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終章
79(最終話)
秋の朝は肌寒く、少しだけ雨の予感があった。
母は残念そうに私を可哀相な花嫁と呼んだけれど、内心、曇り空が嬉しかった。
王都の大聖堂。
正午の鐘が鳴り響く。
多くの参列者に見守られながら、私は、父と腕を組み祭壇までの細い道をゆっくりと進んでいく。
私は、愛されて育った。
いつも大きくて深い愛に守られて生きてきた。
今、私も愛することを知る。
大勢の貴族が集まる中、私の友人であるファロンはメリーポート伯爵家とマッカラーズ伯爵家の人たちと共に、とてもいい位置に陣取っていた。クレアがおめかししている。いつにも増して、とても可愛い。
シュテルン伯爵とアンジェリカの姿もある。
アンジェリカは記憶が無い為、無垢な笑顔で私を見つめていた。それは花嫁に対する一般的な憧れと純粋な祝福が零れる美しい笑顔だ。
末席の方には貴族ではない参列者が固まっていた。
皆マルムフォーシュ伯爵と所縁のある人たちで、ベインズ一家の姿もあった。
アリッサが熱の篭った眼差しで私を見てしきりに頷いているのが見えた。きっと、心の中で繰り返しお祝いの言葉を言ってくれていて、それにあわせて首が動いてしまっているのだろう。
ライリー提督の姿はないけれど祝辞が届けられている。
バムフォード辺境伯はクレヴァリー子爵家と連名で大量のお祝いを贈ってくれてはいるけれど、添えられた手紙の方が遥かに重要であることは疑うまでもない。
此方の新婚旅行の日程に合わせて丁度良くバムフォード城に滞在できる頃、自分たちも結婚式を挙げるとのこと。
フレッカー伯爵が花冠を頭に乗せて参列している姿を見てしまった時には、内心、笑いを堪えるのが大変だった。別に笑うことでもないけれど、とにかく見た目は面白い。
私と一緒に作った花冠は、当然ながらとっくに枯れて朽ちている。今日この日の為に作り、私へのメッセージとして頭に乗せて参列してくれたのだ。可愛い人である。
可愛い人といえばチャムレー伯爵を忘れてはいけない。
多くの貴族に紛れてはいるけれど、親戚のような顔をしている。そのあたたかく親しみに溢れる笑顔は、私に、愛と勇気と夫婦の絆を教えてくれる。
見慣れないながらも目について仕方ない、毒々しい華美な雰囲気を醸し出しているのは恐らくパッテンデン侯爵だろう。
パッテンデン侯爵からは、結婚祝いと称してサルヴァゲート近くの別荘を頂いている。旅先に拠点があるというのは、強ち、いいことなのかもしれない。
オースルンド伯爵家はノルディーン公爵家と共に、王家に次ぐ席に着いている。
そしてそこには、今日、この日、真昼でも参列してくれたフォーシュバリ侯爵夫妻もいた。
ユーリアとラルフ卿なしでの結婚式なんて考えられなかった。
私は夕刻以降の時間、夜でもいいと申し出たけれど、ユーリアが頑として譲らなかった。カタリーナは人間の女の子なのだからお昼に結婚するのよ、と。
だから、雨の多い時期を選んだ。
曇り空なら、ユーリアとラルフ卿の負担も減るだろうから。
二人は蒼白い顔に優しい微笑みを浮かべている。
そして、祭壇の前で待っていてくれた人の元に、辿り着いた。
「……」
父の手を離れ、彼の元へ。
ドグラスの隣へ。
私は今日、愛する人の妻になる。
「汝、病めるときも健やかなるときも────」
結婚の誓いを執り成すのは、普段は王宮礼拝堂で祈りを捧げているという年配の司祭だった。厳かな声に優しさが滲んでいる。
ドグラスと私が順に誓いを述べると、次は、誓いのキスだった。
向かい合う。
ドグラスが、今日はいつもより素敵に見える。でも、きっと、お互い様だ。
そっとベールが上げられた。
優しい微笑みに迎えられる。
愛する人の隣に、辿り着いた。
これからは二人で一つの人生を歩む。病めるときも、健やかなるときも。
「誓いのキスを」
死が二人を、別つまで?
「……」
いいえ。
「永遠に愛してる」
誓いの言葉を吐息にのせて、キスを。
その瞬間、彼も甘く囁いた。
「俺もだよ」
母は残念そうに私を可哀相な花嫁と呼んだけれど、内心、曇り空が嬉しかった。
王都の大聖堂。
正午の鐘が鳴り響く。
多くの参列者に見守られながら、私は、父と腕を組み祭壇までの細い道をゆっくりと進んでいく。
私は、愛されて育った。
いつも大きくて深い愛に守られて生きてきた。
今、私も愛することを知る。
大勢の貴族が集まる中、私の友人であるファロンはメリーポート伯爵家とマッカラーズ伯爵家の人たちと共に、とてもいい位置に陣取っていた。クレアがおめかししている。いつにも増して、とても可愛い。
シュテルン伯爵とアンジェリカの姿もある。
アンジェリカは記憶が無い為、無垢な笑顔で私を見つめていた。それは花嫁に対する一般的な憧れと純粋な祝福が零れる美しい笑顔だ。
末席の方には貴族ではない参列者が固まっていた。
皆マルムフォーシュ伯爵と所縁のある人たちで、ベインズ一家の姿もあった。
アリッサが熱の篭った眼差しで私を見てしきりに頷いているのが見えた。きっと、心の中で繰り返しお祝いの言葉を言ってくれていて、それにあわせて首が動いてしまっているのだろう。
ライリー提督の姿はないけれど祝辞が届けられている。
バムフォード辺境伯はクレヴァリー子爵家と連名で大量のお祝いを贈ってくれてはいるけれど、添えられた手紙の方が遥かに重要であることは疑うまでもない。
此方の新婚旅行の日程に合わせて丁度良くバムフォード城に滞在できる頃、自分たちも結婚式を挙げるとのこと。
フレッカー伯爵が花冠を頭に乗せて参列している姿を見てしまった時には、内心、笑いを堪えるのが大変だった。別に笑うことでもないけれど、とにかく見た目は面白い。
私と一緒に作った花冠は、当然ながらとっくに枯れて朽ちている。今日この日の為に作り、私へのメッセージとして頭に乗せて参列してくれたのだ。可愛い人である。
可愛い人といえばチャムレー伯爵を忘れてはいけない。
多くの貴族に紛れてはいるけれど、親戚のような顔をしている。そのあたたかく親しみに溢れる笑顔は、私に、愛と勇気と夫婦の絆を教えてくれる。
見慣れないながらも目について仕方ない、毒々しい華美な雰囲気を醸し出しているのは恐らくパッテンデン侯爵だろう。
パッテンデン侯爵からは、結婚祝いと称してサルヴァゲート近くの別荘を頂いている。旅先に拠点があるというのは、強ち、いいことなのかもしれない。
オースルンド伯爵家はノルディーン公爵家と共に、王家に次ぐ席に着いている。
そしてそこには、今日、この日、真昼でも参列してくれたフォーシュバリ侯爵夫妻もいた。
ユーリアとラルフ卿なしでの結婚式なんて考えられなかった。
私は夕刻以降の時間、夜でもいいと申し出たけれど、ユーリアが頑として譲らなかった。カタリーナは人間の女の子なのだからお昼に結婚するのよ、と。
だから、雨の多い時期を選んだ。
曇り空なら、ユーリアとラルフ卿の負担も減るだろうから。
二人は蒼白い顔に優しい微笑みを浮かべている。
そして、祭壇の前で待っていてくれた人の元に、辿り着いた。
「……」
父の手を離れ、彼の元へ。
ドグラスの隣へ。
私は今日、愛する人の妻になる。
「汝、病めるときも健やかなるときも────」
結婚の誓いを執り成すのは、普段は王宮礼拝堂で祈りを捧げているという年配の司祭だった。厳かな声に優しさが滲んでいる。
ドグラスと私が順に誓いを述べると、次は、誓いのキスだった。
向かい合う。
ドグラスが、今日はいつもより素敵に見える。でも、きっと、お互い様だ。
そっとベールが上げられた。
優しい微笑みに迎えられる。
愛する人の隣に、辿り着いた。
これからは二人で一つの人生を歩む。病めるときも、健やかなるときも。
「誓いのキスを」
死が二人を、別つまで?
「……」
いいえ。
「永遠に愛してる」
誓いの言葉を吐息にのせて、キスを。
その瞬間、彼も甘く囁いた。
「俺もだよ」
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