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「仰る通り……」
母が徐にカルメット侯爵からの書状を手に取りながら呟き始める。
「?」
仰る通り?
何が?
私は母を呆然と視界に収めた。美しいその人は、私の知る母ではないような気がした。心の無い美しい人形のようだった。
「そう悪いお話ではないかもしれないわねぇ」
「お母様……?」
唯一の、本当に、最後の最後に残された母という絶対的な味方が、私を見放した。その事実に視界が歪む。込み上げた涙は一筋、また一筋と頬を伝う。
母は冷たく微笑んでいる。
「この方、そう長くはないでしょう。ノアム侯爵は愛妻家で有名だったもの。奥様の忘れ形見であるエドワール卿がこんな目に遇わされて、泣き寝入りはしないはず」
「……」
「カルメット侯爵はきっと処刑される」
「……」
「侯爵夫人、それも若くして未亡人だなんて、シルヴィ……正直うらやましいくらいよ」
「……では、お母様が結婚されたら?」
私の口からも心無い冷たい言葉が滑り出る。
母は嫣然と笑みを深めた。
「できればあなたと代わりたい」
「……!」
私が信じてきた、疑いもしなかった、愛に満ちた仲のいい家族。
それさえ失うのか。私は。
母がわからない。
「こんな不甲斐ない夫にはうんざりよ」
「!」
父の顔色が変わる。
私を恐ろしい男に嫁がせて平気なくせに、自分の妻の心が離れるのは嫌らしい。勝手すぎる。
「イザベラ……な、なにを……!?」
「お部屋に行きましょう、シルヴィ。要は夫に殺されなければいいだけよ。考えましょう。あなたはおてんばさんだもの。きっと乗り越えられる」
私の背に母が手を添え、半ば強引に歩き始める。
「ま、待て……待ってくれ……!」
「病気のふりとか、かくれんぼや追いかけっこ。子供の遊びと同じよ。カルメット侯爵が身を滅ぼすまでの短い時間、逃げ切ればあなたの勝ち」
「私はお前たちの為に……!」
追いすがる父に母がカルメット侯爵の書状を投げつける。
「!」
顔に命中した。
母は微笑んだまま甘い声で囁いた。
「二度と私に話しかけないで」
怒っている。
嫣然と憤怒している。
一瞬、私を見放したかに思えた母は、実は私ではなく父に見切りをつけていたのかもしれない。
「イザベラ……!シルヴィ、私は……!」
「いい?シルヴィ、子供なんて産まなくていい。あなたの人生が幕を閉じる日までカルメット侯爵夫人として悠々自適に暮らせばいいわ」
「お母様……」
私は母に誘われ、足を動かす。
想像もしなかった私の新しい人生への、一歩目を。
「愛なんて無い。幻想を捨ててもあなたは幸せになれる」
母が甘く優しく囁いている。
私は呆然と、一歩、一歩、その道を進み始めた。
愛のない人生を。
母が徐にカルメット侯爵からの書状を手に取りながら呟き始める。
「?」
仰る通り?
何が?
私は母を呆然と視界に収めた。美しいその人は、私の知る母ではないような気がした。心の無い美しい人形のようだった。
「そう悪いお話ではないかもしれないわねぇ」
「お母様……?」
唯一の、本当に、最後の最後に残された母という絶対的な味方が、私を見放した。その事実に視界が歪む。込み上げた涙は一筋、また一筋と頬を伝う。
母は冷たく微笑んでいる。
「この方、そう長くはないでしょう。ノアム侯爵は愛妻家で有名だったもの。奥様の忘れ形見であるエドワール卿がこんな目に遇わされて、泣き寝入りはしないはず」
「……」
「カルメット侯爵はきっと処刑される」
「……」
「侯爵夫人、それも若くして未亡人だなんて、シルヴィ……正直うらやましいくらいよ」
「……では、お母様が結婚されたら?」
私の口からも心無い冷たい言葉が滑り出る。
母は嫣然と笑みを深めた。
「できればあなたと代わりたい」
「……!」
私が信じてきた、疑いもしなかった、愛に満ちた仲のいい家族。
それさえ失うのか。私は。
母がわからない。
「こんな不甲斐ない夫にはうんざりよ」
「!」
父の顔色が変わる。
私を恐ろしい男に嫁がせて平気なくせに、自分の妻の心が離れるのは嫌らしい。勝手すぎる。
「イザベラ……な、なにを……!?」
「お部屋に行きましょう、シルヴィ。要は夫に殺されなければいいだけよ。考えましょう。あなたはおてんばさんだもの。きっと乗り越えられる」
私の背に母が手を添え、半ば強引に歩き始める。
「ま、待て……待ってくれ……!」
「病気のふりとか、かくれんぼや追いかけっこ。子供の遊びと同じよ。カルメット侯爵が身を滅ぼすまでの短い時間、逃げ切ればあなたの勝ち」
「私はお前たちの為に……!」
追いすがる父に母がカルメット侯爵の書状を投げつける。
「!」
顔に命中した。
母は微笑んだまま甘い声で囁いた。
「二度と私に話しかけないで」
怒っている。
嫣然と憤怒している。
一瞬、私を見放したかに思えた母は、実は私ではなく父に見切りをつけていたのかもしれない。
「イザベラ……!シルヴィ、私は……!」
「いい?シルヴィ、子供なんて産まなくていい。あなたの人生が幕を閉じる日までカルメット侯爵夫人として悠々自適に暮らせばいいわ」
「お母様……」
私は母に誘われ、足を動かす。
想像もしなかった私の新しい人生への、一歩目を。
「愛なんて無い。幻想を捨ててもあなたは幸せになれる」
母が甘く優しく囁いている。
私は呆然と、一歩、一歩、その道を進み始めた。
愛のない人生を。
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