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「はぁぁぁぁ」

姉が盛大に溜息をついた。
まるで私が妄言でも吐いて一人で騒いでいるかのように、心底呆れている様子だ。
それが更に笑いを誘う。

姉は知らないのだ。
婚約期間のそのほとんどで、エディが心から愛していたのはこの私だということを。

一度項垂れてから、姉はやや疲れた表情で私に問いかける。

「エディが好きなの?」

この余裕はいったいどこから湧いてくるのだろう。
まさかエディの愛が自分に注がれているなどと本気で思っていたのだろうか。

思っていたのだろう。
エディとの婚約発表は寄宿学校時代に行われたため礼拝堂で執り行われた。神に誓った愛だから絶対だというのが枯木婆たちの主張だ。

「当然よ!エディは素敵だもの」
「だったら、あなたも少しは貴族の令嬢らしくして、善い方の求婚を待ちなさい」
「話聞いてた?待つ必要なんかない。もう充分待った。一年みっちり待ったわよ。お姉様のせいで私の時間が無駄になったの。謝ってもらいたいくらいだわ」

本心では姉からの謝罪など求めていない。
私はただ、敗北に歪む惨めな姉の顔が見たかった。

ずっと、ずっと、私は姉の影に閉じ込められていた。
いつも基準は姉のイーリスで、イーリスではないという理由で私は馬鹿にされ、蔑ろにされてきた。

イーリスを見習え。
イーリスに従え。

イーリス。
イーリス。
イーリス。

姉は私にとって只の呪いでしかない。
いっそ死んでくれればいいのにと何度も願った。

でも、ケチな神様は自分を崇拝する姉の方ばかり優遇した。

そんな暗黒時代は突如終わったのだ。

きっかけは同室の子爵令嬢の一言だった。

「でも、ノーラの方が美しいわ」

あの日、小さな手鏡の中に見つけた真実は、私の生きる糧となった。

真実。
それは、姉のイーリスより妹である私の方が美しいと言う事。
女としての価値があるのは、私の方であるという事。

「私の方が美しく成長すると知っていれば、お父様やお母様だってエディをお姉様になんかあげなかったでしょうね」
「何か変な物でも拾って食べたの?」
「そうやって馬鹿にしているがいいわ。今夜、愛を失ったお姉様は泣きながら眠れぬ夜を過ごすのよ!その頃私はエディと甘く愛しあうんだから!」
「……」

来た。
いつもの、無言の凝視。

姉のヘーゼルの瞳が人形のように微動だもせず私を見据える。

人差し指と中指をぐいっと突っ込んでかき回してやりたいと何度思った事か。

「ふ、ふふふ……きゃははっ!」

そんな気持ち悪い事をやらなくても、私は姉に復讐できる。

完璧な婚約者の心を奪い取られた姉のプライドはズタズタになるだろう。
それは、只でさえ輝きの乏しい姉の瞳を絶望の色で染め上げ、二度と人前に出て来られないだけの屈辱となるはずだ。

勝った。
私はついに姉イーリスを踏みつけ、この美貌一つで愛と幸せを手に入れるのだ。
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