王女様、それは酷すぎませんか?

希猫 ゆうみ

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一方的な話を終えて早速腰を上げたソフィア王女がウィリスの肩に美しい手を添えた。

「ウィリス。あなたも最後の御挨拶をなさったら?ヒルデガルドはもう二度と表に顔を出せなくなるから、これが最後の機会になるわ」
「……!」

冗談ではない。
私は婚約者を奪われる側であり、何ら罪を犯していないというのに、二度と表に顔を出せないとはどういう意味だろうか。

「恐れ入ります、殿下。娘は──」

父が問い質そうとしたが、その言葉尻をウィリスが奪った。

「親に勧められて君に求婚した。君は敬虔で清楚で立派な令嬢だから善い妻になっただろう。だが僕が勿体なかった。ソフィア王女に愛される僕に君は不釣り合いだ」

ウィリスの侮辱に私も父も改めて言葉を失ったように思う。

金髪碧眼の美青年であるウィリスが王女に見初められるという話は納得できる。
併し、ウィリスは私に愛を囁いた日が確かにあったし、私も愛しあっていると思っていた。
平凡な私の亜麻色の髪を綺麗だと言って撫でたし、黄みがかった緑色の私の瞳を〝僕の宝石〟と言って何度も愛しそうに覗き込んでいた。

私への愛は、王女に見初められた瞬間、塵のように捨てられたのだ。

「僕は君を充分愛した。そして一生を保証されるんだ。僕を恨まず、感謝してほしい」

ウィリスが勝ち誇ったように微笑んでいる。
私が幾度も見惚れた微笑みが今、私を侮辱している。

「さようなら、ヒルデガルド」
「見送りは?」

椅子の上で固まっていた父をソフィア王女が眉を顰めて促した。
父は慌てて立ち上がり、私もそれに続く。

嘘だと言って欲しかった。
見下げ果てる程に馬鹿げた冗談だとしても、気の迷いから来る呆れるような冗談であって欲しかった。

そうでなくてもウィリスが思い直してくれはしないかと思ってしまった。

併し、王家の馬車から下ろされた蓋の開いた五つの木箱には、金貨と宝石が顔を覗かせていた。
門前で呆然と立ち尽くす私にウィリスは冷笑だけを残し、馬車の扉の脇に立ってソフィア王女に手を差し伸べる。

「受け取ってくれるわね?」
「……はい」

ソフィア王女の囁きに近い問いかけに、父が呆然と宙を見ながら答えた。
私は悔しくて、ドレスの襞を握りしめながら込み上げる涙を必死で堪えた。

「喜んで頂けてよかったわ、ビズマーク伯爵。あなたは正しい選択をなさったのよ」

ウィリスの手を取りながらソフィア王女が馬車に乗り込もうと右足を上げる。
その時、父が動いた。

「殿下。娘は、どのような罪を犯したのでしょうか?祈る為には罪を知らなくてはなりません」

ソフィア王女は肩越しに振り向き、嫣然と微笑んで言った。

「男娼を買い淫欲に溺れたのです」

そして馬車に乗り込み去っていった。
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