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「ステファン、見て!シルヴィが犯人よ!!」

私の指をもぎ取る程の強さで捻り上げ、夜会の主役であるジュリエッタが叫んだ。

悲鳴を上げる暇もなかった。
一瞬の傷みの後、無数の視線に突き刺され私は息を止めた。全身から汗が噴き出し、芯から冷えていく。足の感覚が消えていく。

「なんということを……!」

ジュリエッタの義母シュヴァリエ伯爵夫人テレザが血相を変えて歩いてくる。

「お義母様の大切な指輪を盗んだのはシルヴィよ!」
「……っ」

小柄なジュリエッタが恐ろしい力で私の指の骨をあらぬ方向へ曲げようとする。
酷い怪我を負う前にシュヴァリエ伯爵夫人が私の手首を掴み救い出してくれた。但しそれは地獄の前触れ。

シュヴァリエ伯爵夫人が憤怒の表情で私の指から指輪を引き抜く。
次の瞬間、頬を叩かれた。

「!」

広間がしんと静まり返る。
私は頬を押さえ、ゆっくりと傾いた体を元に戻した。

「この指輪は……亡き夫が最初にくれた大切な愛の証です……っ」

シュヴァリエ伯爵夫人の声が怒りと涙で震えている。
ジュリエッタの夫サミュエルが私たちの元へと駆けつけ、母親の肩をしっかりと支えた。

「幼い日、あの人が私に……将来を約束してくれた時の……っ、どんな宝石より価値がある指輪なのよ……それを……!」

可愛らしい色ガラスの填まった指輪を握りしめシュヴァリエ伯爵夫人が咽び泣く。
私は痛む指をドレスの襞で隠し、無事な方の手を頬に当て愕然と立ち尽くした。

今日は婚約者のナヴァーラ伯爵ステファンに伴い、ステファンの幼馴染ジュリエッタが嫁いだシュヴァリエ伯爵家の夜会に招かれていた。

亡きシュヴァリエ伯爵の喪が明けて初めての夜会で、息子サミュエルに代わって実権を握り続けたテレザがその座から退き、息子夫婦を若き伯爵夫妻としてお披露目する重要な夜だった。
今夜を境にしてテレザからジュリエッタに女主の役目が正式に引き継がれるのだ。

ついさっきまでジュリエッタは隣で微笑んでいた。
そして私に可愛らしい指輪をくれた。

──あなたは大切な幼馴染の愛する人だもの、私たち親友になりましょう。これはその証よ──

私の小指に親友の証をはめた次の瞬間、ジュリエッタは豹変した。
力尽くで私の指を激しく捻り上げた。そして叫んだ。

陥れられたと気づいたとしても不利な状況に違いなかった。
唯一の救いである婚約者ステファンが駆け寄ってくるのを見て私は安堵の溜息をついた。

けれど……

「君は気でも狂ったのか!?」
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