王女様、それは酷すぎませんか?

希猫 ゆうみ

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夏の訪れを思わせる昼日中の草原を豪奢な馬車が駆けてくるのを見た時、私はふと違和感を覚えた。
更にその馬車に王家の紋章を確認し、城門を越えて来た時、胸騒ぎに襲われた。

そして王家の馬車から私の婚約者であるシェロート伯爵令息ウィリスが降り立った時、嫌な予感はより実態を伴った。

ウィリスは続いて馬車から下りてくる人物の手を恭しく支え、ソフィア王女を此処ビズマーク伯爵家へと招き入れた。

今、応接室にて私は父ビズマーク伯爵と並んで座り、ソフィア王女の揺るぎない眼差しに晒されている。

「率直に申し上げましょう」

ソフィア王女は艶めく豊かな黒髪とはちみつのような深い琥珀色の瞳を持つ、印象的な美しさを纏う姫君だ。
やや長身で均整の取れた体形はあらゆるドレスを着熟し、ハルトルシア王国の多くの貴族令嬢の憧れを集めている。

私は人間として種類が違うと自覚している為、憧れることはなかったが……

「私はウィリスを愛しています」

婚約者のウィリスを奪われるとは予想もしていなかった。
ウィリスはソフィア王女の隣で私を突き放すような冷たくも真剣な表情を浮かべている。

「勿論、ウィリスがビズマーク伯爵の一人娘ヒルデガルドの婚約者であることは承知しております」

ソフィア王女は父の隣にいる私を一瞥したのみで、以降、父にのみ語り掛けた。
父は突然の女王来訪とそれに重なる告白に絶句している。

「その上で、私はウィリスが私を愛したことや、その為にヒルデガルドとの婚約を反故にすることについて、批判を浴びるなど耐え難い屈辱と考えています」

このような話が私にとって屈辱的かどうか、ソフィア王女は考慮しているのだろうか。

「けれど私も情け容赦のない悪魔ではありません。ヒルデガルドには相応の手切れ金を用意させて頂きました」

既に決定していた私の処遇に驚き、言葉もない。
併し相手は王女であり、逆らうことは許されない。

私は何も言い返さない父について薄情とも無能とも思わなかった。この時は、まだ。

「ヒルデガルドが婚約を破棄されるだけの罪を犯し、傷ついたウィリスを私が慰め、純粋な美しい愛が芽生えたことにします。ヒルデガルドの評判は地に落ち、先の人生は無いも同然です」
「……!?」

婚約者を奪われるだけに留まらず、在りもしない汚名を着せられる。
そう察した私は全身から汗が噴き出し、生理的な涙が込み上げるのを自覚していた。

「一生を贖う大金です。どうぞお受け取りください。さて、もうも済んだでしょう。お話は以上です」
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