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二章 親なんだから

生きる希望①

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 朝起きると、不思議と体が軽く感じた。
 昨日の施術が、体に良い効力をもたらしているのだろうか。いつもは鈍い頭も、嘘のようにシャキッと働く。
 あと数回しか着るチャンスのないセーラー服に着替えて、余裕を持って家を出た。

 私が通っている高校までは、電車一本で行ける。
 大体三十分くらい電車に揺られると、学校の最寄り駅に着く。
 駅から学校までは綺麗な並木道で、春には桜が咲き誇る。
 三月の下旬の今が、この道を通る最高の時期と言えるだろう。

 すでに卒業式を終えているのにも関わらず、私は学校までの道を昨日今日と歩いていた。
 何故なら、三月の末までは、高校の図書室が利用できるから。
 昨日も、しっかりとセーラー服を着て、図書室に出向いた。
 死ぬ前に大好きだった空間を、感じておきたかったからだ。
 本に囲まれたあの場所が、高校生活の三年間を支えてくれたと思っている。

 もう少しで、高校生と言えることもなくなる。
 本当だったら、その寂しさなんて気にならなかったけど、これからも人生が続いていくと思うと、歳を重ねるのが怖くなってきた。
 薄っすらと溜息を吐きながら、桜が舞い散る道を下向き加減で歩く。

「おはよう栞! 今日も図書室?」

「ユウ? びっくりしたなぁ」

 後ろから音も立てずに近づいてきたのは、私の唯一の友人、ユウだった。
 ユウとは三年生で初めて同じクラスになって、それまではお互いに群れることなく過ごしていたから、出会った瞬間に意気投合した。
 だけど、お互いに一人を好む性格だということも把握しているために、私の悩みとかを打ち明けたりはしていない。
 あくまでも、適度な距離を保って接してきた。

「好きだねぇ、図書室」

「ユウだって、今日も図書室でしょ?」

「まあね」

 ユウと私は、図書室に住んでいるんじゃないかと思われるくらい、本の虫だった。
 本の世界にどっぷり浸かっていた者同士だから、図書室をギリギリまで利用したいという気持ちは、十分にわかる。
 今日は久しぶりに、足並みを揃えて図書室に行けそうだ。

「ねぇ、栞。この道を通るのも、もうすぐ終わりだね」

 桜吹雪が、ユウの切なそうな表情に彩りを加えている。
 私は「そうだね」と言って、ユウの眺める先の桜を見た。
 風がブワッと拭いて、木の枝が上下に激しく揺れる。
 簡単に散りゆく花びらを見ながら、学校までの道のりを噛みしめて歩いた。

 春休み真っ最中とはいえ、部活で校内を走っている生徒や、私たちと同じように図書室を利用する生徒が存在するので、決して静かな校舎というわけではない。
 特に野球部やサッカー部が校内を走ると、ドタバタと激しい音が学校中に響く。
 今日は晴れているから、グラウンドで練習しているかと思ったけど、エネルギッシュに校内を駆け回っていた。
 図書室は奥まった場所にあるため、その音が聞こえることはないけど、廊下が賑やかなのは苦手だ。
 それはユウも同じなようで、人とすれ違うのを避けるように、廊下の端っこを歩いて図書室に入る。

「昨日の雨で、グラウンドが汚れてるんだね」

 図書室に入るなり、ユウは気づいたことを小声で言ってくれる。昨日、昼間に雨が降っていたことを、全く覚えていなかった。
 確かに豪雨だったから、未だにグラウンドが渇いていないのも頷ける。
 だから、今日は室内で練習している部活が多いのか。
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