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第一部
No.5 物質
しおりを挟む◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「てか、よくそんな甘いもの食えんな」
俺が呆れて言うと
「まぁ甘党ですし、それにお昼まだだったんで」
セラは至福の笑みを浮かべそう返す。
俺はとっくにケーキを食べ終え二杯目の、今度はミルクティーにした紅茶を味わっていた。
目の前の彼女のミルクティーも二杯目突入中。そして最後の濃いピンク色のモンブランを食べようとしていた。
俺は店員が置いていったテーブル端に置いてある、裏返しのレシートを手に取り、ちらり金額を確認すると
「お前、ほんとに俺の分までおごっていいの?」
少し心配になって聞いてしまった。
「付き合わせてるのは私ですし、ここのケーキすごい食べたくて今こうしてあなたのおかげで食べられて本当に嬉しいんです、だから気にしないでください。それに、私一人で食べてるの変じゃないですか」
さらりと言われ
「いや、てか、元々悪いのは俺なんだけど」
罪悪感がちくりと痛む。続けて
「そういやお前って、金持ちなの?」
俺のその一言に
「まさか、ただの庶民ですよ」
セラは目を丸くした。
「でも、財布結構分厚かったじゃん」
「なかなか、お金使う機会がなくて」
苦笑いをする彼女に
「ふーん、友達と遊びとか行けばいいのに。もしかして友だちいないとか?」
何気なく言ったその言葉に
「・・・・・・」
彼女は黙りこくってしまった。
地雷踏んじゃったかな・・・・・・?
彼女の顔色を伺っていると
「そう、ですね。いろいろ、あったもので」
困った顔をしながら言う。
「大変なんだなぁ、で、学校行ってないってことはもう働いてんの?」
「えっと・・・・・・」
急なその質問に、彼女は戸惑っているように見えた。
「別に無理に言えとはいわないけど」
「・・・・・・詳しくは言えませんけど、これでも使用人として働いてるんです」
「へぇ、何でまた使用人?」
確かに言われないと本当に使用人のようには見えない。
「数年前、事故で両親が死んでしまって、そのとき偶然知り合った方が住み込みで働かせてくださってるんですよ」
スウネンマエ、ジコデ、リョウシンガシンダ・・・・・・?
反射的にあの記憶がよみがえる。
まさかな・・・・・・。ありえない、考えすぎだ。
「別に気にしなくていいですよ、そのおかげでお財布は分厚いですしね」
俺が黙ってしまったので、明るくいうセラに
「そっか、なるほどね、だから分厚かったのね」
そりゃそんな境遇じゃ友達少ないかもなと同情した。
「そうです、私じゃなくて仕えてるとこがお金持ちなんです」
* * * * *
「そうです、私じゃなくて仕えてるとこがお金持ちなんです」
言ってから、しまったと心の中で思った。本来こういうことは言わないほうがいいのだ。万が一、お屋敷に何かあったら自分の責任にもなりかねる。
「そ、そういえば、あの凶器なんだったんですか?」
いきなり話題を変えた私に
「えっ? あぁ、これだよ」
彼はそっとテーブルの中央にそれを置いた。
「これって、石ですか?」
思わずそう訊ねてしまった。
それは、真っ黒な光沢のある菱形を、少し伸ばしたような形の鉱物のようだった。先が尖っていて、確かに後ろからではナイフか何かに思えたのもしょうがなかった。
「さぁ? 鳥がくれたんだ」
「へぇ、珍しい鉱物なんでしょうか?」
私がじっくり見ていると
「欲しかったらやるよ」
彼は何を思ったのかそういった。
「いいですよ、お友達からのもらい物なんでしょう? もらえません」
「律儀なやつ、じゃあさ、俺がお前に金返すまで物質にしとけよ」
「ものじち?」
聞きなれない言葉に、私は首を傾げる。
「そ、人質ならぬ物質? ならいいだろ?」
「それなら、分かりました」
実は、少しいいなって思ってたんだ。
よく見るとラメみたいにきらきらしたものが混じってるし。借りるくらいはいいかな、なんて結局彼の提案を受け入れてしまった。
そうだよ、こういう貸し借りなんてもう、きっと・・・・・・ないのだろうから・・・・・・。
そう自分にいい聞かせながら。
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