王女様、それは酷すぎませんか?

希猫 ゆうみ

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玄関扉の外の緩やかな階段を半ば転げ落ちるようにして数歩進んだ私は、ついに膝から崩れ落ちた。

心臓が恐ろしく早鐘を打ち、体中から変な汗が噴き出している。
耳の奥からキンキンと異様な細い音がして、首筋がちりちりと焦げ付くように痺れていた。

私は右手で胸を押さえ、左手で口を覆った。
生理的な吐気ではない。狼狽のあまり奇声を上げてしまいそうな気がするにはするけれど、とにかく口を覆わずにはいられなかった。

「……っ」

とんでもないところに来てしまった。
娼館も昼に巡ったが、騒がしくても静かでも営業準備中という様子で、すぐそこで行為に及んでいる雰囲気など皆無だった。

今も、清々しい昼下がりの風に吹かれ、私は震えている。
この館の中で、すぐ近くで、行為に及びはしたない声を上げている女がいる。

一人で行為に及んでいるわけではないだろう。
男が娼婦を買ってするように、女も男娼を買ってしているのだろう。するべきことを。

「……!」

私は男娼の館の前で頭を抱えた。
男娼を買い淫欲に溺れる汚れた令嬢というのは、人々の中であのイメージなのだ。

「……」

まだ陽も高いうちから、節操もなく、貞操観念の欠片もなく、自身を奴隷や人形と卑下する美形の平民の男を買い、体を触れ合わせ、神が夫婦間のみ許した特別な誓いの行為を冒涜し、肉欲に耽る。

「……」

それがなのだ。

「…………馬鹿ね」

心が凪いだ。
すっかり取り乱してしまったが、泣こうが喚こうが命を賭して訴えようが、ソフィア王女とウィリスの美しい愛の物語は覆らない。

汚れた私は、二度と、元には戻らない。

私は立ち上がるとドレスの裾を叩き、振り返り、再び《ユフシェリア》の緩く短い階段を上がった。

ああ、まるで処刑台!

もう元には戻れない。
この扉を開ける。中には男娼がいる。貴族の女に金を貰い奉仕する生き方を選んだ未知の存在が笑っている。

「──」

何故?

再び扉に触れた瞬間、ふと、疑問が過る。
彼らは何故。彼女たちは何故。

併しそのようなことは今の私には関係ないと、彼と再び見つめ合いながら悟る。

彼は同じ場所に佇み、扉が開かれ徐々に内部が認められる最初の瞬間から此方を見ていた。
私が再び戻ると知っていたかのように。私を待っていたかのように。

そういう仕事だとしても、……違う、だからこそ彼は美しかった。
美しい碧い瞳で私を見ていた。

私が買う、男娼が。

私は息を整え戸惑いを散らす瞬きを繰り返しながら館の中へ入り直すと、自らの意思で扉を閉めた。彼はもう笑ってはいなかった。唖然としていた。私もだ。

さらりと頬にかかる美しい金髪。
透き通る碧い瞳。

ウィリスを思い出させる美しい青年がそこにいた。
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