31 / 52
31
しおりを挟む
我を忘れてランスの膝の上で泣き喚いていた私の脳裏に、あの人の声が蘇る。
──私の言ったことを考えてみて
──奥様、大切になさって
そして私に、おめでとうを言った。
「……っ、……」
ヴェルディエ伯爵夫人ミレーユは私におめでとうを言った。
「……」
次第に冷静さを取り戻し、私は嗚咽を堪え息を整えようと努める。
今のランスは無実だと証言したようなものだ。ミレーユも当然、それを知っている。
私と結婚したランスに無実を証明しろと言いに来たのだ。
そうでなければあの言葉は出ない。
「……ちょっと、気が昂って……言ってしまったけど……嘘よ。私も愛してる」
剣呑な声が出てしまったが当然だ。私は怒っている。
誰に対してというより、今この状況に対して激怒していた。
「わかってる」
ランスは観念したように泣いている。
冗談ではない。誰がランスを苦しめているのか突き止めてやる。
ただランスは誰かを庇っている。
殺人未遂の罪を被るなんて並大抵の覚悟ではない。夫の決意は固い。今此処で言葉を尽くしたところで、また二人で泣いて終わりだろう。
ミレーユが言った通り、私を大切にしたくなればいい。
そうすれば幽閉されたくなくなるし、真犯人を庇ったままかもしれないにしろ私の傍に留まりたくなるはずだ。
複雑に考える必要はない。
ランスは無実だ。
「私、今夜からあなたと一緒に寝たい」
「……………………え?」
長かったわね。
覚悟がある割に鈍いじゃないランス。
「!」
私は自らの失態を察した。
「違う!王家の血を引く人間を産みたいって意味じゃないから!!」
「……わかってるよ」
ランスはやや戸惑い、呆気にとられた声で呟いた。
さっきから一人で騒いでいる事実に急に気づいた私は、更に恥ずかしくなって夫の膝の上でじたばたと暴れてしまう。
「深い意味はないわ!夫婦だから!一緒に寝るのが普通でしょう!?それだけよ!!」
「わかってる。疑ってないよ」
「あなたの子を産むことについては吝かではないわ!だって妻だもの──やだっ、私なに言ってるの!?」
冷静さを取り戻したというのは幻想だったようだ。
私は夫の膝の上で、腕の中で、縮こまって両手で顔を覆った。
さすがの私でも理解できた。今、私は正気ではない。
恥ずかしいなどという言葉では足りない特大の羞恥心に苛まれ、このまま息が止まれば楽になれるとすら思った。
「……っ」
でも、ランスを遺してはいけない。
ランスが私と生きていきたいと零したように、私だってランスと生きていきたい。
「毎朝、浮腫みをとってあげる……」
苦し紛れに何を言い出したのかと自分でも呆れた。
けれどランスは嬉しかったらしく、笑いを含んだ吐息を洩らし、あやすように私を揺らし始める。
「不細工な私に愛想をつかしても離してあげないよ」
鼻歌を歌うような声が間近から聞こえ、少し羞恥も収まった。
ランスは笑顔が似合う。
大好きな笑顔を見たくて顔をあげると、涙に濡れながらも嬉しそうに微笑むランスと目が合った。
「……」
私たちは契約ではなく、愛で結ばれる。
始まりがどうであれ本当の夫婦になるのだ。
「指輪を用意して」
「私の?」
「そう。あなたの指には私の夫だという証が要るわ」
「三つ要るかな。朝昼晩でサイズが変わる」
「手のかかる人ね。でも結婚式は一度にしましょう。あなたの顔が綺麗な午後に……」
それ以上は言葉が続けられなかった。
ランスの唇に塞がれ、奪われてしまったから。
──私の言ったことを考えてみて
──奥様、大切になさって
そして私に、おめでとうを言った。
「……っ、……」
ヴェルディエ伯爵夫人ミレーユは私におめでとうを言った。
「……」
次第に冷静さを取り戻し、私は嗚咽を堪え息を整えようと努める。
今のランスは無実だと証言したようなものだ。ミレーユも当然、それを知っている。
私と結婚したランスに無実を証明しろと言いに来たのだ。
そうでなければあの言葉は出ない。
「……ちょっと、気が昂って……言ってしまったけど……嘘よ。私も愛してる」
剣呑な声が出てしまったが当然だ。私は怒っている。
誰に対してというより、今この状況に対して激怒していた。
「わかってる」
ランスは観念したように泣いている。
冗談ではない。誰がランスを苦しめているのか突き止めてやる。
ただランスは誰かを庇っている。
殺人未遂の罪を被るなんて並大抵の覚悟ではない。夫の決意は固い。今此処で言葉を尽くしたところで、また二人で泣いて終わりだろう。
ミレーユが言った通り、私を大切にしたくなればいい。
そうすれば幽閉されたくなくなるし、真犯人を庇ったままかもしれないにしろ私の傍に留まりたくなるはずだ。
複雑に考える必要はない。
ランスは無実だ。
「私、今夜からあなたと一緒に寝たい」
「……………………え?」
長かったわね。
覚悟がある割に鈍いじゃないランス。
「!」
私は自らの失態を察した。
「違う!王家の血を引く人間を産みたいって意味じゃないから!!」
「……わかってるよ」
ランスはやや戸惑い、呆気にとられた声で呟いた。
さっきから一人で騒いでいる事実に急に気づいた私は、更に恥ずかしくなって夫の膝の上でじたばたと暴れてしまう。
「深い意味はないわ!夫婦だから!一緒に寝るのが普通でしょう!?それだけよ!!」
「わかってる。疑ってないよ」
「あなたの子を産むことについては吝かではないわ!だって妻だもの──やだっ、私なに言ってるの!?」
冷静さを取り戻したというのは幻想だったようだ。
私は夫の膝の上で、腕の中で、縮こまって両手で顔を覆った。
さすがの私でも理解できた。今、私は正気ではない。
恥ずかしいなどという言葉では足りない特大の羞恥心に苛まれ、このまま息が止まれば楽になれるとすら思った。
「……っ」
でも、ランスを遺してはいけない。
ランスが私と生きていきたいと零したように、私だってランスと生きていきたい。
「毎朝、浮腫みをとってあげる……」
苦し紛れに何を言い出したのかと自分でも呆れた。
けれどランスは嬉しかったらしく、笑いを含んだ吐息を洩らし、あやすように私を揺らし始める。
「不細工な私に愛想をつかしても離してあげないよ」
鼻歌を歌うような声が間近から聞こえ、少し羞恥も収まった。
ランスは笑顔が似合う。
大好きな笑顔を見たくて顔をあげると、涙に濡れながらも嬉しそうに微笑むランスと目が合った。
「……」
私たちは契約ではなく、愛で結ばれる。
始まりがどうであれ本当の夫婦になるのだ。
「指輪を用意して」
「私の?」
「そう。あなたの指には私の夫だという証が要るわ」
「三つ要るかな。朝昼晩でサイズが変わる」
「手のかかる人ね。でも結婚式は一度にしましょう。あなたの顔が綺麗な午後に……」
それ以上は言葉が続けられなかった。
ランスの唇に塞がれ、奪われてしまったから。
55
あなたにおすすめの小説
とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、
屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。
そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。
母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。
そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。
しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。
メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、
財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼!
学んだことを生かし、商会を設立。
孤児院から人材を引き取り育成もスタート。
出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。
そこに隣国の王子も参戦してきて?!
本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る
とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】恋を失くした伯爵令息に、赤い糸を結んで
白雨 音
恋愛
伯爵令嬢のシュゼットは、舞踏会で初恋の人リアムと再会する。
ずっと会いたかった人…心躍らせるも、抱える秘密により、名乗り出る事は出来無かった。
程なくして、彼に美しい婚約者がいる事を知り、諦めようとするが…
思わぬ事に、彼の婚約者の座が転がり込んで来た。
喜ぶシュゼットとは反対に、彼の心は元婚約者にあった___
※視点:シュゼットのみ一人称(表記の無いものはシュゼット視点です)
異世界、架空の国(※魔法要素はありません)《完結しました》
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
花言葉は「私のものになって」
岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。)
そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。
その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。
美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。
青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。
だが彼に溺愛され家は再興。
見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる