転生先は背後霊

高梨ひかる

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結論から言うと、棚の奥には魔法陣があった。
さくっと庭で棚をぶっ壊したお父さまは、棚の裏側に魔法陣があることを看破し、そこを切り取ったのである。
最早魔法による力業と言わざるを得ない。

で、お父さまが魔法陣に封印をしたとたんに俺の指に挟まっていた蛇は吸い込まれて消えていった。
おうちに帰ったんですねわかります。
セドリックが残念そうにあ、消えちゃった……って言っていたけど、あっちゃダメなものだからね?
捨てようね、そんな危ないもの。

その後お祖母さまの容態も安定したので……ということで一度帰宅することになった。
正確に言うと、王都で色々調べたいというお父さまの要望があり帰ることになった、って感じだけど。
話を聞いていると魔法陣での転移はそこそこ王城での許可がいるものらしくて、頻繁に使用していると謀反を疑われたりするらしい。
まぁまだ状況は改善していないということで、お母さまは残り様子見、呪詛に影響があったセドリックは目を離すのが怖いので帰宅、となったようだ。

まぁ保護者いないところでセドリックに自分で色々処理させるって無理あるよね。
まだ10歳だし、箱入り息子だし。
なので危ういものには近寄らせないということでセドリックは自宅待機……自屋敷待機(?)になったのであった。
とりあえず命の危機は脱したので、落ち着いたらまた見舞いに領都に来れるそうです。

ということで魔法の練習もお休みになり、しばらく退屈な日々が続いた。
勉強は続いてるけど俺は関係ないし、魔法の授業はお母様がいないと無理だしね。
そんなある日、突然セドリックが帰宅したお父さまにあるお願いをし始めた。

曰はく、守護者様が何を求めているかわかるような魔法陣を作れないか、と。

「黒いのを持っているのが見えたように、守護者様が何かを持つとか出来たら少しわかるような気がしたんですけど……」
「しかし呪詛はな……危なくて使わせたくないぞ?」
「ですよね……」

寝る前に何かよく考え込んでるなーとは思っていたが、そんなことを考えていたとはビックリである。
まぁ俺も昔は結構意思疎通出来ないかなと考えたものだったが、俺から基本的にアクションは不可能だ。
せいぜいが風を起こす程度で、めちゃくちゃ祈るとちょっと届くレベルを毎回するのは俺もしんどい。
かといって呪詛みたいな危ないものをいちいち用意して持っているのはどう考えても危険だ。

あとは魔法でどうにかするもあるが、それはそもそもセドが魔力を込めないと不可能な方法だし闇と火では攻撃魔法過ぎて危ない。
つまり俺からは何もできないので、適当に諦めていたものだが……。
お父さまは考えてみると答え、それからまたしばらくの時間がたった。

解決策のきっかけをくれたのは意外にもお祖母さまだった。

「点火の魔法陣を並べてみてはどうか、ですか?」
「ああ。はい、いいえであれば二つ用意してどちらかに火をともすようにしてもらえればわからないか? と」
「……! なるほど、的に当てるのと同じように考えれば良いということですね!?」
「そうだ。お義母上がな、あまり喋れなかった時によくやっていたのだそうだ。はいならば右手を動かす、いいえならば左手を動かす、と。それを聞いて泣いていたグレイスが、セドリックの話を聞いてふと思いついたのだそうだ」

なるほど、こっくりさんか!
ついでにアルファベットみたいに文字並べてくれたらさらに色々出来るような気はするが、まぁ伝えられないし贅沢は言うまい。
少なくとも俺に意思があって動いているんだよ、って伝えられるだけで大進歩である。
ということでいざ。

背後霊出勤!







何かあったら危ないので、ということで帰宅したお父さまとセドリックが修練所に用意したテーブルに点火の魔法陣を二つ並べ、仲良く俺とお話することになりました。
何を伝えられるかはわからないが、とりあえず意思疎通ができると伝えられるのはいいことだな。
出来れば色々伝えられると嬉しいんだが。

「多分私たちがしようとしていることは伝わっているだろうから、なるべくはいかいいえで答えられる質問をするんだぞセドリック」
「はい、お父さま」
「そうだな……まずは軽い状況把握からがよいだろうか……」

ということでまず、セドリックが魔力を込めて魔法陣の方へ手を向ける。

「そうだな……まず、守護者さまがちゃんと動かせるか、からだな。右へ一秒、左へ二秒点火をお願いします」

右に一秒……左へ二秒……っと。
結構コントロールいるな!?

「あ、ちゃんと動いてます」
「問題はないようだな」
「はい!」

あ、セドリックすごく嬉しそう。
目をキラキラさせながらこっちを見てくるの、控えめに言っても天使。

「ふむ、では性別からか。あなたは男性ですか」

はい、と。

「男の方だったんですね!」
「迷いなくついたから、男性のようだな」
「いくつぐらいの方なんだろう……」
「年齢か……。貴方はセドリックより年上ですか」

これもはい、だな。

「まぁそうだろうな、理解していて動いている時点で大人のような気はする」
「でも、ちょっと茶目っ気があるように感じます。えーっと……たぶんお父さまよりは年下!」

まぁそうだな。
たぶん20歳は越えてなかったと思うんだよなー。セドと年齢を一緒に取ったとしてもお父さまよりは下だよな。

「なるほど。青年といった年齢なのだろうな」
「お兄さんですね!」

「次か……貴方は精霊ですか?」

精霊がそもそもなんだかわからないから、違うような気がするんだよなぁ。
ちょっとわからん場合はどうしたらいいもんだろうか。

「なんか困ってるみたいですね?」
「両方つかない……ということは、自身がなんだかわからない、だろうか?」

YES。

「あ、つきました。自身が精霊かわからない、ってことみたいです」
「そうか。では貴方は突然現れましたか」

YES。
セドリックが死にかけたときに突然俺はこの世界に来た。
それだけは自覚通りだと思う。

「これもはい、か……。大体予想していた通りではあるな。彼はおそらく、セドリックが5歳の時に突然現れ、病気に負けそうなセドリックを救ってくれた。これは間違いがないはずだ。あの時からずっと一緒にいてくれているのだろう」

YES。

「ちなみに貴方の意思でセドリックから離れることはできますか」

これは……どうだろう。
離れられるとは思うんだが、セドリックの命がどうなるかわからなくて一定以上は離れたことがない、が正確なんだけど。

「つかない……? わからない、でしょうか」
「いや……一瞬いいえが点滅したしだいぶ困っているような気がする。もしかしてセドリックが心配で離れられない、だろうか」

これはYESだな。

「なるほど。お前の守護者様は優しい人だなセドリック」
「?」
「恐らく完全に離れられるか試したことがないのだろう。お前の状態がどうなるかわからない以上、ある程度の距離しか動いていないのだと思う」
「ああ……そうなんですね。僕、心配されてるんだ……」

まぁそりゃ、ここに出てきたときに死にかけていたのがセドリックだし。
またあの状態になるかもしれないと思うとさすがに遠くまで離れる自信がない。ちょこちょこ距離を確認はしたりしたけれど、大丈夫そうだなって思える距離は5歳の時から変わってないんだよな。
だから屋敷内くらいの距離しか離れたことはない。

「となると、行動範囲はそう広くはないのだろうか。セドリックが見える範囲にしかいませんか?」

これはいいえ、だな。
行動範囲は屋敷内くらいだ。
いくつかの質問に答え、大体の距離を伝えるとお父さまは納得したように頷いた。

「屋敷内くらいはいけるみたいですね?」
「思ったよりは広めだし、壁などの影響も特にないようだな。結界などは越えられるのだろうか」

結界ってあれだよね、ファンタジーでよく見るアレ。
これははいなんだよなぁ。だってこの屋敷にも薄い膜とかあるんだもん。でも別にすり抜けられなかったことは一度もないというか、認識すらされていないが正解だと思う。

「結界は悪しきもの以外も物理的なものは弾くのだがな……。物を触れられるわけでもない故に、そもそも認識されないが正解なのか……?」

たぶんそうです。
そもそも浮遊霊とかも一切見たことないけど、いるといえばいると思うんだよなぁ俺。
そういう認識外の存在ってことなんじゃないかなぁ。

この辺りでセドの魔力をだいぶ消費したらしくセドが疲れてしまったので、第一回背後霊を知ろうの会はお開きになった。
二回目はあるかわからないが、簡単な質問であれば一日数回しても良さそうだとお父さまの許可が出たのでしばらくは意思疎通を図れそうだな。
ちょっと楽しみ。

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