序・思わぬ収穫?

七月 優

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三歳

暗雲到来?

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 私がこちらで意識をはっきり持ったのが、おそらく二歳なりたて頃の冬。
 あれからまもなく、二年が過ぎようとしています。
 ええ、季節は巡って、また冬となりました。年末も近く、新年が明ければ私は三歳を卒業しているはずです。

 そこに至るまで、孤児院ではちょっとした変化がございました。
 今まで孤児院に勤めていた大人の女性陣が、産休などで一人・また一人といなくなってしまったのです。
 出会いがあれば別れは必ず訪れます。それぞれの人生があるので、こればっかりは致し方ありません。
 子ども側は温かく「元気でね」と、彼女たちを見送るのみです。

 ですが、そうなると、子どもたちが全員お行儀がよろしくしていても、やはり院長先生の負担はかかります。年上組の子たちが院長先生のお手伝いをしたり、下の子の面倒を見たりするのも、限界はありますしね。

 どうするのかなと思っていたら、ディソンの月(≒前世の十二月)に、補助スタッフと思しき女性が登場しました。
 二十歳くらいの女性です。ぱっとみ、しっかりしていて、厳しそうなイメージがあります。
 紹介された情報によると、彼女は若くも副院長の立場を担うのだそうです。きっと優秀なんでしょうね。

 彼女は確かに仕事面においてかなり優秀でした。
 子ども側の視点で見ても、院長先生の負担は大分軽減されたと思います。
 ただ、どうしても看過できない彼女の欠点というか、ユニークな特技がございまして。

「うっ……」
「おい、今日もまた……」

 副院長が孤児院に来て以来、食堂での食事中、子どもたちの一部からそんなコソコソ話が飛び交うのは、毎度のこととなりました。
 
 はっきり告げてしまうと、副院長が作る料理は、おいしくはないのです。
 不味くて食べられないというわけではありません。空腹という最上級のスパイスがあれば、頑張って根性で食べられるレベルには、毎度到達していますよ。
 ただひたすらに、副院長が少しでも手をかけてしまった料理は、何を食べても「おいしい」とは感じないのです。なぜか、「おいしい」の域には絶対にいかない料理を、彼女は生み出します。
 ある意味、「一種の才能」だと私は断定していますよ。
 こう思っているのは、私だけではありません。私以外の孤児院の子どもたちも同様で、院長先生すらそう思っているのです。マリエラすら、私にこっそり耳打ちしてくれたほどなのです。

 無論、誰も副院長に面と向かってそんなことは口にしません。彼女を傷つけまいとする暗黙のルールが、完全に出来上がっています。
 なんですかね? もしかしたら、彼女亜鉛不足なんでしょうか。
 真相は闇の中ですとも。

 とはいえど、さすがに毎日三食副院長の料理では、失礼ながらきついものがあります。
 そのため年長組が「副院長先生にばかり負担かけちゃ悪いから」的な理由をつけて、何かと副院長を食事係から遠ざけてはくれています。
 
「新任の君にばかり頼ってはいけないからね」

 院長先生すら、率先して食事を作るようになったのが、良い証拠。院長先生、今まで食事係はほとんどしなかったのにです。
 それらの対応に、心の中で「よくやってくれた」と思っているのは、きっと私だけじゃなかったはず。
 だって、超素直で正直すぎる子が「今日の夕食は院長先生たちが担当したんだって~」と叫び、歓喜しまくってることもあるのですから……。傍目には院長先生がわざわざ作ってくれたのが嬉しそうに見えても、そこに隠された本音が私たちには見え透いていました。
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