33 / 62
第3章 ー離別編ー
第33話 『謎の光に包まれて』
しおりを挟む「ということで今晩だけグレンダさんを泊めることにしたんだ」
現在、拠点としている屋敷『グリモワール邸』の食堂にて、先ほど偶然にも助けたグレンダという可愛いらしい容姿をした魔道士をリンカ達に紹介していところだった。
当然、よい反応よりも先にリンカ達は不審そうな視線をネロに当てていた。
そして呆れたように、女性陣は揃って溜息をこぼす。
「……またね」
「またですねぇ」
「まただにゃ」
「またって? ネロくんってしょっちゅうそうなの?」
同調するリンカとフィオラとミミと打って変わって、ジュリエットは少し動揺しながらリンカ達に聞いた。
「見ての通りよ、周りをご覧なさい」
リンカが周囲の女性陣に指を差しながら呆れるように言った。
どうしてこんなにも女性だけがこの場にいるのか、それをジュリエットはようやく気づく。
何を思ったのかジュリエットはネロの隣に座るグレンダの方を向き、咳払いしてから質問する。
「どうも、私はジュリエットと申します。グレンダさん、ですよね? 貴方もしかしてだけど、ネロくんに不思議な感情を抱いたりはしなかった?」
ギクッ! とあからさまな反応をみせるグレンダ。
その質問に女性陣達はピクリと眉をひそめる。
ミミだけは平常心だった。
ネロには一応懐いているようだけど、案外そういう感情は全くないらしい。
だけど油断は禁物、あとは時間の問題だ。
「………………別に特に、あ、あ、あ、ありませんよ!」
挙動不審に目を泳がせながら答えるグレンダ。
隠しきれてない、まったく隠しきれてないから。
それを聞いて不審そうな表情を一瞬みせたジュリエットだったが、ニコリと笑ってから手を差し出した。
「そう、別に確認したかった訳じゃなくてね? あまり気にしないでくださいねグレンダさん。もちろん歓迎するわ」
「……は、ハイこちらこそ不束者ですかお手柔らかによろしくお願いします!」
グレンダは頭を下げながらジュリエットに差し出された手を掴もうと伸ばす。
だけどテーブルの長さからして彼女との距離では届かない。
とうてい握手は無理そうなので二人は苦笑いしながら気まずそうに伸ばしていた手を下ろす。
なんだか、暗い空気が続いている気がしたネロは手をパン! と叩いて皆の注目を集める。
「えっと、お腹も空いてきて料理も準備されたことだし、とりあえずは食事にしよう。グレンダさんも遠慮なく食べていってね」
「う、うん。ありがとね……なんか、色々と」
さっきまでの活発そうな威勢がまるでない返事が返ってきた。
迷宮でみせていたあのグレンダのキャピッ! ポーズを全然してこないじゃないか。
この屋敷に訪れてからなのか、それとも刻まれていた紋章を目にしてからか、彼女から落ち着きがまるでない様子である。
それがあまりにも面白かったのでリンカ達の前でもやって欲しかったと、少々残念がるネロだった。
「……ん……これ、おいしいっ!」
スープを口にしたグレンダから称讃の言葉が溢れる。
美味すぎたのか、スープンを落としながら勢いよく立ち上がり両手を重ねていた。
そして、彼女は周囲を見回す。
「急にどうかしたの、グレンダさん?」
「おいしいのは確かニャのだけど、そこまでのリアクションするほどかニャ?」
相変わらず呑気に料理を頬張るミミ。
やはり肉ばかりを摂取している。
たまにジュリエットが野菜も食しなさいと注意をするけど、ミミはそれを聞かずに肉を食べながら逃げてしまうらしい。
だけど最終的に拘束されてガミガミとジュリエットお母さんに叱られる。
そのままピーマン地獄の刑を判決されてしまう、それなのにミミは懲りずになぜか肉を食べ続けているのだ。
「いや、あの、この料理って誰が作ったのか……気になったの」
「この料理? ウチにはコックを雇うぐらいの金はないよ。だけど、ジュリエットちゃんがほぼ担当してくれているんだよね」
ジュリエットへとグレンダの視線が向けられた。
輝く尊敬の眼差しだ。
だけど今回、この料理を作ったのはジュリエットではない。
「まさか、ジュリエットさんがこの……料理を!」
「いや、私じゃなくて……」
苦笑いしながらジュリエットは答える。
代わりにネロが説明しようとしたその刹那、グレンダの背後から異様な気配がした。
瞬時に振り返るとそこには、
「料理をなさったのは私であります、お嬢様」
メイド服を着た清潔そうな女性が、ティーセットを乗せたトレイを手にグレンダの背後に立っていた、それもいつの間にかだ。
豊満を遥かに凌駕した胸という女性の象徴、誘惑のダークブラウンな瞳、目元に付いているセクシーな鳴き袋が彼女の色気をさらに引き立てていた。
そんな彼女の無心な表情が向けられる先には、ネロが映っていた。
「ご主人様、ただいまお茶が入りました。まだ高熱ですので食後にお召し上がりください。丁度良い温度具合に調整しておきましたので、その間に冷えることはありません」
「毎度ありがとうございますねアネットさん。是非いただきます」
「…………」
そう言いながらアネットと呼ばれる女性ははテーブルにティーカップを並べた。
そのままネロに一礼して、食堂の厨房の奥へと消えていってしまう。
絵に描いたようなメイドの姿だ。
「……彼女は、この館の使用人なの?」
立ち尽くしながら、グレンダは驚いた様子でネロに聞いた。
突然、音もなく背後から現れた得体の知れない女性だったので無理もないだろう。
「……うん、彼女は元々この屋敷の前当主に仕えていた使用人の『侍女長』だったんだ。さっきも言ったと思うんだけど、この屋敷に元々住んでいた上流階級の大貴族が没落してから逃亡を図ったんだ。おかけでこの屋敷を手放さなきゃいけなくなった。
かつてそこで仕えていた彼女『リネット・バレンタイン』さんは前当主に猛烈なまでの忠誠心を持ったんだ。館に対しての未練を断ち切れずに、この屋敷に残ったらしい。『私が仕える真の主人がどうか安心して帰還なさってくれるよう、私はここでお待ちしております』と、この屋敷に最初訪れた時に悲しそうにアネットさんは言っていたよ」
若い頃、村にいた住んでいたネロは一度だけアネットとは会っていた。
前当主の娘であるレインを心配して、遥々王都から村まで足を運んできたのが理由だった。
「けど、いざ彼女と対話してみれば優しい方だって分かったよ。ちょっと鬱陶しいぐらいの世話好きだけど……ね」
そんなネロがアネットに抱いた第一印象が『怖いお姉さん』というものだった。
まだ二十代で若い頃のレインとあまり年齢差がない彼女だったが、まるで大人のようにお節介焼きだった。
几帳面で清潔、律儀な女性。
だけどつまみ食いしてしまうような、ギャップがアネットにはあった。
アネットとネロは数年も会っていないが、まさかこのような形で彼女と再会が出来るだなんて、ネロ自身は思いもしなかっただろう。
「そういえば、この料理はアネットさんが作ったんだよ」
「ああ、あの人言ってたね、とても美味だったよ。後で………お礼なんか言ってもいいのかな?」
それを聞いた途端にネロ達は顔を青ざめてしまう。
「それはやめておいた方がいいと思うよ? そのせいで、ちょっと色々と問題が起きちゃったし、その想いだけは心の中にしまっておいて」
「え? どういう……」
再び聞いてみようとしたグレンダだったが、恐ろしそうな表情を浮かべるネロ達を眺めてそれ以上聞くことを断念した。
(……まあいいわ。けど、なんなのかしらこの男? 屋敷を持っているわ、グリモワール家の知り合いがいるわ、女の子に囲まれているわで幸運値MAXですか? まぁ、そんな訳ないわよね……そんなの聞いたことないし。居たら躊躇わずに結婚しちゃうわ私)
「あら、どうかしたのかしらグレンダさん? 顔、ゲスいわよ?」
うっかり自分の世界に入り込んでしまったことにグレンダは気つき、すぐさま我に帰る。
顔を上げると、そこにはニヤケた顔のリンカが腕を組んでお茶をすすっていた。
女の勘でリンカはグレンダの内面をほぼ察している状態だ。
自分もグレンダと同じ表情を作ってきた時期が何度かある。
不思議にリンカはそんなグレンダに対して、悪い親近感を抱いてた。
「はっ! もう、何を言うんですか女の子に対して~、ゲスくなんかないですよぉ?」
「ふーん、そう? ま、とにかくあまり詮索はしないでおくわね。ああ、ちなみに私はリンカって言うの。忠告だけど、私のこともあまり詮索しない方が……いいわよ?」
恐ろしいオーラをグレンダに放ちながらリンカはニコリと微笑んだ。
(なんなのこの女? 少し可愛いからって私を威嚇してきて? ははーん、もしかして私と同類なのかしら?)
「ごちそうさま」
食べ終えたジュリエットが手を合わせ言う。
途端二人は睨み合いを止めた。
(チッ)
(チッ)
せっかくアネットが作ったものだ、二人も黙々と食べながら食事を終えたのだった。
※※※※※※
この屋敷には巨大なお風呂をも完備している。
おかげさまで毎日、温泉に行かずとも入浴できて女性陣は非常に嬉しそうだった。
だけどその中、猫属性のミミだけは嫌がってしまっていた。
体を水で濡らしてしまうのが物凄く嫌らしい。
猫らしいと言えば猫らしい。
無理強いする気はない、彼女がそう言うのならば強引に入らせる訳にもいかない。
だけどそれを許さないのがウチのメイドのアネットである。
彼女にとって不潔は大敵。
常に屋敷に住まう住人も清潔ではなくてはというルールがアネットにはあって、逃げ惑うミミをも瞬殺。
気絶したまま入浴させられ、体の隅々までアネットは汚れを落としてしまう。
どうやら汚れを全て落とさなければ気がすまない性質らしい。
その次の日には、ツヤツヤ肌状態のミミが屋敷の中を徘徊しているのだ。
今日の入浴は女性優先、ボクは部屋で大人しく順番を待つことにした。
「……手紙でも書こうかな?」
エリーシャに送る手紙を書こう、内容はすでに決まっている。
そう思いながら机に向かおうとしたが、何かを感じたとりボクは足を止めた。
「……異変?」
屋敷から気配が一瞬にして消滅したのだ。
アネットを含めて数人も、リンカ達の気配が途絶えてしまっている。
それが何かしらの予兆なのか、嫌な予感が頭の中をよぎる。
不審に思いながら部屋の扉の方へと近づき、手をかけようとした、だけど遅かった。
突然、部屋を光が充満してしまい、とっさに反応できずに体が硬直してしまう。
抵抗も出来ない、何が起きたんだ?と。
そう認識する前に、体全てが神々しく眩しい光によって包み込まれてしまう。
「ああ…………あ…………っ」
それでも尚、ボクは手を伸ばし続けた。
自分でも分からない、だけど誰かがきっとこの手を掴んでくれるはずだ。
そう願うしか、ボクにはできることはなかった。
「………!」
意識が途切れるその瞬間。
この世界からボクという一つの存在が、音もなく消滅してしまった。
0
あなたにおすすめの小説
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる