恐ろしい仮面の王妃様 ~妹に婚約者を奪われた私が国王陛下に愛されています~

希猫 ゆうみ

文字の大きさ
29 / 84

29(フランクリン)

しおりを挟む
自分が世界で一番不幸だというような辛気臭い顔を俯かせ、沈黙で僕をチクチクと攻撃し続けるフィオナの幼稚な性格が心底嫌だ。鬱陶しい。

「いい加減にしたらどうだ?君の婚約披露だぞ」
「……」

イデアの修道院入りからずっとこうだ。
行き過ぎた少女趣味のせいで、この縁談に愛が介在していない事実をまるで僕からの裏切りのように捉え被害者ぶっている。

「イデアならじっと俯いて周囲の祝福を拒絶したりしない。自ら率先して挨拶に回り、招待に応じてくださった厚意へ最大限の感謝を述べているところのはずだ」
「……」
「君ときたら。誰に話しかけられても小さく会釈するだけ。話にならない。内気だと弁解するのも白々しくてうんざりだ」
「……」
「どうしてくれるんだ、フィオナ。僕たちはとんだ恥晒しだ!」

アロイシャス侯爵家で催した、婚約披露を兼ねた昼食会。
グレンフェル伯爵家との二度目の婚約である事からできる限り軽い宴会にした。

相手が姉の方から妹の方へ変わったに過ぎない。
わざわざフィオナのためにお披露目の場を用意したというのに、感謝して然るべき本人はずっとわざとらしい意気消沈の素振りで周囲を困惑させ、場の雰囲気を暗く気まずいものにし続けている。

「僕に選ばれて喜んだだろ。婚約者なら顔を上げてニコリと笑ったらどうだい?それが可愛い顔の最低限の義務だろう」
「……私は、お人形なのですか……?」

僕はうんざりして天井を仰いだ。
やっと口を利いたと思ったら、出てきたのはくだらない愚痴。

何もかもイデアとは正反対だ。

「人形の方がましだよ、フィオナ。人形とはこちらが要求しなくとも愛らしい姿で周囲を満足させる。君はいったい何の権利があってそんな我儘を貫いているんだい?いい加減、我慢の限界だ」
「でしたら……っ」

湿っぽく俯いていたフィオナが急にドレスの襞を叩きながら喚き散らし始め、僕の頭はそこから数分真っ白になった。

「私とも婚約破棄なさってください……っ、そしてお姉様と結婚されればよろしいのよ……!」
「……は?」
「修道院のお姉様を引っ張り出せるなら、どうぞ、そうなさって……!!」

フィオナは知能が発達する前の赤ん坊と幼児の間のような醜悪な顔でだらしなく泣き、僕を侮辱した後に走り去った。

「……」

周囲はしんと静まり返り、広間を駆け抜けていくフィオナを呆然と見つめる僕に視線が集まる。

「……」

愕然とした。
あれが、僕の婚約者?
あんな馬鹿が?

「……」

取り返しのつかない失敗をしてしまったのだと認めるのが恐かった。だからその考えが頭に浮かんだ瞬間に打ち消した。

イデアの価値は僕が所有する事にはなかったはずだ。
イデアは修道院にいる。それは僕との結婚よりも高みに上るためにそうしているのだ。

アロイシャス侯爵家はいずれ修道院及び教会の後ろ盾を得る。爵位を越え王政にも介入できるだけの権威を得る。
僕たち両家には何も問題はない。

問題はこの現実を理解する能力のないフィオナただ一人にある。

「これはこれは御見苦しい所を皆様にお見せしてしまいました」

微妙な空気の中でグレンフェル伯爵が陽気に口を開く。

「申し訳ありません、皆様。私は二人の愚かな娘の父親であります」
「……」

イデアの父親は、まだ役割を理解しているようだ。

「上の娘はアロイシャス侯爵令息フランクリン様と婚約中でありながら、神の導きによってシスターになりました。いくら神の導きとはいえ無礼で愚かな事です。しかし心優しいフランクリン様は娘の信仰心を尊重してくださり、下の娘と改めて絆を結んでくださいました。これほど慈悲深く美しい縁談が他にあるでしょうか」

そうだ。
それでいい。

「ところがまだ幼さの残る下の娘は、その未熟さから、自分が愛を奪ってしまったと誤解して心を傷めておるのです。皆様の祝福を受けると胸が痛むのです。これはひとえに私と妻の教育不足に原因があるのです」

僕はゆっくりと義理の父となるグレンフェル伯爵に歩み寄る。

「どうかフィオナが今一度姿をお見せいたしましたら、この素晴らしい婚約への祝福の言葉をかけてやっては頂けないでしょうか。あの子は只、無垢なのです」


グレンフェル伯爵に腕を伸ばし、抱擁を交わす。

「僕が必ずフィオナを幸せにします。皆さん!未熟な夫婦未満の僕たちですが、どうか見守ってください。そして僕の愛がフィオナに届くよう祈ってください。お願いします……!」
「ああ、フランクリン様……!」
「義父さん……!」

とんだ茶番だが効果はあった。
フィオナが白けさせた細やかな昼食会が、再び和やかな雰囲気で満たされる。

父は向こうで苦い顔をしているが、僕は義父となるグレンフェル伯爵の背中を親しみを込めて撫でて見せた。これは僕とグレンフェル伯爵家の共同作業だ。うまくやれる。

「僕はフィオナを迎えに行きます」

これで皆、美しい思い出を共有できた。
これが縁談というものだ。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】

小平ニコ
恋愛
「パメラが熱を出したから、今日は約束の場所に行けなくなった。今度埋め合わせするから許してくれ」 ジョセフはそう言って、婚約者である私とのデートをキャンセルした。……いったいこれで、何度目のドタキャンだろう。彼はいつも、体の弱い幼馴染――パメラを優先し、私をないがしろにする。『埋め合わせするから』というのも、口だけだ。 きっと私のことを、適当に謝っておけば何でも許してくれる、甘い女だと思っているのだろう。 いい加減うんざりした私は、ジョセフとの婚約関係を終わらせることにした。パメラは嬉しそうに笑っていたが、ジョセフは大いにショックを受けている。……それはそうでしょうね。私のお父様からの援助がなければ、ジョセフの家は、貴族らしい、ぜいたくな暮らしを続けることはできないのだから。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...