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予告通り夜は宮廷の見取り図を頭に入れた。
キャタモールが用意してあった見取り図を小一時間ほど説明を受けながら眺め、折りたたまれ、直後私が同じ見取り図を描いた。
キャタモールは二枚の見取り図を暖炉の火にくべ、宮廷の秘密を灰にする。
燃え盛る火と薪の弾ける音を聞きながら、私は自分が火炙りになる未来を想像して覚悟を決めた。
国王の隠し子シャーロットを姫に仕上げるまで少なくとも数ヶ月はかかる。一年かけてもおかしくはない。その間、従順に務めを果たしながらキャタモールの弱味を握るくらい可能なはずだ。
この嫌味で気色悪い中年鷲鼻男が誰の怒りも買わずに何年も勤められるはずがない。
誰かいるはずだ……心底この鷲鼻を嫌っている人物が……誰か……
「誰を呪っているのです?イデア」
キャタモールが揶揄を含まない囁きにも似た声音で問いかけてくる。
「……あなただと言ったら、今夜私を殺しますか?」
火に煽られる私の醜い顔を見るがいい。
この顔を治すと言った。その約束を果たさなければ、命はない。
それくらいに受け取って貰って構わない。
キャタモールは長い沈黙の後に喉を振るわせて低く笑う。
「度胸がありますね。さすが私。運がいい」
「……」
新しい人物に出会う度に思い知らされる。男は、女を所有物だと思っている。
キャタモール。
私という刃を意気揚々と懐に忍ばせるがいい。
私が私の意志で切っ先を向けた時、驚きで腰を抜かそうが、無様な悲鳴を上げようが、無傷のまま別れはしない。
宮廷での密命など面白くもなんともない。
危険で後ろ暗く何が起ころうと明日は我が身。治療くらいして貰わなくては全く割に合わない。そもそも皮膚の治療は私が救助した事への返礼のはずだ。
「シャーロット姫が隣国へ嫁がれた後、私はどのような褒美を頂けるのでしょう」
「考えておきますよ。時間はたっぷりある上、あなたの働きによっては大盤振る舞いしたくならないとも限らない」
それに、とキャタモールは続ける。
「陛下から直々に頂く物があるでしょう。楽しみにしていなさい、イデア」
「……私が修道院から派遣された見習いシスターである事をお忘れなく」
「自分が陛下の寵愛を受けるかもしれないとでも?」
隠し子がいただけでも幻滅だというのに、加えて秘密裏に姫に仕立て上げ、果ては隣国へ嫁がせようとまでしている最高権力者の国王陛下。
愛人のための隠し通路や、愛人と過ごすための浴場、食堂、寝室、中庭……
「まさか。ですが陛下とて、魔が差さないとも限りませんから」
私が笑って見せると、キャタモールはややぎくりとした様子で喉を鳴らした。
私は距離を詰めた。
「私を見縊らないでください、キャタモール卿。覚悟を決めた女一人を簡単に操れるとは思わないで。あまりお戯れが過ぎるとその高い自慢のお鼻を引っ掻きますよ?」
「わかったから、落ち着いて」
取り繕う笑みを引き攣らせ、キャタモールは私を掌で制し後ずさる。
暖炉の火が程よく私を恐ろしげに演出してくれたのだろう。翌朝になって食堂で顔を合わせたキャタモールは、低姿勢で行儀のいい中年鷲鼻男になっており、軽やかな口調でついさっき摘んだらしき一凛の花を私に差し出しつつ言った。
「仲良くやりましょう」
野の花は美しいが、安く見られたものだ。
私は一凛の花を受け取り髪に挿した。
キャタモールが用意してあった見取り図を小一時間ほど説明を受けながら眺め、折りたたまれ、直後私が同じ見取り図を描いた。
キャタモールは二枚の見取り図を暖炉の火にくべ、宮廷の秘密を灰にする。
燃え盛る火と薪の弾ける音を聞きながら、私は自分が火炙りになる未来を想像して覚悟を決めた。
国王の隠し子シャーロットを姫に仕上げるまで少なくとも数ヶ月はかかる。一年かけてもおかしくはない。その間、従順に務めを果たしながらキャタモールの弱味を握るくらい可能なはずだ。
この嫌味で気色悪い中年鷲鼻男が誰の怒りも買わずに何年も勤められるはずがない。
誰かいるはずだ……心底この鷲鼻を嫌っている人物が……誰か……
「誰を呪っているのです?イデア」
キャタモールが揶揄を含まない囁きにも似た声音で問いかけてくる。
「……あなただと言ったら、今夜私を殺しますか?」
火に煽られる私の醜い顔を見るがいい。
この顔を治すと言った。その約束を果たさなければ、命はない。
それくらいに受け取って貰って構わない。
キャタモールは長い沈黙の後に喉を振るわせて低く笑う。
「度胸がありますね。さすが私。運がいい」
「……」
新しい人物に出会う度に思い知らされる。男は、女を所有物だと思っている。
キャタモール。
私という刃を意気揚々と懐に忍ばせるがいい。
私が私の意志で切っ先を向けた時、驚きで腰を抜かそうが、無様な悲鳴を上げようが、無傷のまま別れはしない。
宮廷での密命など面白くもなんともない。
危険で後ろ暗く何が起ころうと明日は我が身。治療くらいして貰わなくては全く割に合わない。そもそも皮膚の治療は私が救助した事への返礼のはずだ。
「シャーロット姫が隣国へ嫁がれた後、私はどのような褒美を頂けるのでしょう」
「考えておきますよ。時間はたっぷりある上、あなたの働きによっては大盤振る舞いしたくならないとも限らない」
それに、とキャタモールは続ける。
「陛下から直々に頂く物があるでしょう。楽しみにしていなさい、イデア」
「……私が修道院から派遣された見習いシスターである事をお忘れなく」
「自分が陛下の寵愛を受けるかもしれないとでも?」
隠し子がいただけでも幻滅だというのに、加えて秘密裏に姫に仕立て上げ、果ては隣国へ嫁がせようとまでしている最高権力者の国王陛下。
愛人のための隠し通路や、愛人と過ごすための浴場、食堂、寝室、中庭……
「まさか。ですが陛下とて、魔が差さないとも限りませんから」
私が笑って見せると、キャタモールはややぎくりとした様子で喉を鳴らした。
私は距離を詰めた。
「私を見縊らないでください、キャタモール卿。覚悟を決めた女一人を簡単に操れるとは思わないで。あまりお戯れが過ぎるとその高い自慢のお鼻を引っ掻きますよ?」
「わかったから、落ち着いて」
取り繕う笑みを引き攣らせ、キャタモールは私を掌で制し後ずさる。
暖炉の火が程よく私を恐ろしげに演出してくれたのだろう。翌朝になって食堂で顔を合わせたキャタモールは、低姿勢で行儀のいい中年鷲鼻男になっており、軽やかな口調でついさっき摘んだらしき一凛の花を私に差し出しつつ言った。
「仲良くやりましょう」
野の花は美しいが、安く見られたものだ。
私は一凛の花を受け取り髪に挿した。
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