S級パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる〜勇者より先に魔王討伐を目指す〜

灰色の鼠

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第4章 ー《ネロ》精霊樹編ー

第35話 ※『失敗作』

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まえがきー次回が本当の35話です。


※※※※※※※
 

 昔の遥か昔に、とっても平和な大陸がありました。
 平和で争いが存在しない様々な領地。
 異なった種族同士での助け合い、支えてくれる神的存在の賢者様。


 賢者様は何でも知っています。
 過去に起きた出来事、これから起こるであろう未来。
 全てを見通せるその眼で賢者は、絶望のない世界の為、正しき道を歩み続けました。


 賢者の名前は『ミア』
 魔族と人族のハーフとして産まれたせいか、人々に敬遠されるたった1人の存在でした。


 それでも、彼女は白い未来を望んでいました。
 生まれたこの世界で嫌われ続けようとも、行き場を失おうとも、ミアは祈り続けました。


 大切な『命』という存在を守るために。


 棚に置かれた大量の本を読みながら、ミアは世界の摂理と歴史、魔力適正がないのにも関わらず魔法に関する法則を独自に学んでいきました。
 鍛錬も怠りません。


 いつか訪れるであろう、新たな生命の誕生の為にも。
『精霊樹』が作り上げる、白い未来を創造する為に。

 ミアは生きる事を続けました。



 ※※※※※※



 そして遂に、その時が訪れる。精霊樹の管理者であるミアに『賢者』の称号が与えられ、ちっぽけだったミアの存在が認められるようになっていた。


『賢者ミア・ブランシュ・アヴニール』



 誕生した『精霊樹』によって魔族だけに限らず、全世界の生きとし生けるものに力が授けられるようになった。


 それが後に人族の脅威である『魔力』だと発覚した時、人族は休戦を願うようになり、魔族と人族との間に繰り広げられていた過酷な戦争が静まりかえった。
 さらに異なった国を持つもの同士が協定を結んだことにより、世界に本当の平和というものが訪れる。


『今や魔力を持つようになった我ら人間は、魔族である貴方たちとは変わらない存在となった。争う意味はもう無い』
 その言葉を胸に、人々は武器を握る手を緩め、守るべき者の為に振るうようになっていた。


 数年もの月日が経過。
 今じゃ偉人である『賢者ミア』を目にする者は少なくなり、ひっそりと精霊樹の中で暮らしているとだとか、もうとっくに死んでいるとの噂が絶えずに立てられているが、管理者であるミアは精霊樹と一体化しなければならない運命を担っていた。
 さもなけれな精霊樹は朽ち果ててしまう。


 過酷だが、ミアは自身の運命を受け入れた。


『核』として精霊樹を支えながら、与えられた魔力によって命を永らえる。
 ミアの絶命は同時に、精霊樹の消滅を意味する。


 かつて『精霊大陸』と呼ばれていた魔族の住処がいずれ、『黒魔力』の棟梁である魔王の君臨によって『魔の大陸』として世界が変わり果てようとーー


 ーー精霊樹が滅びない限り、ミアは生きていた。




 ※※※※※※



「ということで、ここが精霊大陸ってことですか……信じがたい話ですが」


 龍人族長シオンの話によると、どうやら賢者であるミアがまだ、精霊樹と一体化していない時代らしい。
 あくまで「一体化」するという話は、読んでいた本の情報で事実なのかは分かっていない。
 若い頃、田舎で学校にすら通えなかったのが半分原因だ。


「キミの言っている話をあまり理解できないんだけど、ミア様が精霊樹と『一体化』?  なんの話をしている?」


 さらに彼らは、賢者ミアが精霊樹の核になる事さえ知らない。
 本に記されていた出来事は、まだ先の話ということだろう。


「いえ、何でもないです。あまり気にしないでください」

「うーん?  無性に気になってくるなぁ……ま、深刻なら無理して聞いたりはしないけど。我々魔族の未来を左右する重要な情報なら、容赦しないよ?」


 急にシオンの目が鋭くなり、ボクを睨みつけながら忠告を口にする。
 まるで獲物を威嚇するような、そんな威圧が直に感じ取れた。


 前までなら「可愛い」と調子こいた事を発言しているところだが、女神の加護がない今では恐怖耐性はない。


「……情報?  そ、そんなモノないですよ」

「そう。ま、小動物のような香りを放つキミが嘘をついているとも思えないし。今の話はなかったことでいい」


 ん、小動物?  そんな香りしているの??
 クンカクンカ、と自分の匂いを嗅いでみるが、汗臭いという感想しか出てこない。
 ここに飛ばされる前に、お風呂はいれなかったし仕方のない話だ。


 いやいや! 問題はそこではない。
 最初に浮上してくる疑問は、どうしてタイムスリップしてしまったか?  だ。


『時間転移魔法』という魔法なら存在している。
 ほんの一部の上級魔道士が会得している魔法だが、時を巻き戻したりする事が出来るのは1日が限度。
 それ以上に、時を駆け巡ったりするのは無理で、死ぬケースがあったり無かったら。


『神魔道士』なら可能だと聞くが、デマかもしれないので信じたりする人はまずいない。


 つまり、フィオラ?


 ーーーネロ様!!  フィオラはずっと貴方の女神として仕えるから、捨てたりしないでね!


 いや、ありえないね。
 仮にフィオラが原因だとしても、女神の能力でホホーイのホーイと解決してくれるのでは?


 まあ、過去に来たばかりで考え込んでも仕方がない。
 過去、未来を見通すことの出来る賢者ミアと会いに行って、直接話を聞いてもらった方が早いかもしれない。


 未来に帰れる方法を助言してもらえたりするかもしれない。


 現在、食卓を囲みながらそんな話をしていた。
 メニューは精霊大陸でしか取れないカラフルな果実、新鮮な肉、野菜などがテーブルに並べられていた。
 シオンの手作り料理、男飯だ。


 シオンの妹リリルは美味しそうに龍の尻尾を揺らしならガッついていた。
 比べてボクは、野菜サラダを口に含めた瞬間、あまりの苦さに顔を歪めさせる。


「うっ」

「……ん、口に合わなかったのかい?」


 どこか寂しそうな声でシオンに尋ねられる。
 恩人には対して失礼な発言は禁句だ、嘘をついたとしてもだ。


「うっ……美味いです。うん、うまい。
 少々、苦さはありますが、調味料のおかげでいい味を引き出していますよ……?」

「うん、知ってるよ」


 嬉しそうに笑顔で言うシオン。
 ホッと安堵するボクは、再びサラダに手をつける。


「嘘だってことがね」

「!?」


 バレていたし、なんで笑顔なの?
 逆に恐ろしさが引き立つから、正直やめてほしい……。


 シオンは持っていた食器をゆっくり下ろすと、テーブルに肘をつけて手を組みながらニッコリと笑った。


「キミは優しい。だからこそ偽りを口にしてま人を喜ばせようとする。嫌いじゃないよ、キミみたいなタイプは」

「へ?」


 身構えていると、思ったよりボクを賞賛するような発言するシオン。
 唖然としてしまう。


「けど、しっかり食べてってくれよ?  残したら、賢者ミア様が黙っていないから」


 その言葉の意図を考える前に、ボクは皿に乗せられた料理にがっついた。
 瞬く間に口に合わない料理を平らげると、シオンは水の入ったグラスを持ってきてくれた。
  

「……ご、ご馳走様でした」

「ふふ、お粗末様でした」

「美味しかったよ! お兄ちゃん!」


 さすがはエリーシャ……じゃなく、リリル。
 お代わりを頼んだのに、ボクと同時に完食するだなんて。
 どこぞの妹勇者を思い出すような光景だ。



 平穏は日々、そんな記憶が蘇ってきた。


 この家に尋ねてきた、とある人物に剣をむけられるまではーーー
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