恐ろしい仮面の王妃様 ~妹に婚約者を奪われた私が国王陛下に愛されています~

希猫 ゆうみ

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カール殿下に頼み、シャーロット姫が嫁ぐ事になるリムマーク大公国の書物を私用に数冊用意してもらった。

元は異国の公爵領だった地域が大公国として独立し、母体国の文化を根底に栄えた歴史のあるリムマーク大公国は、隣国でありながら言語体系が異なる興味深い背景を持つ。

数世代に渡るリムマーク大公国からの侵攻を代々の国王が防ぎ続け、現国王エルズワース3世陛下はついに友好関係にまで持ち込んだ。偉大だが、その総仕上げに隠し子の姫を嫁がせるとは些か狡い。

女として苦々しくもある反面、今まさに歴史がうねり、その渦中に身を投じようとしている一人の姫には若干の羨望を禁じ得ない。
ただ本人が望むかどうかはまた別の話である。

権力には義務が伴う。
王家の血が流れている人間にはそれ相応の責任があり、公私の公を重視すべきなのは世界共通の掟だ。王族になれると浮かれて喜ぶ村娘もいるだろうがシャーロットはそうではない。

リムマーク大公国で何かシャーロットが楽しめそうな文化や風習はないのか、私は自身の知識欲を満たしつつ探ろうと思っていた。

布屋の娘として生きてきたシャーロットが衣装室長チチェスター伯爵夫人と懇意になれたらそれに越した事はなかったが、今となっては夢のまた夢。

私がシャーロットなら、嫁ぎ先でドレスの製作に携わるのも面白いと考えるだろう。そこで先方の伝統を用いたドレスを仕立てて式典で身に着け、心からの友愛を示し諸侯を掌握する。
そう推奨してこなせる相手ならばするが、悲しくもシャーロットには現段階で期待できない。

だからといってシャーロットにしかできない事も多くある。
それを魅力という。

カール殿下が良識ある優しい王子だからというだけでは、こうも丁重に扱われない。シャーロットには庇護欲を刺激するある種の愛らしさが備わっている。

鬱陶しい泣き虫だと心で罵った私さえ、出会って数日で掛け値なしに励ましてしまった。

先方の王子が余程性格に難ありでない限り、シャーロット姫はうまくやれるだろう。
語学を習得させたら宮廷での処世術を叩き込んでおかなければならない。

シャーロット姫の性質を考えれば有能な侍女で脇を固めるのは必須だ。出し抜くような野心を抱いた侍女や、外国の妃を虐め抜くような碌でもない侍女では半年も身がもたない。

「……」

教えなければいけない事は山ほどある。
私がついて行くわけにはいかないのだ。

とはいえ眠気に襲われてしまえば私とてひとたまりもない。
朝の頭の回る時間に学習を回し、書物を閉じて鏡台の椅子に座る。美容と治療、二つのクリームを顔に塗りたくり今更ながらに思い至った。

私は国王陛下の愛人だった歌姫の私室で、彼女の鏡台を使っている。
しかもそれはシャーロット姫の母親なのだ。

「……」

大変、気色悪い。
明日の朝すっきりと目が覚めたなら、更なる爽快感についてカール殿下と話し合ってみてもいいかもしれない。
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