29 / 52
29
しおりを挟む
東屋ではいつも柱に寄りかかったり椅子に座って会話していたけれど、体が触れそうなほど近くで過ごしたことはなかった。
初めてのキスを交わした後ランスは隣に座り私を抱き寄せた。
夫が一人では重すぎる理由を抱えているという確信を深めていた私は、大きなランスを包み込んで守る為に彼の膝に横座りして広い肩に腕を掛けた。
ややぶら下がるような形ではあったけれど、夫の柔らかな髪を撫でたり、頬を寄せ慰めることができた。ランスの長い腕が私の背中を支えていてくれた。
ランスは沈黙していた。
風の音が優しく耳を撫で、花や草木の匂いを運んでくる。
まだ濡れていた髪が少しずつ乾き始めているのに気付いた私は、ランスの頬を撫でながら不慣れなマッサージを試みたりもした。
眉毛を揉んだ時、ランスが少し笑った。
「私、上手?」
「指が細いから利くよ」
「いつもデヴィッドがしてるの?」
「うん。指は太いけど、お祖母さんの足を揉んであげていたから上手いんだ」
「そう。じゃあ、彼から習わないとね」
私はランスの頭を抱きしめた……体格上しがみついたと言っても間違いではないけれど、気分は抱きしめた。
「朝の浴室に居座ってやるわ」
「私の顔が変化する様を楽しむといいよ」
ランスの情けない声が申し訳ないけれど可愛くて、ポンポンと髪を撫でる。ランスは私を抱きしめ深い溜息を吐いた。
「それで何故あの人は朝から来るのよ」
ポンポン撫でながら問う。
ランスはまた沈黙したけれど、腕の力を緩めたので私もしがみつくのをやめ、夫の肩に腕を掛けてバランスをとりながら目を合わせた。
透き通る淡褐色の瞳が私を見つめていた。
「私が養子という話を覚えている?」
「ええ」
普通は忘れない。
「彼女は妹なんだ」
「…………え?」
その瞬間、二人の髪色、瞳、肌質、顔立ちに至るまで、雰囲気が似ていると気づく。
「え!?」
大きな声が出た上、私はランスの膝で少し弾んだ。
「あなたピオジェ公爵の隠し子なの!?」
凄い人の膝に乗っている。
このまま当然のように乗っていていいのかと謎の焦燥感にかられた次の瞬間に更なる衝撃の事実が明かされた。
「違う。夫人の婚外子なんだ」
「────えっ!?」
弾む余裕もなく腰が抜けた。
ピオジェ公爵夫人の不倫に驚いたわけではない。それもそれで衝撃だけれど……ピオジェ公爵夫人が産みの親ということは……ランスが……
「あなた王家の……!?」
ピオジェ公爵家の始まりは建国時の軍功を讃えられ叙爵したことによる。だから近年まで公爵といってもピオジェ公爵家だけは王家に連ならない公爵家だったのだが、建国王アロワ大王の王弟オーギュスティヌ1世が祖のカロン公爵家から王家の血を引く公女が嫁いだことによってついに王家と親戚になった。
そういうわけで王家の血を引く伯爵夫人としてもヴェルディエ伯爵夫人ミレーユの名は有名だ。
「400年分は血が薄まり切っているからそうとは言い切れないけどね」
「……」
私は恐る恐るランスの膝から下りようと試みた。
夫の腕が力を蘇らせ、私を離さない。
「カロン公爵令嬢とピオジェ公爵の結婚は王家も絡む完全な契約結婚だった。ピオジェ公爵の独立戦争を封じ込める目的で、平和の為に結婚したんだ。だから私の母親は恋人を連れて結婚し、関係は生涯容認されていたそうだよ。恋人との間に男児が産まれた際には養子に出すことも契約に含まれていた」
「……」
「王家の秘密の湯治場を守るカルメット侯爵夫妻には子供がいなかったから、私が引き取られた」
やんごとなき夫の膝の上で私は息を止めた。
「秘密だよ、シルヴィ。君にしか話してない」
初めてのキスを交わした後ランスは隣に座り私を抱き寄せた。
夫が一人では重すぎる理由を抱えているという確信を深めていた私は、大きなランスを包み込んで守る為に彼の膝に横座りして広い肩に腕を掛けた。
ややぶら下がるような形ではあったけれど、夫の柔らかな髪を撫でたり、頬を寄せ慰めることができた。ランスの長い腕が私の背中を支えていてくれた。
ランスは沈黙していた。
風の音が優しく耳を撫で、花や草木の匂いを運んでくる。
まだ濡れていた髪が少しずつ乾き始めているのに気付いた私は、ランスの頬を撫でながら不慣れなマッサージを試みたりもした。
眉毛を揉んだ時、ランスが少し笑った。
「私、上手?」
「指が細いから利くよ」
「いつもデヴィッドがしてるの?」
「うん。指は太いけど、お祖母さんの足を揉んであげていたから上手いんだ」
「そう。じゃあ、彼から習わないとね」
私はランスの頭を抱きしめた……体格上しがみついたと言っても間違いではないけれど、気分は抱きしめた。
「朝の浴室に居座ってやるわ」
「私の顔が変化する様を楽しむといいよ」
ランスの情けない声が申し訳ないけれど可愛くて、ポンポンと髪を撫でる。ランスは私を抱きしめ深い溜息を吐いた。
「それで何故あの人は朝から来るのよ」
ポンポン撫でながら問う。
ランスはまた沈黙したけれど、腕の力を緩めたので私もしがみつくのをやめ、夫の肩に腕を掛けてバランスをとりながら目を合わせた。
透き通る淡褐色の瞳が私を見つめていた。
「私が養子という話を覚えている?」
「ええ」
普通は忘れない。
「彼女は妹なんだ」
「…………え?」
その瞬間、二人の髪色、瞳、肌質、顔立ちに至るまで、雰囲気が似ていると気づく。
「え!?」
大きな声が出た上、私はランスの膝で少し弾んだ。
「あなたピオジェ公爵の隠し子なの!?」
凄い人の膝に乗っている。
このまま当然のように乗っていていいのかと謎の焦燥感にかられた次の瞬間に更なる衝撃の事実が明かされた。
「違う。夫人の婚外子なんだ」
「────えっ!?」
弾む余裕もなく腰が抜けた。
ピオジェ公爵夫人の不倫に驚いたわけではない。それもそれで衝撃だけれど……ピオジェ公爵夫人が産みの親ということは……ランスが……
「あなた王家の……!?」
ピオジェ公爵家の始まりは建国時の軍功を讃えられ叙爵したことによる。だから近年まで公爵といってもピオジェ公爵家だけは王家に連ならない公爵家だったのだが、建国王アロワ大王の王弟オーギュスティヌ1世が祖のカロン公爵家から王家の血を引く公女が嫁いだことによってついに王家と親戚になった。
そういうわけで王家の血を引く伯爵夫人としてもヴェルディエ伯爵夫人ミレーユの名は有名だ。
「400年分は血が薄まり切っているからそうとは言い切れないけどね」
「……」
私は恐る恐るランスの膝から下りようと試みた。
夫の腕が力を蘇らせ、私を離さない。
「カロン公爵令嬢とピオジェ公爵の結婚は王家も絡む完全な契約結婚だった。ピオジェ公爵の独立戦争を封じ込める目的で、平和の為に結婚したんだ。だから私の母親は恋人を連れて結婚し、関係は生涯容認されていたそうだよ。恋人との間に男児が産まれた際には養子に出すことも契約に含まれていた」
「……」
「王家の秘密の湯治場を守るカルメット侯爵夫妻には子供がいなかったから、私が引き取られた」
やんごとなき夫の膝の上で私は息を止めた。
「秘密だよ、シルヴィ。君にしか話してない」
46
あなたにおすすめの小説
とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、
屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。
そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。
母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。
そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。
しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。
メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、
財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼!
学んだことを生かし、商会を設立。
孤児院から人材を引き取り育成もスタート。
出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。
そこに隣国の王子も参戦してきて?!
本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る
とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】恋を失くした伯爵令息に、赤い糸を結んで
白雨 音
恋愛
伯爵令嬢のシュゼットは、舞踏会で初恋の人リアムと再会する。
ずっと会いたかった人…心躍らせるも、抱える秘密により、名乗り出る事は出来無かった。
程なくして、彼に美しい婚約者がいる事を知り、諦めようとするが…
思わぬ事に、彼の婚約者の座が転がり込んで来た。
喜ぶシュゼットとは反対に、彼の心は元婚約者にあった___
※視点:シュゼットのみ一人称(表記の無いものはシュゼット視点です)
異世界、架空の国(※魔法要素はありません)《完結しました》
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
花言葉は「私のものになって」
岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。)
そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。
その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。
美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。
青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。
だが彼に溺愛され家は再興。
見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる