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第3章 ー離別編ー
第30話 『絶望する女魔道士』
しおりを挟む目を覚ませば私は暗い空間にいることに気がつくと、私は心から溢れんばかりの恐怖に支配されてしまっていた。
思い通りに思考が機能しない、身体の震えが止まらない。
記憶が何度も蘇り、何度も繰り返された。
私を守ろうと前に歩み出た仲間達の背中。
殺されていく醜くなっていくあの姿。
ーーアイツらが囮になってくれている間に私は逃げられるのだと、優越感に浸りながら喜んでいた。
ほんの軽い気持ちでそう思ってしまっていた。
だけど、
一人で逃げようとしたその直後、仲間が1人殺されてしまい、悲鳴で私は足を止めて振り返ってしまった。
だけどそこには、仲間と呼べる者はもう誰一人していなくなっていた。
私を獲物として襲いかかろうとしている、モンスターの群れしか此処にはいないのだ。
殺される。
自分の死を悟り、涙目になりながら覚悟を決めた。
私の職業は『魔道士』。
迷宮に入ったことのない未熟なヒヨッコだ。だけども何故か、ギルド内だけではある程度の知名度があった。
それでも私には戦闘の才能はない、魔道士を始めたのも最近なのだ。
それなのに経験のない私がこの迷宮に潜っていて、パーティに加入できたのには理由が2つある。
1つ目は、私の兄は『聖剣士』であり、魔の大陸の最前線にまで編成されるほど実力を持っていること。
おかげか、兄と血が繋がっている私『グレンダ・エルデット』の将来は期待されていた。
『聖剣士』とは認められた最強の剣士に与えられる称号である。
それから2つ目、自慢だけど殆ど私の美貌のおかげだ。
冒険者を始める前から私は『アルガルべ王国』ケイン領の迷宮都市ヘルセイムで単独でのアイドル活動をやっていた。
おかげか男性だけに限らず女性にも好かれるようになり、人がどのような事をすれば喜んでくれるか自然に私は学習していった。
街を歩けば話しかけられてお誘いを受けることが多くなって、次第に私のアイドル活動が成功。
そして気づいたのだ。
私はどのような人間からでも好かれる体質なのだと。
兄の背中を追いかけ、自分も冒険者を始めればいいのではないか? と。
軽い気持ちで冒険者ギルド登録をしに行き、名乗る際に私は『聖剣士の妹』であると自ら自慢気に口にした。
私の上の名前を耳にした途端、ギルドにいた冒険者らは揃って目を輝かやかせながら、勧誘を持ちかけてきてくれた。
大勢が取り囲んできて、チョロいと私はその時に思ってしまった。
『こんなにもすぐ、沢山の駒ができるだなんて』
だけど初めての迷宮入りに、余裕など見せてはいられなかった。
気を引き締めながら臨時パーティである、厳選した腕利きの良い冒険者らと迷宮に足を踏み入れたのだ。
途端、強い魔力によって私は吐き気に襲われてしまう。
だけど魔道士の家で生まれたおがけなのだろうか、濃度が高くて操り難いと言われている迷宮の魔力にはすぐ適正できていた。
なのに私はそれを自身の才能だとすぐさま思い込んでしまう。
なのに、いざ戦闘になればそうではなかったと思わざる得なかったのだ。
簡単に言えば私に才能は微塵もなく、初級の魔法ですら詠唱から発動までの時間を大幅に要してしまう。
すると、組んでいた腕利きの冒険者らは私に対しての違和感を感じ始めたのか、『調子悪いね?』『もっと上級の魔法が使用できない?』と尋ねてきた。
今までの戦歴の詳細は全て私の口ぶりによって、事実ではないデタラメだらけで埋められている。
そのせいでパーティは私をプロの魔道士だと信じきっているのだ。
そもそも、私には戦う気など一切ない。全てパーティに任せればいい、そう思っていた。
その為にも有名な冒険者らを編成してみたけど、迷宮というのはどうやら簡単に上手く攻略できないぐらいに複雑な場所だと私は痛感する。
暇などは持て余してくれたりはしないのだ。
それでも私は、笑顔で誘惑するように答えた。
それを彼らは疑いなく信じてくれた。
その繰り返しだ、嘘をついて信じこませて駒にするのだ。
ーーーそんな私が痛い目を見るまでは。
目を開けてみると、モンスターの大群に私は取り囲まれてしまっていた。
毎回目にする人間の群れではないのだ。
助けを求めようとしたけど、どうやら私が逃げようとした時に仲間らは全滅してしまったらしい?
壁にもたれながら震え、もう私を守ってくれる駒などいないと覚悟した。
ただ死を待つのみだと、恐怖に支配されながら思った。
遂にツケが回ってきたのだ。
瞬間、今まで自分が選んできた愚かな選択が脳によぎり、私は後悔した。
どこで道を踏み間違えたのだろうか?
後悔の数々が走馬灯のように私の周囲を渦巻き、胸に針を刺されたかのような痛みに酷く苦しめられる。
頭を抱えながら顔を上げてみると、恐ろしい姿のモンスターらが赤い眼球で私を睨みつけていた。
「ガァァァアアアアアアア!!!!」
一斉に咆哮を上げながら、蹲る私に襲いかかってきたのだ。
「キャァァァァァァア!?」
全てを甘くみて周囲の人間を利用した結果、私は失敗してしまったのだ。
そんな傲慢な私でも、何故か懲りずに微かな希望を胸に期待してしまっている。
そう。
また人は繰り返すのだ。
それが私という脆い人間なのだと。
現実から逃げ去るように私はまた、誰かに救いを求めている。
「助けて、ください………!」
誰に向けて言ったのかは分からない。
だけど最後に何もせずにはいられなかったのだ。
「!?」
「ギャアンッ!?」
ーー瞬間、目の前のモンスターが真っ二つに切り裂かれてしまった。
それも1匹だけではない、何匹もそこらに切り捨てられている。
震えた眼球で周囲をキョロキョロと警戒して見回したが、薄暗くて周囲が鮮明に確認できない。
ギャアン!? ギャアンッ!?
それでも聞こえた。
私を喰い殺そうとした奴らの悲鳴が、次々と鳴り止まぬことない絶命していく声が。
「ギャアンッ!?」
「ひっ!!」
耳を抑えようとした直後、モンスターの1匹が暗闇から飛び出してきて突然、私にめがけて口を大きく開いて飛びついてきたのだ。
今度こそヤバい。
そう思った時にモンスターは、私の目の前の地面に倒れてしまった。
戦慄を覚えながら倒れたモンスターを恐る恐る目にする。
切り裂かれた痕が無数にあった。
そして気がついた。
このモンスターは飛びついてきたのではなく、吹っ飛ばされてきたのだと。
そして再び目の前の方を見るとそこには一人、金色に近い髪に緑色の瞳、血塗れの可愛い顔をした青年が立っていた。
高価そうな鎧が一式、エメラルド色の魔石がはめられた鋭い短剣。
見るからに貴族でしか手に入れられないであろう装備を身につけていた。
「……」
青年は警戒を解かない私の方をジッと見てから、慣れたように小さく微笑む。
その笑顔を目にして、不思議に私の警戒心が少し薄れていった。
「そこの人、大丈夫ですか? 怪我はないでしょうか?」
頰に付いた血を拭いながら青年は私を見ながら、けっして距離を縮めることなく尋ねてきた。
少し驚いたけど、私はすぐさま頷いてみせる。
すると青年は安心したように胸に手を当てて溜息を溢して、武器をしまってからそっと手を差し出してきた。
「そっか、それなら本当に良かった。もしこ偶然ここに通りすぎていなかったら……どうなっていたか。もしかして一人で来たんですか?」
一人で来たか、って?
青年にそんな事を聞かれて私は周りを見ながら困惑する。
だけど、そこにはもう仲間の残骸が残っていないことに気がついた。
「………は、はい。私、一人です」
咄嗟に私は嘘をついてしまった。
青年はキョトンとしたような表情を一瞬だけみせるが、何も言わずに頷いてくれた。
「……ここが迷宮だと知らずに誤って入ってしまったんですか? 女性が一人だけで迷宮を攻略しようだなんて、とてもじゃないけど考えにくいし」
「え、ええ……そうなんですとも。此処って迷宮だったんですね、今知りましたよ……」
青年の口にした予想が、都合よく私の言い訳になった。
恩人であるこの青年に対しての罪悪感が湧いてくるけど、仕方がない。
面倒事は御免なのだ。
私は青年の差し出した手をギュッと掴むと、青年は私を引っ張ってくれた。
青年の女の子のような可愛い顔が接近してきて、胸がドキッと反応してしまう。
「あ、ありがとうござい……ます」
胸を押さえながら私は青年から顔を逸らし、小さな声で感謝を伝えた。
不思議な気分だ、いつもなら面と向かって作り笑顔で言うのに。
「あの……もしよければお名前を、お聞きしても?」
私はモジモジとしながら、恥ずかしそうに青年に聞いた。
なぜ聞いたのかも、考えてみても自分でも分からなかった。
「ボクですか?」
「は、はい!」
「ボクの名前はネロ、ネロ・ダンタです。貴女は……?」
そう問われて、答えずにはいられなかった。
「グレンダ・エルデットです……! 十八歳で独身! えっと、現在彼氏は居ませんのでフリーです!」
聞いてもない情報を何故が次々と私は口にしてしまっていた。
頭まで下げて顔を赤らめてしまっている。
完全に混乱しているのだ。
まるで先程までの私ではない、別人のような感覚に見舞われているのだ。
「あっ、すみません! つい、色々と……」
慌てながら謝罪すると、ネロは口に手を当てながら小さく笑っていた。
それを見た私は、段々と自分が恥ずかしくてしょうがなくなってしまう。
(きゃー! 死にたい死にたい死にたい!!)
「グレンダさんね。けっこう良い響きのお名前なんですね」
だけどネロの反応は意外なものだった。
もしかして褒めた? あんな事したのに褒めてくれたの? つまり、脈ありってことなのかしら……、
途端、ニヤリと笑ってしまう自分がいた。
(この男……狙っているわね)
どうせこの男も、私の魅力に惹かれてわざと私を惚れさせようとしているのだ。
なら結局そこらの男と変わりない。
そう考えていると、次第に彼に対しての胸の高まりが静まり始める。
「ありがとうございます! ニコリ!」
ひとまず危険を避ける為にも、この男にくっ付いて行こう。
腕の立つ冒険者を全滅させたモンスターをいとも容易く駆逐したのだ。
この男の強さ、ただものではない。
「元気そうでなによりだよ、さあ行きましょう」
よし!
どうやら私はまた新たに、役に立ちそうな駒を手に入れることが出来たのだ。
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