S級パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる〜勇者より先に魔王討伐を目指す〜

灰色の鼠

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第1章 ー愚者編ー

第5話 『幸運なボクの新たなメンバー』

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 王都の市街区にフィオラと共にやって来たが、何かがおかしい。そう、何かがおかしいのだ。

 門を通過する時に通過許可証を門番に見せなければならない、それなのに何かがおかしかった。


「パスポートプリー……ごほん、許可証を拝見しても?」


 門番の目線はボクにだけ向けられ、隣でルンルンと鼻歌を呑気に歌っているフィオラにだけは向けられない。
 というか彼女自体、透明人間かのように門番には気づかれていない様子だ。


「通ってよし!」


 門を通過するまで門番はフィオラに話しかけることなく、どういう意図なのか完全にスルーである。

 周囲を通る人も、ボクに視線を向ける人はいたが隣のフィオラには決して視線が向けられない。


「気になるの?」


 ずっと彼女を不思議そうな眼差しを向けていたボクに気がついたのか、フィオラは面白おかしそうにニヤニヤしながらボクを見上げて聞いた。
 何かを企んでいるような眼だ。


「あのさ、キミ、もしかして幽霊だったり……?」


 一瞬驚きをみせるようにフィオラの表情が少し変動したが、何を言っているのだろう! と言った様子で笑われる。


「ウフフ、幽霊? そんなのいる訳ないじゃない。ハハ!」

「それどういう……意味」

「そのままの意味だよ! 幽霊は存在しないし、あの世も存在しない。つまり天国と地獄なんて信じても無駄。人が死んだら行きつく先は『この世界』」

 どの口が言っているんだよ。
 というかフィオラが周りから見られていないとなったら完全に独り言を発している男じゃんボク。

 黙っていた方がいいのだろうか?


「まあ、ネロ様の考えるように私はネロ様にしか見えていない存在。どういう原理なのかはヒ・ミ・ツ」


 しーっと口元に指を当てるジェスチャーはまさに小悪魔と呼べる。
 まあ、どうせいつか教えてくれるだろう。
 気まぐれに、酒でも入っていたら聞いてやろう。
 口が固くなければあっさり吐いてくれたりするだろう。

 そう思いながらフィオラの方へ視線を向けると、彼女は舌を出しながららウィンクしていた。




 ※※※※※※




 昨夜撃破してやった『ウフベロス』の魔石は思ったより高い値で換金できた。
 ざっと10万ゴルド、パンパンになった財布を荷物にフィオラを連れてある店に訪れた。

『黒沼』という意味深の酒場でかなり客が多い。


「いらっしゃいましぇっ!?  キャッ、噛んだ」



 トレスさんと旅する前から行きつけの酒場である。
 入店してすぐ可愛いらしい看板娘が元気よく出迎えてくれることで有名な店だ。


「あらま、ネロさんではありませんか!」

「シャーリンちゃん、おはよう」


 声を掛けてきたのは看板娘の『シャーリン』。金髪をツインテールした可愛らしい少女である。
 ここで働き始めたのが3年前でボクより1つ歳下だ。
 冒険で体験した話しや武勇伝を彼女に語ったところボクを気に入ってしまったようで、入店してすぐボクの席に寄ってくる。

 シャーリンはかなり貧相な見た目になったボクに驚いたのか、笑顔が崩れる。
 今すぐ経緯を聞きたそうな顔だが、あまりソレに関しては思い出したくない。
 というか、自分がこの王都に留まる間はあまり公に公表したくはなかった。


「どうしてこんな所に?! てっきり特級パーティのメンバーになったから迷宮都市『ヘルセイム』に旅立ってしまったかと思いましたよ! 何かあったんですか?」


 ボクの挨拶がまるで聞こえていないようだ。
 それに質問が人一倍多くて聞いているだけでも疲れそうだ。
 しかも問い詰めてくる威圧が強い、昔からの仲だ、どうせ言わなくても分かるだろう。


「もしかして、パーティをクビになったり?」


 コクリと頷いた。


「えええええええええぇぇええ!!!??」

「そこまで、驚くことかな?」

「当たり前じゃないですか!!」


 どうせ後からバレる嘘はへたにつかない方が身のためだ。
 もういいでしょ、それ以上追求してもあの日はもう帰ってきたりはしない。

 それでも食い下がらないのが友人シャーリン。


「クビって、ネロさんが!?  そんなの絶対おかしいですよ!」

「いや、かなり正当な理由でつまみ出されたよ。役にも立っていないタダ飯喰らいって呼ばれるのも仕方がないって……はぁ」

「でもでも、私の知っているネロさんはそんな簡単に捨てられるような子ウサギじゃないんですよ!」


 子ウサギってなんなの? そんなにか弱い動物なのボクって。
 流石に心が曇る、励まされているようで弱々しい対象として見られているよコレ。


「彼女のいう通り、見知らぬ人を救うような器のネロ様がクビになるのはおかしいものだ。何か……裏があったり?」


 どさぐさにシャーリンの言葉に共感し、謎を解決しようとする探偵のような面構えで考え込むフィオラ。
 案外似合っている気がするが、ナイナイ! 
 あれは全部ボクの使えぬ『ラック』のおかげで失望させただけであって、悪いのはボクだ。

 それでも奴らを「ギャフン」と言わせてやりたい、という矛盾がボクの心にはあった。


「運がいいって言ってもね」


 懐からコインを1枚取り出し指で弾く。
 それを手の甲でキャッチして、もう片手で隠す。


「表」


 手を退けるとコインは表だった。
 的中したのは偶然で100回に1回は外れることがあるので、運というのは絶対ではない。


「この程度しかボクには取り柄がなかったからさ……今思えば何やってたんだろうな。特級のパーティに加入すれば自分も強くなるワケではないのに、強者を夢見て舞い上がっていただけかもしれないなぁ」

「そ、そんなことないですよ! 私、ネロさんの冒険談を聞いて感動したんです! 広い世界を見てきて体験してきたこと、その想いこそが積み重なっていって人は強くなります。戦いが強ければいいワケではないんですよ。私の知っているネロさんはどんな困難でも、周りの強い人に置いていかれそうになったとしても……」


 シャーリンはある席に目を向けた。
 カウンターの側に設置された今では誰も座ろうとはしない、埃まみれでボロボロのテーブル。

 ボクにも見覚えがあった。かつてトレス達と乾杯して、ボクのパーティ加入を盛大に祝った席だ。

 見ているだけで、思い出すあの頃を。


「必死に手を伸ばして、肩を並べようと努力して笑顔を絶やそうとしなかった優しい人です」


 ボクを見てニコッと可愛らしく微笑むシャーリン。
 胸がキュッと掴まれてしまい、ボクは彼女から赤く染まった顔を逸らす。
 無意識に溢れてしまった涙を拭って、笑いながらシャーリンに言う。


「やっぱり。人を励ますのが上手なんだね、シャーリンは」

「お礼ならハグでお願いします」

「仕事中にいけません!」


 そんな他愛ない話をしていると、いつの間にか頼んでいない料理が運ばれていた。


「アレ、頼んでないけど?」

「今回だけ店長の奢りのようですよ。フフ、好かれたものですね」


 厨房で料理を作っている褐色の巨漢がボクらにタムズアップする。
 兄貴ぃぃ!


「うむうむ、やはり地上の食べ物は味が濃くて美味だわ!」


 もうすでに食べ始めていた赤髪のフィオラに呆れながら、ボクは両手を合わせた。


「いただきます」


 遠慮なくご馳走してもらうことに。
 1番遠慮なかったのはフィオラでお代わりが山のように積もっていた。
 女神の胃袋ってハンパネーーっす。



 ※※※※※※



「この後は予定とかあるんですか? まさか冒険者を辞めたり?」


 仕事の休憩時間にシャーリンはボクらの席についていた。
 それ以外のお客さんが見えていないようで、彼女はひたすらボクに絡んできた。


「流石に冒険者は辞めたりはしないよ。パーティをクビにされちゃったことだし、自分で自分のパーティを設立とかを考えていて、けど行き当たりばったり勧誘を断られまくって途方に暮れていたとこ……」


 冒険者を続けられるかも分からない深刻な状況にいたが、今のステータスならなんとかやっていけそうな気がする。
 中級のモンスター『ウフベロス』を一撃で屠ったんだ、気を落とすことはない。


「あの、今パーティを設立するって言ったのよね?」


 そんなことを考えていると、後ろから女の人の声がした。それもかなり若そうな。

 振り向くと、露出の多い鎧を身につけ高そうな剣を装備している如何にも戦士って瞳をした少女が声を掛けてきた。

 ボクを見るは彼女は白銀のロングヘアーを手でかきあげる。
 ふんっと顔をそらされながら彼女は名乗った。


「あたしはリンカ……っていうの。リンカ・トオツキ。折り入って頼むわ……貴方のパーティに加入を希望するわ」


 あんぐりと口を開いて、汗を垂らしながらボクは目を見開いた。

 加入してくれるからではない、美少女という理由でもない。

 かつて、パーティに居た時に彼女リンカと出会ったことがあるからだ。


 そう、奇襲を仕掛けてきた有名な盗賊の女幹部『薄氷のリンカ』!


 ボクはすぐそばの荷物をテーブルの下へと隠し、超警戒しながらもリンカに耳を傾けて……


「うん、いいよ」


 とすぐさま承諾する自分がいた。
 一度は助けてもらった身だ、断れば恩を仇で返す結果になってしまう。

 それだけは嫌だった。
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