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第1章 ー愚者編ー
第7話 『幸運なボクはパーティメンバーに裏切られる』
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ツンデレキャラ
ー STATUS ー
LV:53
名前:リンカ・トオツキ 性別:女 年齢:20歳
筋力:110
体力:80
魔力:46
敏捷:90
防御:100
魔防:80
運 :40
スキル(技能):魔法 盗っ人LV 7
モンスターを対象。あらゆるスキルや魔法を奪い取ることが可能。レベルが上昇していくほど強力なスキルを奪取可能。
性格・『ツンデレラ』百%
実は虫嫌い等々……。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
暗い広間の中心から火花が散り、衝撃で後方へと吹っ飛ばされ壁に衝突しそうなリンカを見事キャッチした。
「ちょっ……!? 触らないでよ!」
抱き抱えた状態のリンカに拳で顔面を殴られてしまう。
ステータスの防御値が上昇していたおかげで強力な拳により死なずに済んだ。
ダラダラと鼻血が垂れるだけで、特には大きな問題などはない、うん。
「ず、ずみません」
一応、レディに気安く触れてしまったことを謝罪する。
あいにく戦闘に集中していて、リンカはボクの謝罪会見なんぞにまったく見向きしていなかった。
「あまり前へと出すぎると危険だ。ボクが注意をそらすからリンカさんは側面に回って!」
「断る!! あんたに命令される筋合いはないって言ったでしょ!」
と言いながらも素直に後方へと回って待機をしてくれるリンカ。
言っていることと、やっていることが真逆なような。
「よし! ボクが奴めがけて突進した瞬間に、出来るだけ存在を消したまま横にむかって走るんだ! 相手の棍棒を弾いたらすぐさま死線から奴の眼球に目掛けて遠距離魔法を叩き込んで!!」
ぎごちないが、素直に彼女は嫌々と頷いてみせた。
シャキッとダイヤモンドのような結晶の剣を両手に、1つ目のサイクロプスと睨み合う。
「よし! いつでも来な!」
地面を蹴り上げて、距離を詰めたところでサイクロプスめがけて剣を振り下ろした。
ヒュン!!
風切り音だけ、腕に伝わる手応え感がない。
おかしいと思いながら、上を見上げるとサイクロプスが頭をハテナにさせてボクを見下ろしていた。
避けようとした刹那、棍棒がボクめがけて叩きつけられてしまった。
「ごほ!? (あれ、案外痛くない!?)」
受け止めてくれる人もおろか、背後には誰もいなかった。
壁に叩きつけられるが、地面に落下する瞬間に態勢を取り戻す。
「……リンカさん!」
彼女を呼んでみるが、返事はない。
よく見るとこの広間にはボクとサイクロプス、半透明のフィオラしかいない。
なんで半透明なんだ? しかも苛ついたような眼差しに涙目でボクを見つめていた。
なにか深刻なことでもあったのか?
「あ、アレ。 リンカさんどこいったの!?」
やはり此処にはいなかった。
フィオラに尋ねると彼女は体をプルプルと震えさせた、ボクの右手を見ながら。
不思議に思いながら自身の手を見ると、気がついてはいけないことを気がついてしまった。
フィオラの息吹により姿を結晶に変えた元短剣、結晶の剣が消えていた!?
「ありゃ? お、落とした覚えがないけど??」
広間をキョロキョロ見回すが何処にもない、地面にも落としていなかった。
そして消息不明のリンカ。
女盗賊のリンカが。
「あ」
すべて結びついた。
泣きそうなフィオラが言いたいことも、気づかず起きた出来事も。
「ネロ様。あの女……」
顔を真っ白にさせるボクの袖を指で引っぱるフィオラ。
言わなくても何が起きたのかはわかる。
なんて残酷だ。
「……あの女!! 後方に下がって、サイクロプスにネロ様が集中しているのをいいことに真顔で接近しながら巧妙な手口でネロ様の握っていた結晶の剣を奪い取って、音もなく逃げていってしまいましたわ!!!」
荷物を確認する、中身の魔石が抜き取られていたが財布は無事だ。
けど唯一の武器が奪取されてしまった。
「なんてことだ……! うぁぁ」
青ざめた顔で声にならない叫び。
ニヤニヤとした笑みで盗んでいく女盗賊のリンカが脳裏に浮かんでくる。
完全にやられた。
嘆いているとサイクロプスがすぐ近くまで接近していた、棍棒をボクの頭上にめがけて振り下ろす。
「うぅう」
目を当てなくても腕が動いた。
サイクロプスの棍棒を無意識に受け止める。
もう片方の手で拳を作ると、ペッキリと棍棒を真っ二つに折ってみせた。
サイクロプスは口を半開きにさせて驚くが、構わずボクは奴に飛びかかって顎に強烈なアッパーを叩き込む。
トレスさんの攻撃ですら通用しなかったサイクロプスの皮膚が千切れ、サイクロプスの頭だけが吹っ飛んでしまう。
頭を失ってしまった胴体から噴射する血しぶきを浴びながらポカンとする。
「……あ、そうだ! リンカさん! リンカさんはどっちに行ったの!? 階層を下りたの?」
返り血を一切受け付けないフィオラに迫り、深刻な表情を向けながら彼女の肩を掴んだ。
「広間の奥かも! だって、盗賊なんだから!」
広間の奥といったら財宝部屋まで続く通路だ。
彼女が何を言おうとしているのかが分かる。『サイクロプス』イコール『財宝』リンカもさきほど言っていたじゃないか。
『サイクロプスね。確か、金銀財宝が眠るところをよく守護している1つ目の魔物でしょ?』
標的を聞かれた時に、何故か彼女からそんな言葉が出てきたのだ。
最初っからサイクロプスの守護する財宝が狙いだったんだ!
「さっさと下りましょう! あの女に構っても時間の無駄だよ! ほらほら」
フィオラに袖を引っ張られる。
ボクは彼女をすぐさま剥がしてから財宝へと続く通路に向かって首をふりながら歩いた。
「何処へ行くの!? あの女は裏切り者なんだよ! 女神は悪い人は嫌いだよ!」
「わかってるさ。取られて悔しいよ。けど、パーティを組んで別れも言わずに脱退なんて許さない! リンカさんがボクの大切な短剣を盗んだことに怒りは湧いてこないけど、何も言わずに立ち去るなんて許せない!」
半透明から鮮明になったフィオラの手を掴んで財宝部屋に向かって走った。
「ネロ様……貴方って人は」
うっとりしているフィオラを尻目に、ボクは自分の唇をおもいっきり噛み締めていた。
※※※※※※※
「ふん、やっぱり昔と変わらずアイツはバカみたいにお人好し。だからこうやって易々と裏切られるのよ」
悪い表情でニヤけながら、通路の隅に身を潜めながら財宝部屋に向かっているリンカ。
その手にはギラついた結晶のような剣、さきほど盗んでやった高価そうな武器である。
「それにしても何なのかしら、この剣? 魔力を込めていないはずだけど、異様に私を妨げようとする魔力が自発的に働いてるわ……ふふ、関係ないか」
剣を撫でると、ニヤけた顔を真顔へと変えて通路を進んだ。
「ネロ……『漆黒の翼』に居た頃よりは少しばかり強くなったようだけど、サイクロプスが相手じゃ殺られている頃かしら?」
仲間が殺られようがリンカにはどうでもよかった。そもそも仲間意識など芽生えていなかった。
盗賊団の幹部時代、リンカはネロとは敵対していた仲だ。
それでも借りを作らせたことがある。
『漆黒の翼』のメンバーに見捨てられて、盗賊に捕まってしまい檻の中で丸まっていたネロと出会ったのが初めだ。
あまり話しを交わさなかったが、彼を見ると嫌な気分になったのだ。
だから盗賊の仲間にはネロを片付ける、すなわち殺すと口実つけて森に連れてやり解放してやった。
消えて欲しかったけど、あの酒場で再開してリンカはネロに近づいて利用しようと考えた。
昔から狙っていたサイクロプスの財宝の為、彼を囮にすると。
「着いたわね」
洞窟のような広間にたどり着いたリンカは耳をすませ、ある壁の前に止まる。
文字が刻まれていた。
少し離れると、さきほど魔物から奪った遠距離魔法を使用して壁を破壊。
瓦礫の奥からは神々しい光が放たれる。
見渡す限りの金、銀、ダイヤモンド、エメラルド、パール、ルビー、財宝が集う巨大な部屋に辿り着いたのだ。
「ふふふ……やったわ!」
目の前の光景に喜び跳ねながら金銀に飛びついて、用意した布袋へと集めていく。
彼女自身では抑えられない強欲な心が暴走していく。
笑いながら、踊りながら、そして歌いながら、ありとあらゆる高価な物をかき集めて興奮をしていた。
束の間、部屋が大きく揺れる。
「キャッ!?」
人は揺れには敏感だ、それがたとえ戦士であろうと。
地震ではない、布袋を手に彼女は破壊した壁の方へとおそるおそる振り返った。
(なっ……)
そこには、壁の穴におさまる程の巨大な顔面を持った1つ目の魔物が青い目を充血させながらリンカを睨んでいた。
財宝を手に持つ、彼女に狙いを定めて壁に向かって魔物は拳を振り下ろす。
抵抗もが許されない大きな衝撃が、財宝部屋で立ち尽くすリンカを襲った。
壁の瓦礫が飛んできて、鎧を凹ませるほどの威力で彼女に襲いかかる。
恐怖に怯えながら金銀を詰めた布袋を落とし、リンカは額から垂れてくる血にひどく敏感に反応して震えた。
気がつけば、両足があらぬ方向に曲がっている。
鎧にも瓦礫がめり込んで、胴体に突き刺さっていた。
ツーっと唇から血が流れ出てくる。
「嘘っでしょ……だってさっき、アイツと……違う。あのサイクロプスより……大きい?」
魔物の姿を目の当たりにしてリンカはハッと気がついた。
サイクロプスには上がいる、すなわち親玉。
そうーーー リンカを襲いにかかってきたのはタダのサイクロプスではない。
全身真っ黒の巨人、最強と謳われる特級の魔物『サイクロプス・エルダー』だ。
リンカは手に握っていた結晶の剣を、震えた手で持ち上げようとするが落としてしまう。
そして、この時……リンカは自分の運命を決定付けたのだ。
このままでは、死んでしまうと。
命乞いもできないまま死んでしまうのだと。
「ーーーーー 助けてっ」
誰に言ったのかは分からない。
それでもリンカの脳裏に浮かんだのは、かつての父と母、盗みを一緒に働いていた盗賊仲間でもなかった。
名前を覚えたばかりの青年、笑いかけてくれ、あの笑顔を決して絶やそうとしない青年。裏切ってしまったあの男。
叫んだのだ。
(ーーーーー ネロ!!助けて!)
涙を流しながら、心の中でネロを呼ぶ。
「リンカさーーーん!!」
裏切ったはずの彼はすでに、彼女の手に届く距離にいたのだ。
リンカに対しての失望はない、ネロの眼差しにはリンカを見つけたことによる安堵が浮かんでいた。
笑いかけてくれるネロを見た彼女は、抱いたことのない感情を抱いてしまっていた。
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