王女様、それは酷すぎませんか?

希猫 ゆうみ

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造船所の上役らしき男から馴染みの娼館の場所を聞き出した私は、翌日、娼館に赴き女主に尋ねた。

「国内で一番の男娼を買える店は何処でしょう?」

怪訝な顔をされたり警戒されたりしながらも、店から客を、客から店を紹介してもらい、六軒目で当たりを引いた。

街道から少し外れた川の近くに《ユフシェリア》と呼ばれる館があり、見目麗しい高級男娼が贅沢三昧な暮らしを営んでいるという。

「どこかの御令嬢とお見受けしますが、火遊びにはお金がかかりますよ?」
「お金ならあります。どうもありがとう」

私は男娼の館《ユフシェリア》へ向かった。

なだらかな馬車道を進む馬の足取りはどことなく呑気で、広大な青空に包まれた一面の草原や美しい川面の煌めき、瑞々しい若葉の匂い、水の匂い、すべてが完璧だった。

点々と群れを成して咲いている色とりどりの野花が美しい。
美しいと思えるだけの心がまだあることに、私は我ながら静かな驚きを覚える。

この先に冒涜的な甘い悪魔の美酒を堪能するための罪深い館が待ち構えていようとは思えない。

長閑な旅の最中に、貴族の別邸とも見て取れる優美な館がぽつんと在った。
川面に沿った旅路の、清らかな草花や、大空。
全てが特別な思い出の為に入念に準備された風景なのだ。実際は土地を選び建てただけのことだろうが、そう思わされる。

私が所在を訪ね回ったそれぞれの娼館は、見るからに妖しい佇まいの建物もあったし、一見そうと見えない簡素な建物も、明らかに贅を凝らした華美な建物もあった。

男娼の館《ユフシェリア》はそれらと明確な違いがある。

宮殿とまではいかないにしろ、白く輝く外壁は女心を擽る輝きを放ち、丸みを帯びたバルコニーの手摺りなど造形美にも拘りを見て取れる。

柱と柱の間には異国から持ち込んだのか見慣れない陶磁器の鉢植えが規則性を欠いて並んでいるものの、全体的なバランスが取れているから不思議だ。
お仕着せを着た若い男が花の手入れをしている。彼も男娼だろうか。

庭園の代わりに館そのものが豊かな草花に囲まれ、屋根は清々しくも優しい空の色。
凡そ淫らな欲望を満たそうと人目を忍んで通うような場所には見えない。

私の乗る馬車がただ通り過ぎるわけではないと察したのか、花の手入れをしていた男が此方を振り返りながら館の中に消えた。

私は馬車を降り、相場の倍の代金を払い帰した。
娼館がどのような機能を果たすか、男女で差があるのか知らないが、持成した客に帰りの馬車の一つも用意しないということはないだろう。

私は汚れた令嬢、ビズマーク伯爵家のヒルデガルドだ。
婚約者を失う程の上客だ。

存分に持成して貰おう。

花に囲まれた可愛らしい石畳は最後の躊躇いを試すように二回、曲がりくねった。
私はドレスの裾に気を配りつつ低い階段を上がりきり、白い扉を叩いた。
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