序・思わぬ収穫?

七月 優

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三歳

暗雲到来でした

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 副院長が孤児院に来て、院長先生はすごく助かっていると思います。
 元々彼女は(料理面以外は)優秀なんでしょうけど、彼女が頑張っているのはそれだけじゃないことを、最初私は気づけませんでした。
 いえ、正しくは、彼女なりにそれを隠していたんだと思います。
 けれど、彼女はまだまだ若いですからね。我慢や抑制心の歯止めは、結構もろかったようでして。
 多分彼女の中で何かのスイッチが完全にオン状態になり、私の前では特にそれを・・・全面に押し出すようになったのですよ。悪い意味でね……。

 話は少し変わりますが、私は院長先生が恋愛感情なしに人として好きです。
 まさか、副院長が恋愛的に、院長先生が大好きだったなんて、私は知りませんでした。

 それを知ったときには、少々手遅れ。
 だって、幼少の私が院長先生のこと恋愛的に好きだと、副院長が完全に思い込んだ後に知ったのですから。

 副院長が孤児院に来てからある日を境に、私は彼女にしょっちゅう睨まれるようになりました。実に憎しみのこもった瞳でね。
 当然、最初は訳が分かりませんでした。「私知らないうちに何かやらかしたっけ?」と、記憶を巡らせるも、全く心当たりはありません。
 だから、ほっときました。
 「女には生理前とか、どうしてもイライラすることもあるだろ」程度に思っていたのです。
 取り合えず、「誰しも馬が合うわけじゃないし、彼女は私が好きではないんだろうな」くらいで、さほど気にしてませんでした。
 
 ですが、そんな私とは対照的に、副院長は私に絡んできたのですよ……。
 ある種、私が接触してこないないから、向こうから接触するしかなかったのかもしれませんね。

「さっさと片付けなさいっ!」
「え?」

 あるときには、他の小さい子たちが遊びまくって散らかした遊具を、私の仕業・・・・と決めつけ、片付けを強要。
 私、その部屋にすらいなかったのに、わざわざ手首思いっきり握りしめてその場に連行された挙句、副院長にそう言われた次第です。

「早く草むしりしてきなさい」

 絵本読んで言語の勉強してたら、冬なのにいきなり薄着のまま外へ放り出されたこともありました。
 上着は一応「道具」にあったから良かったものの、なかったら寒さに震えてたと思います。
 その日は午前中から延々と寒空の下、お昼抜きで庭の雑草を抜きまくりましたよ。
 軍手や鎌などないし、爪まで泥だらけで、時々鋭利な葉っぱで皮膚が切れました。冬でも逞しい草は生えているのです。
 どうにかしたくても、副院長が簡単に私が孤児院の建物の中に入れないように仁王立ちして見張ってるし、もうやんなっちゃいましたよ。
 一応院長先生が帰ってくる前に、学校から帰ってきた年長組が私を助けてくれて、解放と手当てを享受できました。

 そんな風に、粘着質の嫌がらせ大好きな悪女のごとく、何か私に嫌がらせやいじめとなるようなきっかけさえあれば、副院長は私に面倒事を押しつけてきました。

 もちろん、全て院長先生が不在時・・・・・・・・・・にねっ!
 そこでさすがに鈍感な私でも、いろんな憶測が頭に浮かびましたとも。

 決定的な答えは、マリエラはじめ孤児院の女の子たちが、私を心配してこっそり教えてくれました。

「副院長先生、院長先生のこと好きみたい」

 それから、彼女たちの言葉をなんとか拾い、頭の中で繋ぎ合わせ、詳細を知るに至ったというわけです。

 発端は、言語習得が周囲よりまだまだ遅れてる私が、院長先生に言葉を丁寧に教わっていたのを、副院長が目撃したからみたいなんですよね。それが、彼女の恋がかったフィルターの瞳には、大層仲睦まじく見えたんですって。

 副院長自身、そうやって私を恋敵認定勝手にして、孤児院の女の子たちに私と院長先生についてあれこれ探ったらしく……。
 子どもたちも、察しがいい子はいますからね。恋バナ好きな子も当然いるわけで……。
 孤児院の女の子たち伝いで、嫌でも私の耳に入ってきた情報を要約すると、そんな感じみたいです。

 いやもう、「アホかーっ! その目は節穴か、ボケっ!」とちゃぶ台返ししても、いいですよね?
 
 冷静に考えれば、私が院長先生にホの字なわけがありません。
 院長先生はいい人ですけど、私は彼を恋愛対象として見たことは一度もありませんし、院長先生だってそれは同じはずです。
 「恋愛に年の差なんて」という意見はさておき、孤児院の幼女と中年の院長が、世間一般に考えてどうなるわけがないでしょうに。お互いそういう性癖や好みでも、ないに決まってます。邪推はやめてくれ。

 でも、女の悋気と勘違いってのは、末恐ろしいものでして。
 私的にも、副院長の恋心を一応は配慮し、なるたけ院長先生と接触はしないよう努めたんですけどね。
 副院長の誤解は、どうしても解けません。というか、周囲が誤解を解こうとするほど、彼女がおかしくなるのがエスカレートしていくので、私はもう諦めました。

 てなわけで、極力副院長に見つからないように、私は孤児院でひっそりと隠れて過ごすようになりました。嫌な鬼ごっこで、心身疲弊する毎日を送っています。
 院長先生が不在じゃなくても、気は抜けません。副院長の瞳の奥は、常に私に対するストレス発散で、ぎらぎら光っているのですから。隙あらば、彼女に嫌がらせされるのがオチです。
 そのため、冬寒くたって、時間潰せる本とか持って、外に逃げることもしばしばあります。
 お昼など一食抜くことだってありました。「道具」に予備で入れていたパンを食べて、空腹はなんとか凌げますしね。

 最良なのは、サーダーの日(≒土曜日)に、年上の子たちにくっついて、この国の首都の図書館に逃げること。さすがにそこまでは、副院長も私を追って来ません。図書館だけは、私の心のオアシスとなった次第です。
 だって、言語の勉強はできますし、この世界の知識も増やせますしね。何より副院長がいない安穏無事さは、最高ですよ。
 私の現状を憐れんで、図書館に連れて行ってくれる年上の子たちに、盛大に感謝しましたとも。
 また、副院長が絶対休み確実なソルの日(≒日曜日)は、思いっきり羽を伸ばせる有難い日となりました。

 そりゃ、気をつけていても、副院長鬼女に捕まってしまうこともしばしば。そういう際は、彼女の怒りをヒートアップさせてはいけまいと、口答えせず嫌がらせやいじめに耐えます。

 正直、副院長が己の立場を振り返り、冷静さを取り戻してくれるのが最善なんでしょう。
 でも、「おそらくその日は来ないんじゃないか」と、諦観の念を抱いております。

 だって、注意されたって直らないんじゃ、どうしようもないでしょうよ。
 マリエラや年上組の子どもたちが、副院長の立場的にも行き過ぎた私に対する行為を、「それはおかしいんじゃないか」と、親切にも私の代わりに彼女に何度か注意してはくれたのです。みんなの勇気と優しさが身に染みましたね……。
 でも、結果は変わらず仕舞いなわけで……。

 副院長の大いなる誤解同様、私が自ら「もういい」と、はっきり彼女を見限りました。
 周囲にも、身振り手振りで片言ながら、「副院長の怒りがみんなに飛び火するのは嫌だから」的なことを伝え説得し、渋々納得してもらいましたね。

 それに、なんだかんだ抜け目ない院長先生が、副院長の私に対する異常な執着心に、気づいていないわけがないのです。どれだけ副院長が隠そうにも、ボロは出ます。
 私は院長先生に副院長のことで助けをもらう告げ口することは、決してありません。が、他の子どもたち伝いで、私たちの話がいっていないわけがないでしょう。
 女同士(言っても成人女性と幼女ですが)のいざこざに、敢えて口出し手出ししないということもあるのかもしれません。なんたって、院長先生もこうなった要因に入ってますし。
 だとしても、院長先生側から副院長に、何かしらのお小言や注意はあった気は絶対にします。

 それでも、副院長の暴走は止まらないのが明白な事実。
 匙を投げるってもんですよ。

 何より、私にだけはそんな理不尽な副院長でも、今は孤児院にいてくれないと困ります。
 彼女がいなければ、また院長先生の負担がかなりかかりますしね。
 私に対する非道な行い以外は、副院長は申し分ないのです。料理以外の孤児院での仕事はテキパキこなしますし、私以外の孤児院の子どもたち相手にはまともです。

 だったら、私が目をつぶって、耐え忍ぶだけのこと。
 だからこそ、副院長の私に対する数々の仕打ちを、私は院長先生に訴えはしません。
 多分、院長先生も他の子たちも、私の意図に薄々感づいているのだと思います。

 また、もう二度と好印象を持てない副院長ですが、私なりに同情はしているつもりです。
 もし、私への行為が明るみに問題視されて、今の職と居場所を追いやられたら、彼女二度と立ち直れなそうな気がするんですよね。自分の非を責め立てられるのが大嫌いで、指摘されれば逆上するタイプって、意外にそんな印象を受けます。
 糾弾・失職・失恋のトリプルパンチをくらったら、彼女もうどうしようもなく思えません?
 彼女が余所で再就職できるイメージが、失礼ながら湧かないのです。内弁慶よりにも思えますし、他の大人の女性陣、いわば同性の先輩がいなかった孤児院は、彼女にとっては最良の職場だった気が否めないのですよ。
 そう思うが故に、副院長の理不尽を仕方なく受けている部分もあります。

 嫌い合っている私にそう思われてるって知ったら、彼女どう思うでしょうね。
 うふふ、髪の毛逆立って、包丁握ってるイメージしか湧かないや。寝首をかくような人物ではないと、微かに信じてはいますけどね。

 とにもかくにも、出来うる限り私はこの辛く悲しい境遇を耐え抜き、一刻も早く孤児院からいなくなれることを、願うばかりです。
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