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「おめでとう、エスター。とっても綺麗よ」

ミシェルが心からのお祝いを込めて言ってくれる。もう何度目かわからない。

「ありがとう。でも、まだ式はこれからよ」
「私、泣いちゃうかも」
「いいわ。私もあなたとクリスの結婚式で号泣してあげる」
「どうかな。エスターよりクリスが泣きそう」
「それはそうね」

従兄のクリスとは兄妹のように育った。母親同士が仲のいい姉妹だったからだ。私は一人っ子だけれど、クリスがミシェルに恋した頃から、私にも妹ができたようで嬉しかった。

あの日から、ミシェルと私は姉妹のように思い出を積み重ねてきた。今日、私の付添人を務めてくれるとしたらそれは彼女をおいて他にはいない。

気の強いミシェルは最後までこの結婚に反対していたけれど。

「ミシェル」
「!?」

扉の向こうから掛けられた声にミシェルは血相を変えて椅子から飛び上がった。

「ルシアン!?何考えてるの!?神聖な結婚式よ!?花婿は花嫁に会っちゃいけないの!」

ミシェルが扉に向かって怒りをぶちまけている。
小柄で可愛らしいミシェルがどんなに気が強くても、その愛らしさからただ可愛くしかない。

私は笑顔でミシェルを見上げていた。
結婚式まであと僅か。私はウェディングドレスに身を包み、あとはベールを被るだけの状態で鏡台の前に座っている。

「エスターに会いに来たんじゃない。ミシェル、フィギス伯爵が呼んでる」
「お父様が?どうして本人が来ないのよ」
「知らないよ」

二人の喧嘩が始まる。困ったものだけれど、いつも通りの光景が結婚式当日にも見ることができて嬉しい。

扉の向こうにルシアンがいるのだと思うと更に嬉しい。
私たちは今日、結ばれる。

「行って来て」
「ごめんね?お父様って短気だから」
「今すぐ行って」
「すぐ戻るからね」

私の額にキスをするとミシェルが控室を飛び出していった。そして扉の向こうでルシアンと短い口論をして、やっぱり走っていった。足音でわかる。

私は鏡の中の自分を見つめた。
若く、美しく、幸せな、花嫁。私は自分へと微笑んだ。

あなたは幸せになる。
そう亡き母が言ってくれている気がした。

その瞬間に扉が開いた。ミシェルにしては早すぎた。はっとして扉へと振り返ると思わぬ人物が控室に滑り込んだ。

「ルシアン……!」

慌てて立ち上がり一度は駆け寄ろうとした。けれどよくないと思い直した。私が後ずさった分、彼は入って来た。

「いけないわ。結婚式では本当に私たち──」
「聞いて」

ルシアンが私を遮り、思いがけない事を口にする。

「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら、エスター」
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