そうだ。ママに薔薇をあげるんだった。その為に我慢していたんだ。今更負けられない。
左手で這い、百円へ近付く。予想よりも長い距離に、心が折れそうになった。
だが、やっとの思いで辿りついた。左手を伸ばし、百円玉の上に被せる。
ぎゅっと握ろうとした矢先、視界の右端に違和感を感じた。チラリと見えたのは肌色だった。
誘われるよう、右側を見遣る。
「パパ……?」
――そこには人の手が、それも見覚えのある手があった。
背筋が凍りついた。視力の問題で、鮮明な輪郭は見えない。しかし、それでもパパの手であると確信出来た。
あれは、何度も私を殴りつけた手だ。
重なる非現実に、動揺は止まらない。とっさに百円を握り締めた手は震え、脳は事態の解明を求める。
轟く痛みを我慢しながら、パパのいる方へ進んだ。再確認も兼ね、恐る恐る触れてみる。
息が詰まった。その手は冷たく、固かった。
冷えた私の手より、遥かに――。
その状態は、いつかに小説で読んだ〝死〟の症状を彷彿とさせた。
もしかして、パパはずっと家に居た?
私が知らない間に、この状態になってた?
じゃあ、あの手紙は? パパが帰らない事を、ママは知ってたの?
もしかして、ママがパパを――?
激痛と空腹、加えて混乱が襲い掛かり、私の意識はそこで途絶えた。
百円玉を、強く握り締めたまま。
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