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国王陛下による聴取は秘密裏に行われた。それは当然だが、愛人用の中庭を選ぶ辺りやはり陛下は箍が外れている。
陛下が噴水を背にして持ち込んだ椅子に腰かけ、私とキャタモールが前に跪き、背後にカール殿下が控えている状態で聴取は進んだ。
陛下は其々の話を黙って聞いていた。不気味な程、静かだった。時皴の深い目元に漂う寂寥感だけは、失われた愛を追いかけ続けているように見えた。
キャタモールの後に私が事実を述べる。ただ、シャーロットの真の父親についてはまだ伏せていた。カール殿下と相談し、陛下の信頼を得てからと決めてあった。私を信用していない状態で話せば、キャタモールへの怒りがシャーロットへ飛び火する危険がある。第一、こちらには実の息子、王太子カール殿下がいるのだ。焦る必要はなかった。
議題は主にキャタモールが捏造した私の陰謀と、それに対する否定。
カール殿下が口を開いた。
「陛下、私はイデアが事実を語っていると確信しています。疑う必要がない。目を覚ましてください」
「ほら!殿下はすっかり誑かされている!!」
「それは違う」
騒ぐキャタモールをカール殿下は厳しく否定し続ける。
「私がイデアを愛した。告白します、陛下。彼女は私の太陽。かけがえのない最愛の人です。結婚を申し込みました」
「なんだと?」
陛下の口から小さな驚きが洩れる。キャタモールは大袈裟に憤慨し髪を掻き毟る。
「ああ!陛下!こういう女なのです!私たちからシャーロットを奪い、カール殿下の心を操り宮廷を乗っ取る気です!!」
「否、お前はついさっきまで、イデア先生がアンセルム王子を狙い邪魔なシャーロットを陥れたと言っていたではないか」
「そうです!この阿婆擦れは身の程も弁えず二人の王子を天秤に掛け、悍ましい事に陛下の御子息を魅了してしまったのです!」
何故この馬鹿馬鹿しいキャタモールの話に陛下が耳を傾けるのか謎だが、まともに付き合っているという現実は受け止めなければ先へ進めない。
だからこそ正気かそうでないか判断が難しくなる。
陛下は一見冷静であり、私にも敬意を示し続けている。
「こんな事がなければ、イデア先生を息子の妃にという話を祝福しただろう。イデア先生、シャーロットが無事だと言うなら連れて来てくれないだろうか。そうすれば本人の口から理由を聞ける。アンセルム王子が嫌だと言うなら他の相手を考えるまでだから」
「まだわからないのですか陛下!この女はシャーロットを殺してしまったのですよ!!」
「そうは思えない」
煮え切らない陛下にも苛立ちが募るが、何処で鞭打ちを決意するか知れたものではないためなるべく刺激しないよう努めるしかなかった。
宥めるつもりで私は答えを口にする。
「陛下。姫様は生きておられます」
「イデア先生」
陛下が私を見据える。
泥のような重く濁る眼差しに、悪寒が走る。
私は息を呑んだ。
やはり陛下は冷静ではない。緩やかに時を重ね、静かに狂ってきたのだろう。何処か夢を見るような目をして私に想いをぶつけてくる。
「もう耐えられないのだよ。愛する女が去っていくのは」
「……」
「生きているなら理由を知りたいのだ。なぜ、逃げたのか」
「……」
「あれも逃げた。私の愛し方が足りなかったせいだ。私の心無い言葉に思い悩み、私の子を宿した途端に逃げてしまった。あれも死んだ。私にはもうシャーロットだけなんだ。頼む……イデア先生、何故そんな顔をする?クリスティーンもそんな顔をしていた。私の何が恐いんだ?」
内心、私は動揺していた。
カール殿下も言葉を失っている。
あれと言った。
愛していると言いながら、シャーロットやその母親クリスティーンの気持ちを慮る気配すらない。ただ傍に置きたい。それだけだ。
つまりは人形と同じ。
それでも敵に回すのは得策ではない。キャタモールではなくこちらについて貰わなくては困る。
シャーロットの真の父親を明かしキャタモールを断罪するには陛下の信頼と決断が不可欠だ。
「陛下」
私の声はいつも通りの冷静さを失ってはいない。
「姫様が恐れているのはキャタモール卿です。キャタモール卿から逃げたのです」
「戯言だ!くそ!」
怒鳴りながらついに手を出してきたキャタモールを、背後からカール殿下が取り押さえる。私への暴行があったためか、カール殿下の手つきは容赦がなかった。
キャタモールは私がシャーロットを守るために父親を明かさないだろうと高を括っている。黙って殴られたのだから、そう思われても当然だ。だが真実を隠したまま明かせる事実は他にもある。
「実は姫様の顔には傷痕があるのです」
「何?」
「普段は上手く隠しています。問題は、誰が負わせた傷かと言う事です」
疑念が理性を呼び戻す事は往々にしてあるものだ。
陛下の顔つきが変わり、私を凝視する。
キャタモールは叫ぶ。
「陛下!耳を傾けてはいけません!この女は嘘つきです!!」
心外だ。
侮辱も大概にしてもらいたい。
「キャタモール卿は姫様を見つけられた際、姫君として相応しい姿であるようにと手を加えました。顔の肉を切り骨を削りまた美しく縫い合わせたのです」
「黙れイデア!」
「最初、姫様があまりにもキャタモール卿を恐がるので不思議でした。けれど答えは簡単でした」
「黙れ黙れ、黙れッ!」
「私も暴力をふるわれましたが姫様の恐怖や傷みは私の比ではないでしょう。自分の顔を切り刻んだ男など恐ろしくてたまりません」
「この裏切り者ぉ!!」
「光栄よ!」
私は怒鳴り返した。
陛下が噴水を背にして持ち込んだ椅子に腰かけ、私とキャタモールが前に跪き、背後にカール殿下が控えている状態で聴取は進んだ。
陛下は其々の話を黙って聞いていた。不気味な程、静かだった。時皴の深い目元に漂う寂寥感だけは、失われた愛を追いかけ続けているように見えた。
キャタモールの後に私が事実を述べる。ただ、シャーロットの真の父親についてはまだ伏せていた。カール殿下と相談し、陛下の信頼を得てからと決めてあった。私を信用していない状態で話せば、キャタモールへの怒りがシャーロットへ飛び火する危険がある。第一、こちらには実の息子、王太子カール殿下がいるのだ。焦る必要はなかった。
議題は主にキャタモールが捏造した私の陰謀と、それに対する否定。
カール殿下が口を開いた。
「陛下、私はイデアが事実を語っていると確信しています。疑う必要がない。目を覚ましてください」
「ほら!殿下はすっかり誑かされている!!」
「それは違う」
騒ぐキャタモールをカール殿下は厳しく否定し続ける。
「私がイデアを愛した。告白します、陛下。彼女は私の太陽。かけがえのない最愛の人です。結婚を申し込みました」
「なんだと?」
陛下の口から小さな驚きが洩れる。キャタモールは大袈裟に憤慨し髪を掻き毟る。
「ああ!陛下!こういう女なのです!私たちからシャーロットを奪い、カール殿下の心を操り宮廷を乗っ取る気です!!」
「否、お前はついさっきまで、イデア先生がアンセルム王子を狙い邪魔なシャーロットを陥れたと言っていたではないか」
「そうです!この阿婆擦れは身の程も弁えず二人の王子を天秤に掛け、悍ましい事に陛下の御子息を魅了してしまったのです!」
何故この馬鹿馬鹿しいキャタモールの話に陛下が耳を傾けるのか謎だが、まともに付き合っているという現実は受け止めなければ先へ進めない。
だからこそ正気かそうでないか判断が難しくなる。
陛下は一見冷静であり、私にも敬意を示し続けている。
「こんな事がなければ、イデア先生を息子の妃にという話を祝福しただろう。イデア先生、シャーロットが無事だと言うなら連れて来てくれないだろうか。そうすれば本人の口から理由を聞ける。アンセルム王子が嫌だと言うなら他の相手を考えるまでだから」
「まだわからないのですか陛下!この女はシャーロットを殺してしまったのですよ!!」
「そうは思えない」
煮え切らない陛下にも苛立ちが募るが、何処で鞭打ちを決意するか知れたものではないためなるべく刺激しないよう努めるしかなかった。
宥めるつもりで私は答えを口にする。
「陛下。姫様は生きておられます」
「イデア先生」
陛下が私を見据える。
泥のような重く濁る眼差しに、悪寒が走る。
私は息を呑んだ。
やはり陛下は冷静ではない。緩やかに時を重ね、静かに狂ってきたのだろう。何処か夢を見るような目をして私に想いをぶつけてくる。
「もう耐えられないのだよ。愛する女が去っていくのは」
「……」
「生きているなら理由を知りたいのだ。なぜ、逃げたのか」
「……」
「あれも逃げた。私の愛し方が足りなかったせいだ。私の心無い言葉に思い悩み、私の子を宿した途端に逃げてしまった。あれも死んだ。私にはもうシャーロットだけなんだ。頼む……イデア先生、何故そんな顔をする?クリスティーンもそんな顔をしていた。私の何が恐いんだ?」
内心、私は動揺していた。
カール殿下も言葉を失っている。
あれと言った。
愛していると言いながら、シャーロットやその母親クリスティーンの気持ちを慮る気配すらない。ただ傍に置きたい。それだけだ。
つまりは人形と同じ。
それでも敵に回すのは得策ではない。キャタモールではなくこちらについて貰わなくては困る。
シャーロットの真の父親を明かしキャタモールを断罪するには陛下の信頼と決断が不可欠だ。
「陛下」
私の声はいつも通りの冷静さを失ってはいない。
「姫様が恐れているのはキャタモール卿です。キャタモール卿から逃げたのです」
「戯言だ!くそ!」
怒鳴りながらついに手を出してきたキャタモールを、背後からカール殿下が取り押さえる。私への暴行があったためか、カール殿下の手つきは容赦がなかった。
キャタモールは私がシャーロットを守るために父親を明かさないだろうと高を括っている。黙って殴られたのだから、そう思われても当然だ。だが真実を隠したまま明かせる事実は他にもある。
「実は姫様の顔には傷痕があるのです」
「何?」
「普段は上手く隠しています。問題は、誰が負わせた傷かと言う事です」
疑念が理性を呼び戻す事は往々にしてあるものだ。
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キャタモールは叫ぶ。
「陛下!耳を傾けてはいけません!この女は嘘つきです!!」
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「キャタモール卿は姫様を見つけられた際、姫君として相応しい姿であるようにと手を加えました。顔の肉を切り骨を削りまた美しく縫い合わせたのです」
「黙れイデア!」
「最初、姫様があまりにもキャタモール卿を恐がるので不思議でした。けれど答えは簡単でした」
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