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51(ニコラス)
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順に逮捕された妹の取り巻き貴族を尋問しているうちに奇妙な証言が取れた。
私は妹の私室を訪ねた。元は母の侍女であったホリー夫人同席のもと王女の尋問を続けている。
「お前に一つ聞きたい」
「……」
妹はこちらに背を向け頑なに口を鎖している。
最近、食事のせいか全身に肉がついてきた。細かった肩はやや丸みを帯び、ドレスの曲線も一回り大振りになったように見える。平たく言うと太ってきたのだ。
「ビズマーク伯爵令嬢ヒルデガルドを再び貶める計画を指示したのは、お前か?」
「?」
ホリー夫人が反応した。
沈黙を貫こうとする妹の前方へ回り込み、厳しい視線で返答を促している。
妹がゆっくりと此方を向いた。
「……」
私を睨みつける眼差しは以前より昏く、何より顔そのものが不健康に変貌している。
元が細身だっただけに頬から顎にかけて肉がたるみ、その顔自体が昼夜区別ない締め切った幽閉生活によって時間の感覚を失い睡眠の間隔が乱れたことによって酷く浮腫んでいた。
肌荒れも処置されず、口の端に瘡蓋ができている。
額や頬のできものも目立つ。
「モリン伯爵令嬢アイリスが妙なことを言っている」
「……」
「お前が極最近になって取り巻きに加えた人物にライスト男爵家の娘ジェーンがいるな」
「……」
「アイリスは、ライスト男爵が所有する造船所の爆破事故は魔女の仕業だと騒いでいる」
「……」
「王家を騙しお前を陥れる為に魔女ヒルデガルドが呪ったのだそうだ」
「……」
「お前が不利になった時にそう言えと命じたのか?」
「……」
妹は暫く私を睨んでいたが、やがて一言、問いを返した。
「ジェーンは死んだ?」
私は躊躇わず鎌をかける。
「ああ。酷い火災だった。造船所で働く者たちも含めライスト男爵家は全滅した。焼死体の内で区別がついたのは銀歯を入れたライスト男爵と、寝室で眠ったまま燃え尽きた夫人だけだ」
「ははっ」
醜悪な笑いを洩らし、妹が仰向く。
歯が汚れている。
「楽しいか?お前の望み通りになったと?」
「まさか」
妹が再び私を睨む。
併し今度は好戦的な笑みを浮かべ、狂った獣のような唸り声をあげながら言った。
「まだおわかりにならないの?私から愛を奪い、お兄様やお母様を騙して、国王陛下であるお父様も騙して、次に何をするかわかる?この王国を乗っ取るのよ」
「ふむ」
「あの魔女を倒す方法を知っているわ」
「それは?」
「私を自由にして!!」
唾を撒き散らし叫んだ妹をすかさずホリー夫人が抑えつける。
「最初からわかっていたのよ!だからウィリスを救おうとしたの!私が身を削ってハルトルシア王国を守ろうとしているのに、お兄様ときたらいつまで私を閉じ込めるおつもり!?」
「嘘だ」
「え!?」
妹が醜く顔を歪める。
私は肩を竦め、ホリー夫人に妹を離してやるよう身振りで伝える。
やや肥えた妹は、嵐を察知した家畜のように私を威嚇している。
「……どういうこと?」
「そんな事故はない。ところで、お前の取り巻きの内唯一の男であるダーマ伯爵が突如私を殴りつけた」
「!?」
「逮捕した。銀歯を入れたのはこの私だ」
「……な、なにを……」
「銀歯だ、見ろ」
私は唇の端を人差し指でひっぱり、その輝く銀歯を見せつけてやった。
妹は絶句した。
「更にダーマ伯爵夫人イザベルは、ライスト男爵一家が見舞われた悲惨な造船所の爆破事故とその首謀者が魔女であるいう妄言を一心不乱に喚き続けているアイリスと共に、逮捕された」
「は?」
「二人は貴族の邸宅に侵入し、女同士で淫らな行為に及んでいた」
「……」
妹の顔色が変わる。
私から目を逸らす。
「知らないわ」
「さて。デシュラー伯爵の未亡人であるパメラ夫人も逮捕した。お前が、恋人を誘拐されたかもしれないと言ったからな」
「……」
「シェロート伯爵令息ウィリスは負傷していたが無事に救出した。医師に手当てを受けながら繰り返し拷問を受けていた様子だ」
「……恐ろしい人」
「魔女と呼ぶなら此方の方が余程お似合いだが、これもヒルデガルドの仕業なのか?」
「……」
「お前は取り巻き連中とどんな遊びをしていたんだ?」
問い詰めると妹は仕切り直しといった表情で私を凝視した。
「お兄様」
この期に及んで何を言うか、それをしっかりと聞いておきたい。
「ヘレネかもしれない」
唐突に、そして大真面目に妹は宣う。
「何が?」
「魔女よ。私に取入り、私たちを狂わせて悪魔の奴隷にしたの。最初にヒルデガルドを魔女と呼んだのはヘレネよ。最初から自分の罪を全てヒルデガルドに擦り付けるつもりだったんだわ」
「ほう」
「引き離されて、術が解けたの。そうよ。私、ヘレネに操られていたんだわ」
今度はこちらが言葉を失う番だった。
本当に、我が妹とは信じられない見下げ果てた屑だ。
「ヘレネを捕えて、拷問にかけて。そうすればきっと全て認めるはず。私たち、みんな自由になるのよ。全てが元通りになるの」
「何処にいる?」
「男娼の館《ユフシェリア》よ。そこで男を飼っているの」
「男娼?」
「そうよ。ヒルデガルドが男娼に溺れたという話を思いついたのはヘレネなの」
「思いついた?」
「ええ、そうよ。呪いが解けてきたわ……!」
妹が両手を上げて立ち上がる。
「今こそ魔女ヘレネを処刑する時よ!」
私は冷笑で尋問を終え、ホリー夫人に後を託し退室した。
まったく、妹に鏡を見せてやりたい。
それこそ醜い魔女がそこに居て卑しい笑顔を浮かべているだろう。
「……」
私の中で冷酷な為政者が囁く。
「……」
王家から魔女を出すなど罷りならない。
絶対に、あってはならない……
ヒルデガルドが再び宮廷裁判を申し立てている。
王家の威信が、試される。
私は妹の私室を訪ねた。元は母の侍女であったホリー夫人同席のもと王女の尋問を続けている。
「お前に一つ聞きたい」
「……」
妹はこちらに背を向け頑なに口を鎖している。
最近、食事のせいか全身に肉がついてきた。細かった肩はやや丸みを帯び、ドレスの曲線も一回り大振りになったように見える。平たく言うと太ってきたのだ。
「ビズマーク伯爵令嬢ヒルデガルドを再び貶める計画を指示したのは、お前か?」
「?」
ホリー夫人が反応した。
沈黙を貫こうとする妹の前方へ回り込み、厳しい視線で返答を促している。
妹がゆっくりと此方を向いた。
「……」
私を睨みつける眼差しは以前より昏く、何より顔そのものが不健康に変貌している。
元が細身だっただけに頬から顎にかけて肉がたるみ、その顔自体が昼夜区別ない締め切った幽閉生活によって時間の感覚を失い睡眠の間隔が乱れたことによって酷く浮腫んでいた。
肌荒れも処置されず、口の端に瘡蓋ができている。
額や頬のできものも目立つ。
「モリン伯爵令嬢アイリスが妙なことを言っている」
「……」
「お前が極最近になって取り巻きに加えた人物にライスト男爵家の娘ジェーンがいるな」
「……」
「アイリスは、ライスト男爵が所有する造船所の爆破事故は魔女の仕業だと騒いでいる」
「……」
「王家を騙しお前を陥れる為に魔女ヒルデガルドが呪ったのだそうだ」
「……」
「お前が不利になった時にそう言えと命じたのか?」
「……」
妹は暫く私を睨んでいたが、やがて一言、問いを返した。
「ジェーンは死んだ?」
私は躊躇わず鎌をかける。
「ああ。酷い火災だった。造船所で働く者たちも含めライスト男爵家は全滅した。焼死体の内で区別がついたのは銀歯を入れたライスト男爵と、寝室で眠ったまま燃え尽きた夫人だけだ」
「ははっ」
醜悪な笑いを洩らし、妹が仰向く。
歯が汚れている。
「楽しいか?お前の望み通りになったと?」
「まさか」
妹が再び私を睨む。
併し今度は好戦的な笑みを浮かべ、狂った獣のような唸り声をあげながら言った。
「まだおわかりにならないの?私から愛を奪い、お兄様やお母様を騙して、国王陛下であるお父様も騙して、次に何をするかわかる?この王国を乗っ取るのよ」
「ふむ」
「あの魔女を倒す方法を知っているわ」
「それは?」
「私を自由にして!!」
唾を撒き散らし叫んだ妹をすかさずホリー夫人が抑えつける。
「最初からわかっていたのよ!だからウィリスを救おうとしたの!私が身を削ってハルトルシア王国を守ろうとしているのに、お兄様ときたらいつまで私を閉じ込めるおつもり!?」
「嘘だ」
「え!?」
妹が醜く顔を歪める。
私は肩を竦め、ホリー夫人に妹を離してやるよう身振りで伝える。
やや肥えた妹は、嵐を察知した家畜のように私を威嚇している。
「……どういうこと?」
「そんな事故はない。ところで、お前の取り巻きの内唯一の男であるダーマ伯爵が突如私を殴りつけた」
「!?」
「逮捕した。銀歯を入れたのはこの私だ」
「……な、なにを……」
「銀歯だ、見ろ」
私は唇の端を人差し指でひっぱり、その輝く銀歯を見せつけてやった。
妹は絶句した。
「更にダーマ伯爵夫人イザベルは、ライスト男爵一家が見舞われた悲惨な造船所の爆破事故とその首謀者が魔女であるいう妄言を一心不乱に喚き続けているアイリスと共に、逮捕された」
「は?」
「二人は貴族の邸宅に侵入し、女同士で淫らな行為に及んでいた」
「……」
妹の顔色が変わる。
私から目を逸らす。
「知らないわ」
「さて。デシュラー伯爵の未亡人であるパメラ夫人も逮捕した。お前が、恋人を誘拐されたかもしれないと言ったからな」
「……」
「シェロート伯爵令息ウィリスは負傷していたが無事に救出した。医師に手当てを受けながら繰り返し拷問を受けていた様子だ」
「……恐ろしい人」
「魔女と呼ぶなら此方の方が余程お似合いだが、これもヒルデガルドの仕業なのか?」
「……」
「お前は取り巻き連中とどんな遊びをしていたんだ?」
問い詰めると妹は仕切り直しといった表情で私を凝視した。
「お兄様」
この期に及んで何を言うか、それをしっかりと聞いておきたい。
「ヘレネかもしれない」
唐突に、そして大真面目に妹は宣う。
「何が?」
「魔女よ。私に取入り、私たちを狂わせて悪魔の奴隷にしたの。最初にヒルデガルドを魔女と呼んだのはヘレネよ。最初から自分の罪を全てヒルデガルドに擦り付けるつもりだったんだわ」
「ほう」
「引き離されて、術が解けたの。そうよ。私、ヘレネに操られていたんだわ」
今度はこちらが言葉を失う番だった。
本当に、我が妹とは信じられない見下げ果てた屑だ。
「ヘレネを捕えて、拷問にかけて。そうすればきっと全て認めるはず。私たち、みんな自由になるのよ。全てが元通りになるの」
「何処にいる?」
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「男娼?」
「そうよ。ヒルデガルドが男娼に溺れたという話を思いついたのはヘレネなの」
「思いついた?」
「ええ、そうよ。呪いが解けてきたわ……!」
妹が両手を上げて立ち上がる。
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まったく、妹に鏡を見せてやりたい。
それこそ醜い魔女がそこに居て卑しい笑顔を浮かべているだろう。
「……」
私の中で冷酷な為政者が囁く。
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