1 / 26
1
しおりを挟む
「見て!このドレス素敵でしょう?お姉様」
「そうね」
鏡を覗き込み身支度を整えていた姉のイーリスが、無表情のまま生返事している。
そんなに必死で見つめていても美人になれるわけでもないのに。
私はこの姉が大嫌いだった。
何をされたわけでもないが、真面目で勤勉で、見ているだけで息苦しくなる。しかも姉本人はそれが美徳とでも思っている様子で、価値観の違う私をまるで奇妙な生き物でも見るように無言で凝視するものだから不気味でしかない。
私から言わせてもらえば、姉は生まれた瞬間から老婆だ。
人生は楽しむためにあるというのに、常に、人に褒められる死を迎える準備をしている。
二つ違いの姉とは、五年間、修道院の運営する寄宿学校で教育を受けたのだが、あれが姉の最盛期だっただろう。
シスターに持て囃され、貴族令嬢のお手本として持ち上げられ、求婚が殺到し、ノルドマン伯爵家の令息エディと婚約した。
姉には勿体ない素敵な男性だった。
「今日、エディをいただくわ」
私は姉に宣言した。
姉は鏡の中で硬直し、それからゆっくりとこちらに振り向いた。
「ノーラ。正気?」
こういうところが本当に嫌い。
私は言ってやった。
「ええ。だって、正直お姉様には勿体ない男性だもの」
「……」
「神話に出てくる天使のような美しいお顔に、絶えず注がれる優しい笑顔、上品だけどユーモアもあって、決して私を馬鹿にしない」
「オペラの主役気取りね」
「そう。私こそが主役!お姉様が舞台の真ん中に立っていたって誰も喜ばないわ」
「現実はそう甘くないのよ」
私は姉に人差し指を突き立てた。
「僻んでんじゃないわよ、ブス!」
同じ親から生まれてきたのだから実際はそこまで醜いわけではない。
人によっては整った顔立ちに見えるだろうし、私という存在がなければ決定的な老化が見られるまで美女のつもりでいても個人の自由と言えるだろう。
どうせ他人はあれこれ言うものだ。
只、神様は私に美貌を与えた。
美しい私こそエディには相応しいのだ。
「エディだって『実物を見てがっかりした』って言ってたのよ。そりゃそうよね。神との結婚なんて嘯いて女としての魅力がない自分から目を逸らしたお婆ちゃんたちの集まりだもの、そんな枯木婆たちが褒めちぎるお姉様がまともな人の目に美しく映るわけないじゃない!悪いけど、お姉様には墓守くらいがお似合いよ」
「はしたない。口を慎みなさい」
「命令しないで!」
つい大声をあげてしまった。
次の瞬間、笑いが洩れた。
「?」
姉は怪訝な顔をして僅かに首を傾げている。
いつまで余裕ぶっていられるだろうか。見物だ。
なぜなら……
「私は趣味でおめかししたわけじゃないのよ。エディはね、今日、お姉様とお別れしてこの私に求婚するの!」
「そうね」
鏡を覗き込み身支度を整えていた姉のイーリスが、無表情のまま生返事している。
そんなに必死で見つめていても美人になれるわけでもないのに。
私はこの姉が大嫌いだった。
何をされたわけでもないが、真面目で勤勉で、見ているだけで息苦しくなる。しかも姉本人はそれが美徳とでも思っている様子で、価値観の違う私をまるで奇妙な生き物でも見るように無言で凝視するものだから不気味でしかない。
私から言わせてもらえば、姉は生まれた瞬間から老婆だ。
人生は楽しむためにあるというのに、常に、人に褒められる死を迎える準備をしている。
二つ違いの姉とは、五年間、修道院の運営する寄宿学校で教育を受けたのだが、あれが姉の最盛期だっただろう。
シスターに持て囃され、貴族令嬢のお手本として持ち上げられ、求婚が殺到し、ノルドマン伯爵家の令息エディと婚約した。
姉には勿体ない素敵な男性だった。
「今日、エディをいただくわ」
私は姉に宣言した。
姉は鏡の中で硬直し、それからゆっくりとこちらに振り向いた。
「ノーラ。正気?」
こういうところが本当に嫌い。
私は言ってやった。
「ええ。だって、正直お姉様には勿体ない男性だもの」
「……」
「神話に出てくる天使のような美しいお顔に、絶えず注がれる優しい笑顔、上品だけどユーモアもあって、決して私を馬鹿にしない」
「オペラの主役気取りね」
「そう。私こそが主役!お姉様が舞台の真ん中に立っていたって誰も喜ばないわ」
「現実はそう甘くないのよ」
私は姉に人差し指を突き立てた。
「僻んでんじゃないわよ、ブス!」
同じ親から生まれてきたのだから実際はそこまで醜いわけではない。
人によっては整った顔立ちに見えるだろうし、私という存在がなければ決定的な老化が見られるまで美女のつもりでいても個人の自由と言えるだろう。
どうせ他人はあれこれ言うものだ。
只、神様は私に美貌を与えた。
美しい私こそエディには相応しいのだ。
「エディだって『実物を見てがっかりした』って言ってたのよ。そりゃそうよね。神との結婚なんて嘯いて女としての魅力がない自分から目を逸らしたお婆ちゃんたちの集まりだもの、そんな枯木婆たちが褒めちぎるお姉様がまともな人の目に美しく映るわけないじゃない!悪いけど、お姉様には墓守くらいがお似合いよ」
「はしたない。口を慎みなさい」
「命令しないで!」
つい大声をあげてしまった。
次の瞬間、笑いが洩れた。
「?」
姉は怪訝な顔をして僅かに首を傾げている。
いつまで余裕ぶっていられるだろうか。見物だ。
なぜなら……
「私は趣味でおめかししたわけじゃないのよ。エディはね、今日、お姉様とお別れしてこの私に求婚するの!」
154
あなたにおすすめの小説
【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
夏灯みかん
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。
妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。
もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?
当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。
ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。
対して領民の娘イルアは、本気だった。
もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。
けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。
誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。
弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
【完結】あなたが妹を選んだのです…後悔しても遅いですよ?
なか
恋愛
「ローザ!!お前との結婚は取り消しさせてもらう!!」
結婚式の前日に彼は大きな声でそう言った
「なぜでしょうか?ライアン様」
尋ねる私に彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべ
私の妹マリアの名前を呼んだ
「ごめんなさいお姉様~」
「俺は真実の愛を見つけたのだ!」
真実の愛?
妹の大きな胸を見ながら言うあなたに説得力の欠片も
理性も感じられません
怒りで拳を握る
明日に控える結婚式がキャンセルとなればどれだけの方々に迷惑がかかるか
けど息を吐いて冷静さを取り戻す
落ち着いて
これでいい……ようやく終わるのだ
「本当によろしいのですね?」
私の問いかけに彼は頷く
では離縁いたしまししょう
後悔しても遅いですよ?
これは全てあなたが選んだ選択なのですから
王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!
ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。
なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。
【完結】何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので魔法で言えないようにしてみた
堀 和三盆
恋愛
「ずるいですわ、ずるいですわ、お義姉様ばかり! 私も伯爵家の人間になったのだから、そんな素敵な髪留めが欲しいです!」
ドレス、靴、カバン等の値の張る物から、婚約者からの贈り物まで。義妹は気に入ったものがあれば、何でも『ずるい、ずるい』と言って私から奪っていく。
どうしてこうなったかと言えば……まあ、貴族の中では珍しくもない。後妻の連れ子とのアレコレだ。お父様に相談しても「いいから『ずるい』と言われたら義妹に譲ってあげなさい」と、話にならない。仕方なく義妹の欲しがるものは渡しているが、いい加減それも面倒になってきた。
――何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので。
ここは手っ取り早く魔法使いに頼んで。
義妹が『ずるい』と言えないように魔法をかけてもらうことにした。
【短編】婚約解消を望もうとも、婚約者から言葉を聞かない限りは応じませんわ
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
伯爵令嬢のディアナ・アルヴィエは実家と絶縁し、婚約者であるアーレントの実家である辺境領の屋敷で暮らしていた。魔物討伐や結界の管理などを担う即戦力としていたディアナは、アーレンが成人したら結婚する。
はずだった。
王都に突如現れた黒竜討伐へと赴いた婚約者アーレンと様の部下だと名乗る使いから婚約解消の知らせが届く。それと同時に辺境地の結界に亀裂が入り、答え合わせは後回しとなるのだが、同時にカルト集団の奇襲を受けてしまい──!?
両親に愛されなかった令嬢が幸せを受け入れるまでのお話。
年下情緒不安定ヤンデレ騎士×自尊心の低い年上大魔法使いのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる