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16(ジェイド)
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「それもこれも、もとはと言えば男の風上にも置けぬ身勝手で非情なストール卿のせいでしょう。殿下のご命令でストール卿を呼び出して頂けましたら、不肖の身ながらこの私が穏便に赤子を余所へやった上で奴に鉄槌を下します」
跪き懇願した私の頭上でフローラ姫が鼻息を荒くする。
「よく言ったわ!任せなさい!!」
こうして私はその日の夕刻、宮殿内の庭園の東屋でストール卿との対面を果たしたのだった。
「あなたのせいで婚約者殿がどれだけ辛い思いをなさっているか、わかりませんか?女性としてどれだけ悔しく悲しい思いをしているか。彼女はそれを堪え、必死で笑顔を浮かべていました。あなたはそれでも彼女の夫になろうという男なのですか!?」
「あ、ああ」
王室騎士団第三師団長ヴィクター・ストールは面食らっている。
このベケイア伯爵家の令息が旧王家復活を目論んでいる反逆者と総帥は睨んでいるが、それとは別にスノウに対する仕打ちが非道であることも重大な事実だ。
「あなたは本当に彼女を愛しておられるのですか!?」
これだけ騒げば、いくら私がアスガルド軍の軍人だとしてもそれほど危険視されないだろう。これではまるで、影ながらスノウを慕う一人の男のようではないか。
「セシア伯爵令嬢が御不在の今、宮殿で彼女が冷遇されることくらいあなたには想像できたはずです。妻となる女性の身の安全も考慮できないほどに恩師の子とやらが愛しいならば、乳母の手を借り男手一つで育て上げられては如何です?」
「待ってくれ。セシア伯爵令嬢が、不在?」
「はい」
それがどうしたと言わんばかりの不遜な態度を取れた自分が、思いの他、芝居が上手く内心驚いた。
この調子だ。
「あなたを探し回っている最中、棒で叩かれる婚約者殿をお助けしました。どういうことですか!?あなた心が痛まないのですか!?」
「……」
ストールの碧い瞳にじわじわと戦慄の色が広がる。
どうやら、仮に志を一つにする者同士であったとしてもこの度の不在は組織的に意図したものではなかったらしい。
すると可能性の一つとして、総帥より密命を帯びた私ではない誰かがセシア伯爵家に何か仕掛けたのかもしれないと思わなくはないが、私が知らされていないのであればそれは知らぬ存ぜぬの部外者として振舞って良いということでもある。
只、現段階では判断し兼ねるというのが正直なところだ。
「この状況で、心を痛めたまま体まで痛めつけられ万が一命を落としでもしたらどうするのです!?あなた、それでも血の繋がらない息子を愛でて意気揚々と生きていけますか!?」
我ながら感傷的で鬱陶しい男を徹底していると思う。
「あ、ああ、すまない」
ストールはセシア伯爵令嬢の不在に気を取られ気が気ではないらしい。適当な謝罪で私をあしらいつつ、必死で考えを巡らしているのはその表情を見れば明らかだった。
「謝るなら私ではなく婚約者殿に謝るべきでしょう!」
「ああ、そうするよ」
「信じられません!そんなに粗末にされるのであれば、御婚約を解消し自由にしてさしあげてはどうですか!あれほどの美しさならば彼女を愛する男はいくらでも現れるはずだ!」
「……」
ストールは思考をやめ、残忍さを隠しきれなかった眼差しを私に据える。
「あれは〝罪の子〟だぞ?」
「あれですって!?あなた……ああっ、なんと……あなたはあまりにも酷い。とても任せてはおけない!」
「中尉……」
ほくそ笑んだ。
ストールは確かに冷笑した。
私は憤慨した。
「一人の未婚女性の緊急事態ですよ!?それでも騎士ですか!?もういいです。彼女は国軍が保護します。私は中尉です。賓客を持成す客間の一つくらい持っていますのでご安心を!」
「ああ……そうか。頼むよ、中尉殿」
「この人でなしィッ!」
自分でもこの情緒不安定な男はなんなんだと思う。
私が赤の他人としてこの男と遭遇したら存在を悟られないよう迅速に避けるだろう。
芝居だ。芝居。
果して、目的は達成した。
私が恋心を拗らせただけの警戒に値しない男だという印象を与えると共に、婚約者であるストールから直々にスノウを預かる許可を取り付けた。何としても引き離す必要があった。スノウが傍にいては赤子に手は掛けられない。
これでスノウは安全だ。
我ながら大胆な作戦だったが、上手くいった。
癇癪を起したかのようにストールを睨みつけ、身を翻し、別れも告げず東屋を立ち去る。当然、総帥からの祝いの言葉など告げてもいない。
「なんだ、あいつ」
ストールが私を馬鹿にして笑う声が聞こえた。
私は計画が成功してもほくそ笑みはしなかった。スノウに対して全く愛情を抱いていないストールに実際憤慨していたからだ。
私は早速フローラ姫に報告した。無論、叱責を受けるのは想定内だ。
「あんたそれでも軍人!?口喧嘩だけして帰って来たって言うの!?馬鹿!?」
「申し訳ありません、殿下。併しストール卿より国軍にて御婚約者を保護する許可を頂きました」
「えっ!?」
フローラ姫は怒りと驚きと喜びを混ぜた表情で私を凝視し、次の瞬間、にたりと笑った。
私は言い知れぬ達成感を噛み締め頭を垂れた。
「僭越ながら私の邸宅にお迎えいたします。男一人の場所へ預けるのは御不安でしょうから、殿下がお付きの者をお選びください。何人でいらっしゃっても皆様を誠心誠意お持て成しさせて頂きます」
跪き懇願した私の頭上でフローラ姫が鼻息を荒くする。
「よく言ったわ!任せなさい!!」
こうして私はその日の夕刻、宮殿内の庭園の東屋でストール卿との対面を果たしたのだった。
「あなたのせいで婚約者殿がどれだけ辛い思いをなさっているか、わかりませんか?女性としてどれだけ悔しく悲しい思いをしているか。彼女はそれを堪え、必死で笑顔を浮かべていました。あなたはそれでも彼女の夫になろうという男なのですか!?」
「あ、ああ」
王室騎士団第三師団長ヴィクター・ストールは面食らっている。
このベケイア伯爵家の令息が旧王家復活を目論んでいる反逆者と総帥は睨んでいるが、それとは別にスノウに対する仕打ちが非道であることも重大な事実だ。
「あなたは本当に彼女を愛しておられるのですか!?」
これだけ騒げば、いくら私がアスガルド軍の軍人だとしてもそれほど危険視されないだろう。これではまるで、影ながらスノウを慕う一人の男のようではないか。
「セシア伯爵令嬢が御不在の今、宮殿で彼女が冷遇されることくらいあなたには想像できたはずです。妻となる女性の身の安全も考慮できないほどに恩師の子とやらが愛しいならば、乳母の手を借り男手一つで育て上げられては如何です?」
「待ってくれ。セシア伯爵令嬢が、不在?」
「はい」
それがどうしたと言わんばかりの不遜な態度を取れた自分が、思いの他、芝居が上手く内心驚いた。
この調子だ。
「あなたを探し回っている最中、棒で叩かれる婚約者殿をお助けしました。どういうことですか!?あなた心が痛まないのですか!?」
「……」
ストールの碧い瞳にじわじわと戦慄の色が広がる。
どうやら、仮に志を一つにする者同士であったとしてもこの度の不在は組織的に意図したものではなかったらしい。
すると可能性の一つとして、総帥より密命を帯びた私ではない誰かがセシア伯爵家に何か仕掛けたのかもしれないと思わなくはないが、私が知らされていないのであればそれは知らぬ存ぜぬの部外者として振舞って良いということでもある。
只、現段階では判断し兼ねるというのが正直なところだ。
「この状況で、心を痛めたまま体まで痛めつけられ万が一命を落としでもしたらどうするのです!?あなた、それでも血の繋がらない息子を愛でて意気揚々と生きていけますか!?」
我ながら感傷的で鬱陶しい男を徹底していると思う。
「あ、ああ、すまない」
ストールはセシア伯爵令嬢の不在に気を取られ気が気ではないらしい。適当な謝罪で私をあしらいつつ、必死で考えを巡らしているのはその表情を見れば明らかだった。
「謝るなら私ではなく婚約者殿に謝るべきでしょう!」
「ああ、そうするよ」
「信じられません!そんなに粗末にされるのであれば、御婚約を解消し自由にしてさしあげてはどうですか!あれほどの美しさならば彼女を愛する男はいくらでも現れるはずだ!」
「……」
ストールは思考をやめ、残忍さを隠しきれなかった眼差しを私に据える。
「あれは〝罪の子〟だぞ?」
「あれですって!?あなた……ああっ、なんと……あなたはあまりにも酷い。とても任せてはおけない!」
「中尉……」
ほくそ笑んだ。
ストールは確かに冷笑した。
私は憤慨した。
「一人の未婚女性の緊急事態ですよ!?それでも騎士ですか!?もういいです。彼女は国軍が保護します。私は中尉です。賓客を持成す客間の一つくらい持っていますのでご安心を!」
「ああ……そうか。頼むよ、中尉殿」
「この人でなしィッ!」
自分でもこの情緒不安定な男はなんなんだと思う。
私が赤の他人としてこの男と遭遇したら存在を悟られないよう迅速に避けるだろう。
芝居だ。芝居。
果して、目的は達成した。
私が恋心を拗らせただけの警戒に値しない男だという印象を与えると共に、婚約者であるストールから直々にスノウを預かる許可を取り付けた。何としても引き離す必要があった。スノウが傍にいては赤子に手は掛けられない。
これでスノウは安全だ。
我ながら大胆な作戦だったが、上手くいった。
癇癪を起したかのようにストールを睨みつけ、身を翻し、別れも告げず東屋を立ち去る。当然、総帥からの祝いの言葉など告げてもいない。
「なんだ、あいつ」
ストールが私を馬鹿にして笑う声が聞こえた。
私は計画が成功してもほくそ笑みはしなかった。スノウに対して全く愛情を抱いていないストールに実際憤慨していたからだ。
私は早速フローラ姫に報告した。無論、叱責を受けるのは想定内だ。
「あんたそれでも軍人!?口喧嘩だけして帰って来たって言うの!?馬鹿!?」
「申し訳ありません、殿下。併しストール卿より国軍にて御婚約者を保護する許可を頂きました」
「えっ!?」
フローラ姫は怒りと驚きと喜びを混ぜた表情で私を凝視し、次の瞬間、にたりと笑った。
私は言い知れぬ達成感を噛み締め頭を垂れた。
「僭越ながら私の邸宅にお迎えいたします。男一人の場所へ預けるのは御不安でしょうから、殿下がお付きの者をお選びください。何人でいらっしゃっても皆様を誠心誠意お持て成しさせて頂きます」
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