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第一部
No.1 帰郷
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どこまでも、青い空が広がっていた。見渡す限りの青い青い空。
その空を一羽の鳥が気持ちよさそうに飛んでいた。鳥は、純白の大きな体を持ち、立派な長い尾を持っていた。羽を翻すたび、きらきらと光る粉のようなものが鳥から零れ落ちた。鳥自身、陽の光を浴びてうっすらと青みを帯びた光を放っている。ルビーのような瞳はせわしなく動き、綺麗な高い鳴き声が辺りに響き渡っていた。
その鳥をある高い峰から見守る一人の少年がいた。年は十代後半といったところ。セミロングほどの黒髪が風と踊っていた。こげ茶色の瞳は細められながらも、その鳥を一身に追っている。
少年の傍らには、小船に鳥の翼のようなものを中央の左右につけた乗り物があった。片方の先端には、ハンドルのようなものなどが取り付けられていた。
少年が軽く指笛を吹くと、それに答えるように鳥が鳴いた。鳥は何かの合図のようにぐるぐると回り続ける。
少年はそれを見て微笑み、小船の操縦席に乗った。そして、ゴーグルをかけると、ハンドル右近くにあった鍵がさしっぱなしの鍵穴の鍵を回した。低いうなり声のようなエンジン音が響く。
そして、少年はハンドルを思いっきり手前へ引いた。気がつけば、小船はあっという間に羽を羽ばたかせ空中へ身を乗り出していた。
少年は鳥の近くに来ると、乗り物のスピードを緩めながら
「じゃあなっ!」
そう大声をかけた。
それを聞いて、鳥は今度は宙を何度か回り一声鳴いた。
それを確認した少年は、満足そうに猛スピードでその場を去っていったのであった。
少年はしばらくして、宙に浮かび立派な帆を張った木造の大船の甲板に器用に小船を着地させた。ゴーグルを外し小船を降りて、ゴーグルを自分が座っていたところに軽く投げる。
「どこ行ってたんだよ」
そんな声が飛んできて、少年は声のした方を向き
「そこらへん飛んでただけだよ、ドレット」
にっこり笑った。
ドレットと呼ばれた少年というよりは青年というべき者は
「小一時間もねぇ・・・・・・」
半ば呆れて、半ば胡散臭そうに言った。
黒いバンダナから出ている浅縹色の前髪が甲板を通る風で少し揺れ、黒い瞳が船の船首先を見つめていた。
「もう半日もかからないな、アガパンサス国へは」
腕組みをしながらドレットが言えば
「早いもんだな」
少年が感慨深そうに言った。
「やっぱり故郷は懐かしいか? リュファス」
「何年前にいたと思ってんだよ。懐かしいとも思えねぇーよ。そんな住んでたわけじゃねぇし」
リュファスと呼ばれた少年は苦笑いする。
ドレットはそんな少年を横目で見ながら口を開きかけたとき
「なーにサボってんだいっ」
どこからともなく高い女の声が聞こえた。
しかし甲板には、リュファスとドレットしかいない。
「ドレットは仕事の続きしなっ、リュファスも長々と休憩取ってるんじゃないよっ」
はきはきとしたその声に
「分かってますよっお頭!」
姿はないもののドレットがしっかりと返答し
「にしても毎回どこから見てんだ、お頭は?」
リュファスが小さく呟いた。
その日、日が落ち始め、空がオレンジ色に変わった頃
「おいっ、見えてきたぞっ」
船員の一人が言って、みな仕事をいったん止め、ぞろぞろと甲板に上がってきた。
その中に、リュファスもいた。
「本当に、戻ってきたんだな・・・・・・」
リュファスは見えてきた国をじっと見つめたまま、消え入りそうな声で言った。
徐々に徐々に、船は国へ近づいていくのであった。
* * * * *
アガパンサス国のそれはとても立派なとある領主の家の窓を拭きながら、使用人の格好をした少女は茜色の空を見上げた。
少女の背はさほど高くない。だから、脚立を使って上の窓まで丁寧に拭いていた。
少女は、脚立の一番上にちょこんと座り、茜色の空から次々とやってくる様々な空を飛ぶ乗り物、空船を眺める。
「もうお祭りの季節か・・・・・・」
少女はポツリと呟いた。
そして
「まぁ、私には関係ないけど」
ふさぎこむようにうつむく。
ココア色の肩まであるストレートの髪が、さらさらと揺れた。
少女は、窓を閉めていても聞こえてくる空船のエンジン音にゆっくりと顔を上げた。空船は空をどんどん進み、国や個人の所有する船庫に向かうのだろう。少女はただただ、空船と、きれいすぎる茜空を、しばらく見つめるのであった。
その空を一羽の鳥が気持ちよさそうに飛んでいた。鳥は、純白の大きな体を持ち、立派な長い尾を持っていた。羽を翻すたび、きらきらと光る粉のようなものが鳥から零れ落ちた。鳥自身、陽の光を浴びてうっすらと青みを帯びた光を放っている。ルビーのような瞳はせわしなく動き、綺麗な高い鳴き声が辺りに響き渡っていた。
その鳥をある高い峰から見守る一人の少年がいた。年は十代後半といったところ。セミロングほどの黒髪が風と踊っていた。こげ茶色の瞳は細められながらも、その鳥を一身に追っている。
少年の傍らには、小船に鳥の翼のようなものを中央の左右につけた乗り物があった。片方の先端には、ハンドルのようなものなどが取り付けられていた。
少年が軽く指笛を吹くと、それに答えるように鳥が鳴いた。鳥は何かの合図のようにぐるぐると回り続ける。
少年はそれを見て微笑み、小船の操縦席に乗った。そして、ゴーグルをかけると、ハンドル右近くにあった鍵がさしっぱなしの鍵穴の鍵を回した。低いうなり声のようなエンジン音が響く。
そして、少年はハンドルを思いっきり手前へ引いた。気がつけば、小船はあっという間に羽を羽ばたかせ空中へ身を乗り出していた。
少年は鳥の近くに来ると、乗り物のスピードを緩めながら
「じゃあなっ!」
そう大声をかけた。
それを聞いて、鳥は今度は宙を何度か回り一声鳴いた。
それを確認した少年は、満足そうに猛スピードでその場を去っていったのであった。
少年はしばらくして、宙に浮かび立派な帆を張った木造の大船の甲板に器用に小船を着地させた。ゴーグルを外し小船を降りて、ゴーグルを自分が座っていたところに軽く投げる。
「どこ行ってたんだよ」
そんな声が飛んできて、少年は声のした方を向き
「そこらへん飛んでただけだよ、ドレット」
にっこり笑った。
ドレットと呼ばれた少年というよりは青年というべき者は
「小一時間もねぇ・・・・・・」
半ば呆れて、半ば胡散臭そうに言った。
黒いバンダナから出ている浅縹色の前髪が甲板を通る風で少し揺れ、黒い瞳が船の船首先を見つめていた。
「もう半日もかからないな、アガパンサス国へは」
腕組みをしながらドレットが言えば
「早いもんだな」
少年が感慨深そうに言った。
「やっぱり故郷は懐かしいか? リュファス」
「何年前にいたと思ってんだよ。懐かしいとも思えねぇーよ。そんな住んでたわけじゃねぇし」
リュファスと呼ばれた少年は苦笑いする。
ドレットはそんな少年を横目で見ながら口を開きかけたとき
「なーにサボってんだいっ」
どこからともなく高い女の声が聞こえた。
しかし甲板には、リュファスとドレットしかいない。
「ドレットは仕事の続きしなっ、リュファスも長々と休憩取ってるんじゃないよっ」
はきはきとしたその声に
「分かってますよっお頭!」
姿はないもののドレットがしっかりと返答し
「にしても毎回どこから見てんだ、お頭は?」
リュファスが小さく呟いた。
その日、日が落ち始め、空がオレンジ色に変わった頃
「おいっ、見えてきたぞっ」
船員の一人が言って、みな仕事をいったん止め、ぞろぞろと甲板に上がってきた。
その中に、リュファスもいた。
「本当に、戻ってきたんだな・・・・・・」
リュファスは見えてきた国をじっと見つめたまま、消え入りそうな声で言った。
徐々に徐々に、船は国へ近づいていくのであった。
* * * * *
アガパンサス国のそれはとても立派なとある領主の家の窓を拭きながら、使用人の格好をした少女は茜色の空を見上げた。
少女の背はさほど高くない。だから、脚立を使って上の窓まで丁寧に拭いていた。
少女は、脚立の一番上にちょこんと座り、茜色の空から次々とやってくる様々な空を飛ぶ乗り物、空船を眺める。
「もうお祭りの季節か・・・・・・」
少女はポツリと呟いた。
そして
「まぁ、私には関係ないけど」
ふさぎこむようにうつむく。
ココア色の肩まであるストレートの髪が、さらさらと揺れた。
少女は、窓を閉めていても聞こえてくる空船のエンジン音にゆっくりと顔を上げた。空船は空をどんどん進み、国や個人の所有する船庫に向かうのだろう。少女はただただ、空船と、きれいすぎる茜空を、しばらく見つめるのであった。
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