S級パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる〜勇者より先に魔王討伐を目指す〜

灰色の鼠

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第1章 ー愚者編ー

第11話 『幸運なボクは獣人の村へと行く』

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「ハハ! やったやったー! がっぽがっぽ稼いでみせたわよネロ!」

 カジノから帰ってきたリンカとボクはゴルド(金)の入った布袋を3つ抱えていた。
 大当たりだろう、なんせ自分もその場にいたからだ。

 彼女に付き合わされたのが1つの理由で、もう1つの理由はレベ上げ。
 職業をもった者はモンスター討伐だけではなく、カジノでも経験値が得られる。
 シーフに転職した際に、能力は引き継けないため初期化される。
 なのでレベル1だ。
 そのためまず、危険を冒さないためにもカジノを優先させたのだ。

 運が良いボクがそばにいてやってリンカがゲームに参加する。

 開始早々、経験値が沢山得られた。
 特にジャックポットを1時間も続けていればドラゴンを一体倒した分の経験値を得られる。
 サイクロプス・エルダーから得られる経験値はジャックポット20分、グリフォンは30分。

 外れでもスライム分の経験値が得られる。

 3時間で金、経験値を大量に得られたおかげでレベルが良い具合に上がった。

 現在のジョブレベルは48、得られた金額は50万ゴルド。
 宿で数ヶ月も宿泊できる金だ。

「さて、これからどうするのネロ? レベルも上がったんだし、やっぱりギルドにいって本格的な討伐クエストでも受ける?」

 最近のリンカは、前まで避けていた態度が嘘みたいにくっついてくる。
 目の前の白銀の髪が甘い、それに乳がボクの腕に接触するたび跳ね返っている。

「ん、どうかしたの?」

「え、いや! な、な、なんでもないよ!」

「落ち着きがないわね……あんた」

 いかんいかん、作戦会議中でのいかがわしい妄想はさすがにいけない。
 フィオラもいるんだし、しっかりしなければ。

「うん……ごめん」

「それよりどうするの? 金には困っていないけど、経験値を集めるのなら峡谷に生息するジャイアントスパイダーがオススメよ。なんだって集団で行動するから纏めて焼き払えばがっぽ稼げるわよ」

「私は拒否する」

 フィオラが彼女の提案を真顔で拒否った。
 リンカの楽しそうな形相が黒ざめて、鬼へと変化した。

「は……? なんでよ?」

「私は女神だけど、虫に似た生物は苦手なので極力避けているの」

「得意と苦手の話じゃないでしょ? あんたの意見はどうでもいいの!」

「あーあネロ様聞いてよ。この女仲間の意見すら耳に傾けないって……」

「私は効率の良い方を選ぶの! ネロ、あんたからも何か言ってよ!」

 ボクを挟んで睨み合いを開始させる2人、さすがに飽きたので止めよう、問題ごとはナシだ。

「悪いけどリンカ、峡谷はナシ。もっとも、そこまで急いでいないし経験値は逃げたりしない」

「……逃げるわよ」

 頰をプクーっと膨らませるリンカ、盗賊の幹部が拗ねてらっしゃる。

「まあ……とにかくリンカは討伐系がやりたいんでしょ? 確かにボクも体がなまっちゃったかもしれないし、久々に動こうとは思う」

 サイクロプスを討伐してから5日が過ぎた。
 腕から手をすべて覆うように包帯を巻かれて剣すら握られない状態だ。
 リンカにカジノを誘われたからいいものの、ステータスが向上したところでパラメータに相応しい身体ではなきゃ宝の持ち腐れだ。

「じゃさっそくギルドに行こうかしら。依頼を受注した後はご飯にしましょ」

「ネロ様、装備大丈夫?」

「心配ないよ。昨日、行きつけの鍛冶屋で点検してもらったから」

 そんな話をしながらボクたち3人は王都の中央付近のギルド本部へむかった。



 ※※※※※※



「ということで、3日前から行方不明になった娘を見つけて欲しいんじゃ……」

 依頼のため、ボクらは王都から少し離れた『獣人の村』に訪れたのだった。

 内容・深追の森で行方不明の娘の行方を捜索。というものだった。
 ギルドの掲示板の緊急依頼コーナーである張り紙に目が止まった時、最初に食いついたのはリンカだった。
 チラシを剥がして受付へと持って行こうとしたのだ。

 すぐさま止めて『討伐系がよかったんじゃないの?』と聞いたところ、リンカはチラシの報酬を見せつけてきた。

 上級クエストと書かれていて、その下には報酬15万ゴルドと記されていた。

『気が変わったわ。ネロ、これを受けましょ』

 テーブルに叩きつけられたが、上級クエストはさすがにキツくないか? と困ったようにリンカに言ってやったけど、彼女は報酬のさらに下の報酬に指を差した。

『純白な衣』
 知っていた。何故なら『漆黒の翼』が所有したことのある魔法道具なのだから。
 白い衣を着ることにより一時的に透明化すると言われている代物だ。
 リンカはボクを見ながら笑い『シーフに相応しいと思わない?』と訪ねてきた。

 確かにシーフの得意な潜入捜査やスパイ活動にとっては必要不可欠、欠かせない魔法道具である。

 すぐさまイエスと了承して、その娘が行方不明になったと書かれている森のそばの村に訪れたのだった。
 亜人族の犬、猫族しかいない村である。

 そんな村の老人村長の頭には立派な耳があった、さすがにモフモフしたいとは思わない。
 しかしフィオラはこの村に訪れてきてから上機嫌である。
 すでに獣人の子供たちを撫で撫でしている。
 彼らはフィオラが見えないのでかなり怖がって逃げていってしまった。

「あの、質問をよろしいですか?」

「なんでしょう?」

 手を挙げたボクを当てる村長、生徒と教師だなこりゃと手を下げて質問をする。

「チラシに書かれていた報酬なんですけど……」

「ほうほう、足りないのですか?」

「いえいえ! 全然、十分足りているんですけど疑問はそこじゃないんです」

「では、なにが不満なのでしょうか?」

「報酬金額が15万ゴルドって、いくらなんでもおいしい金額じゃないですか? 普通、捜索依頼なら2万で十分ですし、何故こんなに沢山……」

「そうですな……」

 村長はネロの言葉にうつむき、目を閉じながら考え込んだ。

 少しすると村長の立派な耳がちょこんとと立ち顔を上げた、やばい苦笑いしてまう。
 真剣な話が開始されようとしてるのに、可愛らしく動く耳に笑ってまう。
 すでに隣でフィオラが爆笑していて、リンカも釣られそうになり腹を抱えてブルブルと震えていた。

「実は私の孫……」

 村長の隣で腰掛けているのが村長の息子にその妻、彼らの娘だろう。

「私達種族と違って、彼女に耳が無いんですよ」

 ん、耳が無いのに獣人? 疑問を先に抱いたのがリンカで彼女が村長に聞いた。

「それっ、どう言うことなの? 獣人族なら耳が付いているはずでしょ? ハーフならまだしも……」

 リンカは隣で暗い顔で腰下ろしている男女、行方不明になった両親を見ていった。

「2人ともどう見ても獣人じゃない? もしかして……お二人方の1人が、他種と性的……」

「違う! それは断じて違うぞ人の子よ!!」

 娘の両親の男の方が興奮してかなり荒れた声でリンカに指摘をした。
 彼女は開いた口を開けたまま固まった。

「こら、失礼じゃないか!」

 男は村長に頭を杖で叩かれてしまった。
 すぐさま唖然とするリンカに謝罪をする。

「申し訳ないリンカ殿。疑うのも無理もない、私の説明不足です……」

「い、いえ。別にいいわよ。こっちだって根拠もないくせに失礼な発言をしてしまって」

 リンカは本当に反省しているのだろうか、かなり棒読みに真顔をプラスした謝罪だが。

「それで、どういうことなの?」

「ちなみに孫の名前はミミ、ミミ・クリヴァです。実は生まれた時は彼女にも耳は付いていたのです、最初だけですけどね」

 耳が無いのにミミ、かなり気の毒そうな名前を付けられたものだ。
 生まれた瞬間、未来がどうなるかは人では判断できない、仕方ないことか。

「それから1年の月日が経過して、息子のペドラム」

 先ほど怒鳴った男のペドラムがボクを見て頷いた。

「ペドラムは孫のミミに自然を見せるために森へと連れて行ったのですけど、夜になっても帰りが遅かったのです。心配で心配で心臓が痛くなりそうで、村の皆で2人を捜索したのです。今思い返せば、あの夜がキッカケでミミは……種族で大切な耳を失ってしまったのです」

 村長は悔しそうな顔を見せた。

「あの日ペドラムとミミは、『魔王の使徒』と遭遇してしまったのです……」

 村長の言葉にボクは隠しきれない憎悪を感じて、目を大きく見開いていた。
 魔王に仕える最高の配下ーー 七大使徒 ーー。非常に凶悪で危険視されている7人で、その中の1人が王国の軍を単独で全滅させたり、島を生成して国を作ってから人間をゲームに参加させて殺しあわせたり、かなり残酷で非道な奴らだと耳に挟むが……実際存在しているのかが最近になって民衆に考察されるようになったらしい。

 けど、ボクだけは彼らの存在を信じ込んでいた。

 なんせ……ボクの故郷を壊滅させたのが魔王軍の使徒なのだからだ。
 あの顔、容姿、体型、表情は人間ではなかった、完全なる悪魔である。そしてボクはそいつを殺してやろうと誓った、この手で必ず。

「ね、ねぇ……あんた大丈夫なの?」

 いつの間にかボーっとしている自分がいた。
 リンカの声によって呼び戻される。

「あ、いや大丈夫。続けてください」

「よろしいですね」

 咳払いしてからまた話し出す村長。

「遭遇したものの、使徒はペドラムや孫に直接的な危害を加えなかったのです。だだ……笑いながら孫に近づき、手を振って何かしらの魔法でミミの耳を消滅させたのです」

「あの時は本当に……何が起こっているのかが分からなくって、固まってしまった自分がいた」

 ペドラムが割り込んで、かなり悔やむように言った。

「獣人族の耳は魔力を制御させるためにの役割を担っているんです」

 知っている、過去神剣士レインの指導により聞いたことがある。

「それがないとなると、抑えてくれるものが無くなり魔力が暴走してしまうんです。そのせいで本人のミミは理性を失って暴れては、人に危害を加えてしまうことがあるんです。村の狩猟班でさえ手が追えないほどに……そんな時、ペドラムか母のユーフェルトが彼女を宥めようとすれば落ち着きを取り戻すんです」

 そういうことか、つまりかなり危険な依頼になるだろう。
 獣人族の狩猟者というのは冒険者並みの行動力と力を持っている、そんな人たちですら手が追えないとなると……。

「つまり行方不明になったのは……理性を失って魔力が暴走してしまったからです。森に入ってから見つからなくてなり、あのままでは。誰かが危険にさらされるかもしれませんし、ミミ自身も傷ついてしまう」

「そんなことが……」

 隣で正座をしているフィオラが泣き顔を見せていた。
 ボクも思わず泣きそうになったが、考えてから答えを出した。

「わかりました」

「はて……いいのですか? かなり危険なのですよ?」

 獣人族の暴走は戦士をも容易く殺すと聞く。それでも、話を聞いてしまったからには仕方がない。
 リンカが真顔で言う。

「いいのよ、私らが受けるって言ったら受けるの。あんたらはそこで大人しく承諾して案内すればいいのよ」

 少しキツイ言葉を放つリンカだが、その表情には微かな優しさが秘めていた。
 彼女はボクの肩を叩いてから床から立ち上がって、村長の家の出入り口へとむかった。

「リーダーはネロ、あんた。あんたの指示には従ってやるわ」

 それだけ言い残すとリンカは髪をかきあげて外へ出て行ってしまった。
 フィオラもニッコリ笑いながらリンカを追いかけて走って出ていった、ここにいる彼女の存在に気がついているのはボクとリンカだけだから何も言わないほうがいいか。

「それじゃ、ボクらはそろそろ出発をします。連れ戻り次第、そっこうで報告しま……」

 立ち上がって村長を見ると、彼はブルブルと震えながら泣いていた。
 彼だけではない、ミミの両親であるペドラムとユーフェルトも号泣してボクを見上げていた。

「ありがとぉ……!!」

「うっうっ……なんて礼を言えば……すまない」

 彼らを見て、無意識にうすく笑って微笑んでいる自分がいた。
 彼らの方を見向き、優しい声で言う。

「喜ぶのは娘さんを見つけ出して、抱いてあげた後にしてください。必ず、見つけて戻って来ますから」

 それだけ言い残すと、ボクは彼らに背中を向けて村長の家から退出した。
 外ではフィオラとリンカが睨みあって、口喧嘩が勃発されていた。
 周りから見たらリンカは独り言でブツブツ言ってるようなものなので、いつも通り……殴られようがかまわない。
 2人の間に割り込んで全力で止めに入る。

 この瞬間に実感した、仲間を持つということを。
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