恐ろしい仮面の王妃様 ~妹に婚約者を奪われた私が国王陛下に愛されています~

希猫 ゆうみ

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聴覚は視覚以上に感情へ強い影響力を持つ。
薬学ではなく人体についての専門書を読んだら、私の仮説が正しいかどうか探ってみよう。

カール殿下の声に私の頬が熱を持った。
判断が鈍る。

「昼食だ。シャーロットが待っている。続きはまた」

いつものカール殿下に戻ったので、私も教育係の笑顔で同意を示した。

秘密の通路へと滑り込みしばらく無言で進んでいると、妙にカール殿下の空気を感じて混乱し、私は仮説への確信を強めた。衣類の外側に新たな層を纏っているわけではないが、私が意識するから見えないものを感じているのだ。
私がカール殿下への好意を誘発されている。

なるほど。
一つ知った。

迂闊に物を尋ねてはいけないのだという事を。

「さっき言いそびれた事がある」
「……」

沈黙を破るのはカール殿下の得意技の一つ。
声が出なかった。聞いている意味を込めて顔を傾けた。現在の心境で並行して歩きながら間近で顔を見上げるのは有益ではない。

「私が聞いた話では、シャーロットの養母は同行を拒んだらしい」
「……」
「シャーロットは知らない」
「待って」

足を止める。
シャーロットにとって重要なのは養母の方だろうか。

「待ってください」

言い直す。
カール殿下の新たな空気は、やはり私側の問題だ。消えた。

「殿下は誰からお聞きになったのですか?」
「陛下」
「では陛下に言ったのはキャタモールですね」
「そうだ」
「キャタモール卿は真実を話すでしょうか」

狂った中年の鷲鼻男は、無実の罪で咎を受けたと陛下を恨んでいる。
私に対しても真実を語るとは限らない。

「誰でしょう、シャーロットの育ての親とは」
「聞いてないか?クリスティーンの弟夫婦だ」
「では、血が繋がらない方との絆が強いのですね」
「ああ。シャーロットは実の母親だと思っている。養母の方も、娘の幸せを願っているだろう」

真実である保証はない。
キャタモールの発言にはあらゆる嘘が含まれている可能性がある。シャーロットについても、クリスティーンについても同じだ。

私自身に課せられた嘘は共犯者である事。

「……」

シャーロットはどうだろうか?
クリスティーンは?

「イデア?」
「……」

クリスティーンはに死んだとキャタモールは答えていた。私の質問に答えたのだ。

私の確信は宛にならない。
情報源に信憑性がないからだ。私としたことが、感情に流されてすっかりキャタモールに言い包められていた。

私を利用している。
私に真実を明かす事は重要ではなく、私が思い通りに動く事が重要なのだ。

「殿下。お願いがあるのですが」
「ああ、なんだい?」

カール殿下は嬉しそうな声で応じる。
私も期待が膨らみ、素直な笑顔で彼を見上げた。

「私も姫様のように探検がしたいと言ったら、協力してくださいますか?」

私の見せられた見取り図が真実だと思い込んだのは、愛人用の部分だけが私にとっての現実だったからだ。

「もちろん」

カール殿下は楽しそうに請合い、断りもなく私の手を握った。

「──」

あの空気が戻ってくる。
導くための手の体温が、私に流れ込んでくる。

シャーロットはチチェスター伯爵夫人が見ていてくれる。チチェスター伯爵夫人はカール殿下と私の恋という幻想を持っている。
私たちが姿を現さなくても彼女は喜ぶ。

私を城に留めたいカール殿下は積極的に案内してくれた。
それで目が覚めた。

私はキャタモール側でもカール殿下側でもない、私自身の目で見ればいいのだと。

単純な事だった。
決断すべき時に、決断すればいい。

その時が来るまで私の目で事実を積み重ねていけば、やがて下す決断は私の真実になる。それでいいのだ。

その後もシャーロットは故郷を恋しがりながらも懸命にレッスンに励んだ。
カール殿下は二人きりになる機会を意図的に増やし私に甘い顔を見せた。
キャタモールは自我の強い私が好きだ。意見の衝突や別行動を咎めたりしない。

シャーロットと逃亡するのは選択肢の一つ。
判断を誤らない為に私は自分を信じ続けた。

そして、ついに重要な事実が積み重なる。

「──かつて密かに愛した女がいた。今日ここに娘の存在を明らかにしよう。我がアレテイト王国の姫シャーロットだ」

一年も掛からなかった。教育係を務めて8ヶ月半。隠し子である姫君シャーロットが公に発表された。
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