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29(フランクリン)
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自分が世界で一番不幸だというような辛気臭い顔を俯かせ、沈黙で僕をチクチクと攻撃し続けるフィオナの幼稚な性格が心底嫌だ。鬱陶しい。
「いい加減にしたらどうだ?君の婚約披露だぞ」
「……」
イデアの修道院入りからずっとこうだ。
行き過ぎた少女趣味のせいで、この縁談に愛が介在していない事実をまるで僕からの裏切りのように捉え被害者ぶっている。
「イデアならじっと俯いて周囲の祝福を拒絶したりしない。自ら率先して挨拶に回り、招待に応じてくださった厚意へ最大限の感謝を述べているところのはずだ」
「……」
「君ときたら。誰に話しかけられても小さく会釈するだけ。話にならない。内気だと弁解するのも白々しくてうんざりだ」
「……」
「どうしてくれるんだ、フィオナ。僕たちはとんだ恥晒しだ!」
アロイシャス侯爵家で催した、婚約披露を兼ねた昼食会。
グレンフェル伯爵家との二度目の婚約である事からできる限り軽い宴会にした。
相手が姉の方から妹の方へ変わったに過ぎない。
わざわざフィオナのためにお披露目の場を用意したというのに、感謝して然るべき本人はずっとわざとらしい意気消沈の素振りで周囲を困惑させ、場の雰囲気を暗く気まずいものにし続けている。
「僕に選ばれて喜んだだろ。婚約者なら顔を上げてニコリと笑ったらどうだい?それが可愛い顔の最低限の義務だろう」
「……私は、お人形なのですか……?」
僕はうんざりして天井を仰いだ。
やっと口を利いたと思ったら、出てきたのはくだらない愚痴。
何もかもイデアとは正反対だ。
「人形の方がましだよ、フィオナ。人形とはこちらが要求しなくとも愛らしい姿で周囲を満足させる。君はいったい何の権利があってそんな我儘を貫いているんだい?いい加減、我慢の限界だ」
「でしたら……っ」
湿っぽく俯いていたフィオナが急にドレスの襞を叩きながら喚き散らし始め、僕の頭はそこから数分真っ白になった。
「私とも婚約破棄なさってください……っ、そしてお姉様と結婚されればよろしいのよ……!」
「……は?」
「修道院のお姉様を引っ張り出せるなら、どうぞ、そうなさって……!!」
フィオナは知能が発達する前の赤ん坊と幼児の間のような醜悪な顔でだらしなく泣き、僕を侮辱した後に走り去った。
「……」
周囲はしんと静まり返り、広間を駆け抜けていくフィオナを呆然と見つめる僕に視線が集まる。
「……」
愕然とした。
あれが、僕の婚約者?
あんな馬鹿が?
「……」
取り返しのつかない失敗をしてしまったのだと認めるのが恐かった。だからその考えが頭に浮かんだ瞬間に打ち消した。
イデアの価値は僕が所有する事にはなかったはずだ。
イデアは修道院にいる。それは僕との結婚よりも高みに上るためにそうしているのだ。
アロイシャス侯爵家はいずれ修道院及び教会の後ろ盾を得る。爵位を越え王政にも介入できるだけの権威を得る。
僕たち両家には何も問題はない。
問題はこの現実を理解する能力のないフィオナただ一人にある。
「これはこれは御見苦しい所を皆様にお見せしてしまいました」
微妙な空気の中でグレンフェル伯爵が陽気に口を開く。
「申し訳ありません、皆様。私は二人の愚かな娘の父親であります」
「……」
イデアの父親は、まだ役割を理解しているようだ。
「上の娘はアロイシャス侯爵令息フランクリン様と婚約中でありながら、神の導きによってシスターになりました。いくら神の導きとはいえ無礼で愚かな事です。しかし心優しいフランクリン様は娘の信仰心を尊重してくださり、下の娘と改めて絆を結んでくださいました。これほど慈悲深く美しい縁談が他にあるでしょうか」
そうだ。
それでいい。
「ところがまだ幼さの残る下の娘は、その未熟さから、自分が愛を奪ってしまったと誤解して心を傷めておるのです。皆様の祝福を受けると胸が痛むのです。これはひとえに私と妻の教育不足に原因があるのです」
僕はゆっくりと義理の父となるグレンフェル伯爵に歩み寄る。
「どうかフィオナが今一度姿をお見せいたしましたら、この素晴らしい婚約への祝福の言葉をかけてやっては頂けないでしょうか。あの子は只、無垢なのです」
「ありがとう、義父さん」
グレンフェル伯爵に腕を伸ばし、抱擁を交わす。
「僕が必ずフィオナを幸せにします。皆さん!未熟な夫婦未満の僕たちですが、どうか見守ってください。そして僕の愛がフィオナに届くよう祈ってください。お願いします……!」
「ああ、フランクリン様……!」
「義父さん……!」
とんだ茶番だが効果はあった。
フィオナが白けさせた細やかな昼食会が、再び和やかな雰囲気で満たされる。
父は向こうで苦い顔をしているが、僕は義父となるグレンフェル伯爵の背中を親しみを込めて撫でて見せた。これは僕とグレンフェル伯爵家の共同作業だ。うまくやれる。
「僕はフィオナを迎えに行きます」
これで皆、美しい思い出を共有できた。
これが縁談というものだ。
「いい加減にしたらどうだ?君の婚約披露だぞ」
「……」
イデアの修道院入りからずっとこうだ。
行き過ぎた少女趣味のせいで、この縁談に愛が介在していない事実をまるで僕からの裏切りのように捉え被害者ぶっている。
「イデアならじっと俯いて周囲の祝福を拒絶したりしない。自ら率先して挨拶に回り、招待に応じてくださった厚意へ最大限の感謝を述べているところのはずだ」
「……」
「君ときたら。誰に話しかけられても小さく会釈するだけ。話にならない。内気だと弁解するのも白々しくてうんざりだ」
「……」
「どうしてくれるんだ、フィオナ。僕たちはとんだ恥晒しだ!」
アロイシャス侯爵家で催した、婚約披露を兼ねた昼食会。
グレンフェル伯爵家との二度目の婚約である事からできる限り軽い宴会にした。
相手が姉の方から妹の方へ変わったに過ぎない。
わざわざフィオナのためにお披露目の場を用意したというのに、感謝して然るべき本人はずっとわざとらしい意気消沈の素振りで周囲を困惑させ、場の雰囲気を暗く気まずいものにし続けている。
「僕に選ばれて喜んだだろ。婚約者なら顔を上げてニコリと笑ったらどうだい?それが可愛い顔の最低限の義務だろう」
「……私は、お人形なのですか……?」
僕はうんざりして天井を仰いだ。
やっと口を利いたと思ったら、出てきたのはくだらない愚痴。
何もかもイデアとは正反対だ。
「人形の方がましだよ、フィオナ。人形とはこちらが要求しなくとも愛らしい姿で周囲を満足させる。君はいったい何の権利があってそんな我儘を貫いているんだい?いい加減、我慢の限界だ」
「でしたら……っ」
湿っぽく俯いていたフィオナが急にドレスの襞を叩きながら喚き散らし始め、僕の頭はそこから数分真っ白になった。
「私とも婚約破棄なさってください……っ、そしてお姉様と結婚されればよろしいのよ……!」
「……は?」
「修道院のお姉様を引っ張り出せるなら、どうぞ、そうなさって……!!」
フィオナは知能が発達する前の赤ん坊と幼児の間のような醜悪な顔でだらしなく泣き、僕を侮辱した後に走り去った。
「……」
周囲はしんと静まり返り、広間を駆け抜けていくフィオナを呆然と見つめる僕に視線が集まる。
「……」
愕然とした。
あれが、僕の婚約者?
あんな馬鹿が?
「……」
取り返しのつかない失敗をしてしまったのだと認めるのが恐かった。だからその考えが頭に浮かんだ瞬間に打ち消した。
イデアの価値は僕が所有する事にはなかったはずだ。
イデアは修道院にいる。それは僕との結婚よりも高みに上るためにそうしているのだ。
アロイシャス侯爵家はいずれ修道院及び教会の後ろ盾を得る。爵位を越え王政にも介入できるだけの権威を得る。
僕たち両家には何も問題はない。
問題はこの現実を理解する能力のないフィオナただ一人にある。
「これはこれは御見苦しい所を皆様にお見せしてしまいました」
微妙な空気の中でグレンフェル伯爵が陽気に口を開く。
「申し訳ありません、皆様。私は二人の愚かな娘の父親であります」
「……」
イデアの父親は、まだ役割を理解しているようだ。
「上の娘はアロイシャス侯爵令息フランクリン様と婚約中でありながら、神の導きによってシスターになりました。いくら神の導きとはいえ無礼で愚かな事です。しかし心優しいフランクリン様は娘の信仰心を尊重してくださり、下の娘と改めて絆を結んでくださいました。これほど慈悲深く美しい縁談が他にあるでしょうか」
そうだ。
それでいい。
「ところがまだ幼さの残る下の娘は、その未熟さから、自分が愛を奪ってしまったと誤解して心を傷めておるのです。皆様の祝福を受けると胸が痛むのです。これはひとえに私と妻の教育不足に原因があるのです」
僕はゆっくりと義理の父となるグレンフェル伯爵に歩み寄る。
「どうかフィオナが今一度姿をお見せいたしましたら、この素晴らしい婚約への祝福の言葉をかけてやっては頂けないでしょうか。あの子は只、無垢なのです」
「ありがとう、義父さん」
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「ああ、フランクリン様……!」
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これが縁談というものだ。
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