36 / 65
35-2※
しおりを挟む
「!」
外したのだろうか。
無謀着な背中ではなく、スカーレイは私の右腕を僅かに切りつけると肩をつかんだ。そして無理矢理フローラ姫から引き剥がそうとした。
そうしながら私の顔を覗き込んだ。
「!?」
彼女は穏やかな微笑みで私にこう言いかけた。
「スノウ。あなたを──」
併し、美しい碧い瞳を僅かに揺らし、優しく囁く。
「あなたは愛されて生まれたのよ。生きて」
恐怖と混乱で涙が溢れた。
スカーレイは涙が伝う私の頬を指先で撫でた直後、一人の騎士によって拘束されると恐ろしい暗殺者の顔になって怒号を上げた。
「レイクシアに栄光あれ!神よ!邪教の民を滅ぼし賜え!」
「スカーレイ様……?」
おかしい。
何かおかしい。
こんなのは間違っている。
フローラ姫を横たえ、私は騎士の拘束の中で暴れるスカーレイに手を伸ばした。
私の視界を遮るように軍人が膝をつく。
「総帥の目に狂いはなかったようだ。よくぞ殿下を守られた」
「……え、あの、そうではなくて……」
スカーレイが暗殺者だという話は誰かの陰謀だ。嘘だ。そんなことが、あるはずない。
そう訴えかけるには、スカーレイの言動はあまりにも不利だった。
彼女は口を塞がれるまでずっと、レイクシア万歳、レイクシアに栄光あれ、そう叫び続けた。
「く、苦しめないで……お願いします……っ!」
私は掠れてどうしようもない声を絞り出し、なんとかそう懇願する。
「殺しはしない。情報を引き出し、仲間も炙り出す必要がある。囚人として丁重に持成すはずだ」
「……でも……っ」
泣きじゃくる私の肩を軍人は一度だけ強く揉んだ。
命令にも、励ましにも感じられた。
ジェイド……
ジェイドが此処にいてくれたら……
「こんな……嘘……っ」
私は泣き崩れた。
軍人はもう私に構うことなく立ち上がり、二人の騎士に拘束されているスカーレイの鼻元に小瓶を近づける。薬を嗅がされたスカーレイは即座に意識を失い、左右から腕を掴まれ、罪人か荷物のように引き摺られていってしまった。
私は泣くことしかできなかった。
横たわるフローラ姫の傍に座り込み、フローラ姫のどこかに触れながら、ただ、号泣し続けた。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
帰りの遅いフローラ姫を心配したのか、スカーレイ逮捕の報せを聞いたのか、ロヴネル夫人が私たちを迎えに来た。
正気を失い泣き喚いていた私をロヴネル夫人は親切に介抱してくれた。
併しフローラ姫が目を覚まし、手から血を流し泣いている私を見て夢ではなかったと理解してしまい泣き出した。その痛々しい姿に私も泣いていられなくなり、嗚咽を堪え、フローラ姫を抱きしめた。
フローラ姫が私にしがみ付いて号泣している。
私も縋るようにフローラ姫を抱きしめていた。そんな私ごとロヴネル夫人が抱きしめ、背中や腕を摩ってくれる。
「大変なことになりましたね」
今日ばかりはロヴネル夫人の声も深刻だった。
セシア伯爵家の令嬢、スカーレイの逮捕。
王族の暗殺未遂。
王国を揺るがす大事件だ。
併し、これは始まりに過ぎないのだと私は後から身を以て知ることとなる。
その日、全てが崩れ去り、私は泣いて泣いて泣いて、涙が枯れるまで泣いて、知るのだ。
悪を。
外したのだろうか。
無謀着な背中ではなく、スカーレイは私の右腕を僅かに切りつけると肩をつかんだ。そして無理矢理フローラ姫から引き剥がそうとした。
そうしながら私の顔を覗き込んだ。
「!?」
彼女は穏やかな微笑みで私にこう言いかけた。
「スノウ。あなたを──」
併し、美しい碧い瞳を僅かに揺らし、優しく囁く。
「あなたは愛されて生まれたのよ。生きて」
恐怖と混乱で涙が溢れた。
スカーレイは涙が伝う私の頬を指先で撫でた直後、一人の騎士によって拘束されると恐ろしい暗殺者の顔になって怒号を上げた。
「レイクシアに栄光あれ!神よ!邪教の民を滅ぼし賜え!」
「スカーレイ様……?」
おかしい。
何かおかしい。
こんなのは間違っている。
フローラ姫を横たえ、私は騎士の拘束の中で暴れるスカーレイに手を伸ばした。
私の視界を遮るように軍人が膝をつく。
「総帥の目に狂いはなかったようだ。よくぞ殿下を守られた」
「……え、あの、そうではなくて……」
スカーレイが暗殺者だという話は誰かの陰謀だ。嘘だ。そんなことが、あるはずない。
そう訴えかけるには、スカーレイの言動はあまりにも不利だった。
彼女は口を塞がれるまでずっと、レイクシア万歳、レイクシアに栄光あれ、そう叫び続けた。
「く、苦しめないで……お願いします……っ!」
私は掠れてどうしようもない声を絞り出し、なんとかそう懇願する。
「殺しはしない。情報を引き出し、仲間も炙り出す必要がある。囚人として丁重に持成すはずだ」
「……でも……っ」
泣きじゃくる私の肩を軍人は一度だけ強く揉んだ。
命令にも、励ましにも感じられた。
ジェイド……
ジェイドが此処にいてくれたら……
「こんな……嘘……っ」
私は泣き崩れた。
軍人はもう私に構うことなく立ち上がり、二人の騎士に拘束されているスカーレイの鼻元に小瓶を近づける。薬を嗅がされたスカーレイは即座に意識を失い、左右から腕を掴まれ、罪人か荷物のように引き摺られていってしまった。
私は泣くことしかできなかった。
横たわるフローラ姫の傍に座り込み、フローラ姫のどこかに触れながら、ただ、号泣し続けた。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
帰りの遅いフローラ姫を心配したのか、スカーレイ逮捕の報せを聞いたのか、ロヴネル夫人が私たちを迎えに来た。
正気を失い泣き喚いていた私をロヴネル夫人は親切に介抱してくれた。
併しフローラ姫が目を覚まし、手から血を流し泣いている私を見て夢ではなかったと理解してしまい泣き出した。その痛々しい姿に私も泣いていられなくなり、嗚咽を堪え、フローラ姫を抱きしめた。
フローラ姫が私にしがみ付いて号泣している。
私も縋るようにフローラ姫を抱きしめていた。そんな私ごとロヴネル夫人が抱きしめ、背中や腕を摩ってくれる。
「大変なことになりましたね」
今日ばかりはロヴネル夫人の声も深刻だった。
セシア伯爵家の令嬢、スカーレイの逮捕。
王族の暗殺未遂。
王国を揺るがす大事件だ。
併し、これは始まりに過ぎないのだと私は後から身を以て知ることとなる。
その日、全てが崩れ去り、私は泣いて泣いて泣いて、涙が枯れるまで泣いて、知るのだ。
悪を。
31
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです
藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。
――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。
妹は父の愛人の子。
身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、
彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。
婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、
当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。
一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。
だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。
これは、誰かが罰した物語ではない。
ただ、選んだ道の先にあった現実の話。
覚悟のなかった婚約者が、
自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
【完結】六歳下の幼馴染に溺れた夫。白い結婚を理由に離縁を申し立てたら、義弟(溺愛)に全力で求婚されました
恋せよ恋
恋愛
夫が愛でるのは、守ってあげたくなるような「可憐な少女」。
夫が疎むのは、正論で自分を追い詰める「完璧な妻」。
「シンシア、君はしっかりしているから、大丈夫だろう?」
六歳年下の幼馴染ジェニファー子爵令嬢を気遣う貴方。
私たちは、新婚初夜さえ済ませていないのよ?
完璧な家政、完璧な社交。私が支えてきたこの家から、
ニコラス、貴方って私がいなくなったらどうなるか……。
考えたこともないのかしら?
義弟シモンは、学生時代の先輩でもあるシンシアを慕い
兄ニコラスの態度と、幼馴染ジェニファーを嫌悪する。
泣いて縋るあざとい少女と、救世主気取りの愚かな夫。
そして、義姉であるシンシアを慕うシモン。
これは、誇り高き伯爵夫人、シンシアの物語である。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
【完結】愛とは呼ばせない
野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。
二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。
しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。
サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。
二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、
まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。
サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。
しかし、そうはならなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる