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朝食は部屋に運ばれてきたので一人でとった。
夫とはベッドも食事も別々。清々しい契約結婚だ。
ミネットも夫婦で朝食という習慣はないらしい。ずっと私に侍っている。
「私は夫と交流しないのだから、あなたは唯一の話相手よね」
「光栄です」
「一緒に食べましょう」
「……」
渋っているのでも困惑しているのでもなさそうだけれど、ミネットの沈黙はすべからく重い。
「ほら、座って」
促すとミネットは私ではなく給仕係に短く告げた。
「明日から二人分」
そして椅子を斜め横につけて背筋を伸ばして腰を下ろす。
「実は、嬉しいお誘いがあるとは思いもよらず起き抜けにビスケットを貪りました」
「栗鼠みたいな人ね」
「明朝よりありがたく御供いたします」
「え?今日の昼と夜は?」
まるで私が食欲旺盛みたいな問いかけになってしまった。
給仕係が気を利かせてミネットの分のお茶を迅速に用意してくれる。私はパンをちぎって差し出してみた。断られた。
「昼は食堂に用意させますが庭園やバルコニーがよろしければ運ばせます。夜は御夫婦でディナーです」
「そうなの?食堂がカルメット侯爵専用だから妻の私が部屋で一人なのかと思った」
別に夫ランスと食事をとりたいわけではないけれど、契約結婚という私の立場なら当主と食堂で食事など分不相応と思われていても理不尽ながら納得できる。
ミネットは珍しく目を丸くした。
「まさか。ランス様が朝に弱いので昼までぼんやりしていらっしゃるだけです」
「……」
それはそれで返す言葉がない。
「ランス様と顔を合わせてのお食事がお嫌ということなら食堂は奥様専用にして頂けるでしょう」
「そうなのね……覚えておくわ」
「あの方は浮腫みが酷いので、入浴とマッサージで姿形を整えてからお会いになりたいと考えていらっしゃるのですよ」
あの顔が浮腫んでぼんやりしている……想像しようとしても思い浮かばなかった。
朝から入浴とは清潔な侯爵様だ。
入浴とはいかないまでも、今朝の洗顔でも私の顔はすべすべになった。
「そういえば……お湯汲み係ってなんなの?」
「朝食の後、ご案内いたします」
随分と勿体ぶったものだとこの時は思ったものの、一時間後、私は納得していた。
三階のお湯汲み係でありミネットの夫でもあるファロは蒸すような一室に篭り、湯気の上がる井戸とも煙突とも言えない溝から大量のお湯をくみ上げていた。
レール式であろうと筋肉隆々の男性でなければ一日中こんな力仕事は務まらないだろう。
「この城は貴重な水源管理の為に建てられており、地下からは絶えず温泉水が湧いています。日用水は各階で一旦汲み上げてから仕分けするのです。飲用、料理用、湯治、掃除、その他。用途によって冷ます必要もありますので」
ミネットが片眼鏡を真っ白に曇らせて解説してくれた。
そして満を持して微笑む。
「一階の大浴場へご案内いたします」
夫とはベッドも食事も別々。清々しい契約結婚だ。
ミネットも夫婦で朝食という習慣はないらしい。ずっと私に侍っている。
「私は夫と交流しないのだから、あなたは唯一の話相手よね」
「光栄です」
「一緒に食べましょう」
「……」
渋っているのでも困惑しているのでもなさそうだけれど、ミネットの沈黙はすべからく重い。
「ほら、座って」
促すとミネットは私ではなく給仕係に短く告げた。
「明日から二人分」
そして椅子を斜め横につけて背筋を伸ばして腰を下ろす。
「実は、嬉しいお誘いがあるとは思いもよらず起き抜けにビスケットを貪りました」
「栗鼠みたいな人ね」
「明朝よりありがたく御供いたします」
「え?今日の昼と夜は?」
まるで私が食欲旺盛みたいな問いかけになってしまった。
給仕係が気を利かせてミネットの分のお茶を迅速に用意してくれる。私はパンをちぎって差し出してみた。断られた。
「昼は食堂に用意させますが庭園やバルコニーがよろしければ運ばせます。夜は御夫婦でディナーです」
「そうなの?食堂がカルメット侯爵専用だから妻の私が部屋で一人なのかと思った」
別に夫ランスと食事をとりたいわけではないけれど、契約結婚という私の立場なら当主と食堂で食事など分不相応と思われていても理不尽ながら納得できる。
ミネットは珍しく目を丸くした。
「まさか。ランス様が朝に弱いので昼までぼんやりしていらっしゃるだけです」
「……」
それはそれで返す言葉がない。
「ランス様と顔を合わせてのお食事がお嫌ということなら食堂は奥様専用にして頂けるでしょう」
「そうなのね……覚えておくわ」
「あの方は浮腫みが酷いので、入浴とマッサージで姿形を整えてからお会いになりたいと考えていらっしゃるのですよ」
あの顔が浮腫んでぼんやりしている……想像しようとしても思い浮かばなかった。
朝から入浴とは清潔な侯爵様だ。
入浴とはいかないまでも、今朝の洗顔でも私の顔はすべすべになった。
「そういえば……お湯汲み係ってなんなの?」
「朝食の後、ご案内いたします」
随分と勿体ぶったものだとこの時は思ったものの、一時間後、私は納得していた。
三階のお湯汲み係でありミネットの夫でもあるファロは蒸すような一室に篭り、湯気の上がる井戸とも煙突とも言えない溝から大量のお湯をくみ上げていた。
レール式であろうと筋肉隆々の男性でなければ一日中こんな力仕事は務まらないだろう。
「この城は貴重な水源管理の為に建てられており、地下からは絶えず温泉水が湧いています。日用水は各階で一旦汲み上げてから仕分けするのです。飲用、料理用、湯治、掃除、その他。用途によって冷ます必要もありますので」
ミネットが片眼鏡を真っ白に曇らせて解説してくれた。
そして満を持して微笑む。
「一階の大浴場へご案内いたします」
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