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一章
1-8 書物庫
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パラ…パラ…と本を捲る音がする。
フォートレス迷宮第5層『書物庫』
重厚な雰囲気を持つ書物庫の中央にはラウンジが設けられており、机や椅子が置いてある。
ただ、机は貧しい民家にある様な古びたもので、椅子は動くたびにギシギシと悲鳴をあげる。
そんな机には数冊の本が積まれ、椅子には浅く座り、背もたれに寄り掛かって本を読むアッシュの姿があった。
元々、机や椅子は部屋の雰囲気に合うものであったが、アッシュが力を失った事により、重要ではない家具は必要最低限の形にしか保っていない。
アッシュ自身そこまでインテリアに興味はないが、かつての仲間の1人で書物庫の司書をしていた"ダンダリウス"がこの惨状を見たら嘆くだろう。
力を取り戻したらインテリア類も元に戻そう。
そんな事を考えつつ、文字を目で追う。
今読んでいる本はもちろん「呪い」についてである。
自分にかけられた忌々しい呪いをどうにかして解こうとしている。
呪いの解除にはいくつかの方法があり、呪いをかけた術者を殺すことや相手を呪い返すこと、呪具を使って呪いを移すこと等がある。
その中でも『与奪の呪い』は比較的簡単な呪いのため、「呪返し」で解除することができる。
しかし、呪返しをする対象者が死んでいるため、解除する事が出来ない。
その中で別の方法は無いか調べているが思った様なものはなかった。
はぁ…とため息をつき、読み終えた本を棚にしまうため立ち上がる。
(何かあればと思ったがやはり無理か…。解く事は無理でも弱める事は出来るか?)
近くの本棚から別の呪いに関する本を探す。
書物庫は閉架式であり、所狭しと本棚が並んでいる。
保管されている本は3万冊を超える。
膨大な量の本はダンダリウスによって分類されているため、目当ての本はすぐに見つかる。
机に戻ると諸悪の根源がつまらなさそうに机の上で浮かんでいる。
「ねー。そんな本見たって意味ないよ。そんな事より魔術の練習しよーよ」
諸悪の根源であり、勇者でもあるカイルは霊体のため
ドアや壁をすり抜けることはできるが、物に触れることができない。
つまり、何も出来ず暇なのだ。
(こいつ、馴れ馴れしすぎではないか?)
アッシュはカイルを無視して椅子に座る。
「ねーねー。さっさと魔術覚えて男漁りに行こうーよ」
(こいつ、めんどくさすぎるぞ!)
カイルは暇なのだ。
「あっ、この本読みたい。読んでくれたら静かにするから」
「…、本当に静かにするんだろうな?」
それならばと思い、指さされた本を取る。
『初心者必見!あの子もチイコロ!男同士の潮吹きSEX術!』
教育に悪い本だった。
驚いて落としてしまった本が開かれる。
そこには鎖で繋がれた男の勃ちあがった性器を濡れた布で扱かれている絵が出てきた。
「ッ⁉︎」
急いで拾い上げる。
「へぇ、魔王様ってこれが趣味なんだ。見かけによらず激しいんだね」
(こいつ…)
カイルを睨みつけ、魔導書がある棚へ向かった。
「冗談だってば~。二人しか居ないんだから会話しようよ」
わざと項垂れるカイルは放っておき、2冊の本を手に取る。
「『土魔術』と『錬成魔術』ね。なかなか渋いの選ぶんだね。魔王だから『闇魔術』とか『星魔術』とか選ぶかと思った」
カイルが後ろから覗き込んでくる。
どちらの魔術も前の世界でアッシュが得意とするものであった。
なんで、なんでと煩く聞いてくるため、説明を始めた。
この時のアッシュは先ほどに比べて機嫌が良かった。
昔から魔術は好きであり、覚える事や人に教える事は嫌いではなかった。
そのため、いつもより口が軽くなる。
「確かにそれらの魔術は強力だが、習得するまでに時間がかかる。それに下位のものは使い勝手が悪い」
続けて、それらの魔術について説明する。
「『闇魔術』は「混乱」や「魅了」などといった補助魔術から「黒炎」や「暗黒」などの攻撃魔術まで幅広くあるが、初期に習得できるのは「暗やみ」と呼ばれる一瞬だけ辺りを暗くするだけである。
使い方によっては強いかもしれないが、その間に他の魔術を使った方が早い」
「『星魔術』は星の動きや位置によって様々な効果を発揮する。
超位まで習得出来たら疑似的に星を動かす事ができ、狙った効果を発動する事ができる。しかし、初期に習得できるのは「観測」のみであるため、実用性はほぼない」
カイルは黙って、うんうんと頷く。
「その点『土魔術』は初期の段階で「地質変化」を習得できる。
土を好きな状態に変える事ができる点は優秀だ。加えて、中位魔術の段階で土を操る事ができる点も素晴らしい」
「『錬成魔術』も初期の段階で覚える「ポーション精製」魔術が優秀だ。
魔力と薬草さえあれば作る事が出来る。
宝物庫に在庫はあるが有限であるからな。
現地調達できるのであれば、それに越した事はない」
「お~」
自慢げに語るアッシュに、カイルはパチパチと鳴らない手を合わせる。
それに、と付け加えてアッシュはまだ語る。
「この世界の強さの基準が分からない以上、戦闘は出来るだけ避けたい。
ポーション精製なら街で売って金にすることが出来る」
アッシュは語るだけ語り、本を手にする。
フォートレス迷宮第5層『書物庫』
重厚な雰囲気を持つ書物庫の中央にはラウンジが設けられており、机や椅子が置いてある。
ただ、机は貧しい民家にある様な古びたもので、椅子は動くたびにギシギシと悲鳴をあげる。
そんな机には数冊の本が積まれ、椅子には浅く座り、背もたれに寄り掛かって本を読むアッシュの姿があった。
元々、机や椅子は部屋の雰囲気に合うものであったが、アッシュが力を失った事により、重要ではない家具は必要最低限の形にしか保っていない。
アッシュ自身そこまでインテリアに興味はないが、かつての仲間の1人で書物庫の司書をしていた"ダンダリウス"がこの惨状を見たら嘆くだろう。
力を取り戻したらインテリア類も元に戻そう。
そんな事を考えつつ、文字を目で追う。
今読んでいる本はもちろん「呪い」についてである。
自分にかけられた忌々しい呪いをどうにかして解こうとしている。
呪いの解除にはいくつかの方法があり、呪いをかけた術者を殺すことや相手を呪い返すこと、呪具を使って呪いを移すこと等がある。
その中でも『与奪の呪い』は比較的簡単な呪いのため、「呪返し」で解除することができる。
しかし、呪返しをする対象者が死んでいるため、解除する事が出来ない。
その中で別の方法は無いか調べているが思った様なものはなかった。
はぁ…とため息をつき、読み終えた本を棚にしまうため立ち上がる。
(何かあればと思ったがやはり無理か…。解く事は無理でも弱める事は出来るか?)
近くの本棚から別の呪いに関する本を探す。
書物庫は閉架式であり、所狭しと本棚が並んでいる。
保管されている本は3万冊を超える。
膨大な量の本はダンダリウスによって分類されているため、目当ての本はすぐに見つかる。
机に戻ると諸悪の根源がつまらなさそうに机の上で浮かんでいる。
「ねー。そんな本見たって意味ないよ。そんな事より魔術の練習しよーよ」
諸悪の根源であり、勇者でもあるカイルは霊体のため
ドアや壁をすり抜けることはできるが、物に触れることができない。
つまり、何も出来ず暇なのだ。
(こいつ、馴れ馴れしすぎではないか?)
アッシュはカイルを無視して椅子に座る。
「ねーねー。さっさと魔術覚えて男漁りに行こうーよ」
(こいつ、めんどくさすぎるぞ!)
カイルは暇なのだ。
「あっ、この本読みたい。読んでくれたら静かにするから」
「…、本当に静かにするんだろうな?」
それならばと思い、指さされた本を取る。
『初心者必見!あの子もチイコロ!男同士の潮吹きSEX術!』
教育に悪い本だった。
驚いて落としてしまった本が開かれる。
そこには鎖で繋がれた男の勃ちあがった性器を濡れた布で扱かれている絵が出てきた。
「ッ⁉︎」
急いで拾い上げる。
「へぇ、魔王様ってこれが趣味なんだ。見かけによらず激しいんだね」
(こいつ…)
カイルを睨みつけ、魔導書がある棚へ向かった。
「冗談だってば~。二人しか居ないんだから会話しようよ」
わざと項垂れるカイルは放っておき、2冊の本を手に取る。
「『土魔術』と『錬成魔術』ね。なかなか渋いの選ぶんだね。魔王だから『闇魔術』とか『星魔術』とか選ぶかと思った」
カイルが後ろから覗き込んでくる。
どちらの魔術も前の世界でアッシュが得意とするものであった。
なんで、なんでと煩く聞いてくるため、説明を始めた。
この時のアッシュは先ほどに比べて機嫌が良かった。
昔から魔術は好きであり、覚える事や人に教える事は嫌いではなかった。
そのため、いつもより口が軽くなる。
「確かにそれらの魔術は強力だが、習得するまでに時間がかかる。それに下位のものは使い勝手が悪い」
続けて、それらの魔術について説明する。
「『闇魔術』は「混乱」や「魅了」などといった補助魔術から「黒炎」や「暗黒」などの攻撃魔術まで幅広くあるが、初期に習得できるのは「暗やみ」と呼ばれる一瞬だけ辺りを暗くするだけである。
使い方によっては強いかもしれないが、その間に他の魔術を使った方が早い」
「『星魔術』は星の動きや位置によって様々な効果を発揮する。
超位まで習得出来たら疑似的に星を動かす事ができ、狙った効果を発動する事ができる。しかし、初期に習得できるのは「観測」のみであるため、実用性はほぼない」
カイルは黙って、うんうんと頷く。
「その点『土魔術』は初期の段階で「地質変化」を習得できる。
土を好きな状態に変える事ができる点は優秀だ。加えて、中位魔術の段階で土を操る事ができる点も素晴らしい」
「『錬成魔術』も初期の段階で覚える「ポーション精製」魔術が優秀だ。
魔力と薬草さえあれば作る事が出来る。
宝物庫に在庫はあるが有限であるからな。
現地調達できるのであれば、それに越した事はない」
「お~」
自慢げに語るアッシュに、カイルはパチパチと鳴らない手を合わせる。
それに、と付け加えてアッシュはまだ語る。
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