S級パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる〜勇者より先に魔王討伐を目指す〜

灰色の鼠

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第5章 ー黒竜侵食編ー

第44話 『剣術に才能がない兎』

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 ーーーバキン!!

 目では到底追えない速さで振り下ろされた木剣が、容赦なく僕の肩に叩きつけられる。
 強い痛みに体勢を崩すと、すぐさま追撃が相手から放たれた。

 視線で捉えようと全神経を視野に集中させるが、それが無意味かのように木剣の先端が僕の額に命中。
 仰け反らせてくれる時間すら与えてくれない、会心の突きによって吹っ飛ばされてしまう。

 地面に叩きつけられ、僕は仰向けに倒れる。

 目を開くと視界に青い空が広がっていた、しかし生憎左目は相手の木剣に潰されてしまい開かなくなっていた。

 ーーー勝てるイメージが全く浮かんでこない……諦めよう。

 そんな情けない事を思いながら、手に握る木剣を捨てて降参しようとした。
 僕には剣の才能なんて微塵もない、剣術を身につけた所でどうせこの先、僕は負け続けるだろう。
 だったら最初から潔く、降参してーーー

 諦めようとしたその瞬間、それを許さないのか、稽古の相手である彼女は鋭い視線で地面に伏す僕を睨みつけていた。しまいに木剣を喉に突きつけられてしまう。

 見上げると、鋭いその視線には惨めに鼻血を垂らしながらヘラヘラと笑っている自分が映っていた。
 勝てるわけないと、現実を容易く受け入れた弱者の僕が。
 なんせ、相手はあのーーー


 神剣士にして僕の妹、勇者エリーシャの師匠『レイン・グリモワール』だ。
 一応、僕の師匠でもあるが正式な形ではない。
 エリーシャよりかはイージーな剣術を僕に教えてくれるが、それは決して優しい稽古ではない。
 僕のような文学少年が血反吐を吐いてしまう鍛錬、体痣だらけになってしまうようなキツイ地獄の稽古。想像を遥かに超えるような厳しさが、僕の精神と身体をボロボロにしていった。

 今回もそうだ、とてもじゃないが剣を握れる気が全くしない。
 腕がピリピリして筋肉が痛い。

 だか、レインからは闘志が消えない、たとえ無力に等しい僕を前にしても……だ。

「もう終わるか?  この程度のことでへばって、剣をもう棄てるか?」

「……………」

「最初に戦士になりたいと言ったのはお前だ、もし剣を投げ打ちたいならそう言え。私はお前をせめない」

「………」

 俯くだけで、何も答えない。
 しかし握る木剣を見ると、何故だろうか………?

 捨てようとして、諦めようとした筈なのに。
 木剣を握る手から力が抜けない。
 捨てる事なんて出来ない、僕は何故かそう思ったのだった。

「………だ…」

「む?」

「………いや……だ……!  諦めたくない……!」

「それは何故なのだ?  言ってみろ」

 考えなくとも、答えはもう既に決まっていた。

「………お父さんとお母さんを幸せにして、エリーシャを守っていたいから……だから!」

 現実を知らない幼児の戯言に等しい文を口にしながら、僕はレインの向ける木剣の切っ先を手で弾いた。

「!」

 不意打ちに驚きながら、レインの腕から力が抜ける。
 そして、わずかに空いた空きに僕は狙いを定めて木剣の握りに力を込めた。

 型や技は何一つとして覚えていない。
 それを会得するのも、僕では難問に等しいだろう。

 けど一つだけ、戦況を覆すような能力を僕は持っている。
 ーーー偶然に相手の弱点に攻撃を命中させて、怯ませることの出来る『クリティカルヒット』というものが。
 低確率にしか発生しないと言われているが、僕のステータスなら可能だろう。


(そうか……お前の幸運値か。それに、私の攻撃態勢を崩されてしまった今なら……!)


 どこか嬉しそうに、レインは小さく笑う。
 そして即座に僕の攻撃を受け流し、いつものように背中を叩かれる。

 稽古終了の合図だ、同時にそれは僕が気を失う時だった。

「ふぅ、悪いがネロ。やはりお前には剣をただ振るう才能がないようだ………にしても」

 うつ伏せに倒れる僕の背中の服を引っ張り上げると、レインは目を瞑った僕の顔を除きこんだ。



 ※※※※※※



 ローラとの稽古が3日経過した。

 早朝から開始して、日が落ちる午後まで続ける。

 基本の素振りが最初のウォーミングアップでその後は、ローラに指導されながら木剣で手合わせをする。
 木剣とは懐かしい。

「ほらそこ、腰が曲がっているぞ!」

 背後に回り込まれ、力を抜いた腕の振りだけの打撃を食らう。
 やり返そうと足を滑らせながらすばやく背後に木剣を横から振り下ろしてみるが、まるで見透かしいたかのようにローラに易々と回避されてしまった。

「追撃も考えろ!  防御だけに気を掛けるな!」

「っ!?」

 未だ一本も取れていない現状に、彼女は呆れながら蹴撃を繰り出し僕を軽々しく吹っ飛ばす。

 女性だとは思えない筋力だ、さすがはエルフ。
 と感心していると、利き手に持つ短剣の形をした木剣がローラの放った技によって折られてしまう。

 そのまま静かな言葉で、ローラは言う。

「……反応速度、状況判断の遅さ。私の助言をばかりを繰り返しねばかりで、臨機応変に対応することすら実行しない。悪いけど、お前に才能が微塵も感じられん」

 無防備な僕に攻撃を弛めようとせず、ローラは木剣を振り続けた。
 容赦のない打撃が体に響き、あらゆる所に痛みが走る。

 一方的に暴力を食らっていく僕へのトドメなのか、ローラは木剣を両手で握りしめると同時に、一歩前へと大きく踏み込む。

 彼女の瞳が捉える標的、反射しているのは僕の姿だった。
 ローラの完璧なまでの足運びによって、彼女の行動に無駄がない滑らかのようなものにも思えた。

「【妖霊流・型崩し】!」

 ローラの振りかぶった木剣が、鳩尾に強く命中。
 肉にめり込む程の強烈な威力で気を失いかけたが、

 ガラン。

 手に握る木剣が、僕の手からポロッと落ちていた。

「……なっ」

 続いて膝が無意識に崩れ、僕は地面に跪いてしまう。
 視線の先には、全てを見通すかのような瞳を向けるローラが僕を見下ろし、木剣をしまっていた。

「私は帰る。どうやらお前、才能がないようだな」

 去り際にローラは冷たくそう吐き捨て、背中を向けながら歩いていってしまった。
 ローラの言葉がかなり効いたの、僕は彼女を呼び止めることは出来なかった。
 それより稽古で彼女から受けたそこらの傷がジンジンと痛んで仕方がない。

 もしジュリエットが居れば………と考えてしまう自分がいた。



「あーあ、怒られていらっしゃる」

 近くから男性の声が聞こえた。
 振り向くとそこには、見覚えのある顔を持つ男がいた。
 なんでお前がここに……!?  と思うような人物だ。

「貴方は……!」

 反射的に片付けようとした木剣を握って、警戒するように構えた。
 するとその男性は慌てたように両手を上へと上げ、左右に振る。

「あー悪い!  違う違う、冗談だ、別にキミを馬鹿にしたわけではない!  断じて違うぞ!」

 降参のポーズを必死に取る男性のその姿に、驚愕しながら僕は武器を下ろした。

 なんせ、あの人………とっても嫌なあの人に似ていたからだ。
 人の痛い所だけを突くのが得意、なんでもかんでも自分語り、根拠のない理由で自分を正当化するあの屑。
 この男性の姿が完全に奴と一致していた。
 名前すら思い出したくない、あの行動と言動が痛い自称勇者『トレス』じゃないか。

 目の前で苦笑いしながら、トレスが絶対取らないであろう行動を取る男性は、完全に瓜二つ。

 しかし本人ではないのは確か、耳が尖っている。
 エルフの特徴である部分を見逃したりしない。

「ここは名乗るべきか?  ……えっと、俺の名前は『トレース』。誇り高きダークエルフ筆頭の戦士であり、その長。キミと争う気などない」

「……と、トレース?」

 名前が近いじゃないか、なんだよコレ。

「いかにも!」

 待っていたと言わんばかりに、トレースと名乗る黒い肌のエルフが仁王立ち。
 口調と行動が僕の御存知のトレスと完全に重なっていて、違和感が全くなかった。
   そういえば、彼を見て思ったけど。

 ……トレスの奴、あの世界でいま元気にしているのかな?

「なにを黙っている?  キミも名乗らんか!」

「…………」

 確かトレスも『勇者の儀』という、先代の勇者が新たな勇者を候補の中きら選考する儀式に参加するんだったな。
 けど誰が勇者になろうと、別に僕にはどうでもよかった。

 ただ自分らの故郷を崩壊させた『七大使徒』の1人に復讐すれば、それだけで心に安らぎが訪れてくる。
 エリーシャも望んでいる筈。

 たとえ、この手がーーーーあの胸に秘められた『勇ましき焔』を奪い取る結果になったとしてもだ。



 ※※※※※※



 エルフの戦士長のトレースを無意識に無視してしまい話を聞いていなかったが、ただ単に『酒を一緒に飲まないか?』という彼からのお誘いだった。

 別に断る理由はないが、飲む前にトレースを観察。
 毒が盛られていないか、非常に心配だ。



 ーーーその後、問題なく酒を大量に飲みながら、気持ち良くなってきたところでトレースと共に『ジュリエットちゃん』の可愛さについて語り合った。

 途中、トレースは元彼女の話をしだして、聞いていたらトレースが涙目になり僕も泣いてしまった。
 あの畜生とか、誇り高き高貴なエルフらしからぬ発言を連発したが一応共感。
 夜の方がどうのこうのだったり、下手くそだったり僕では到底理解出来ないであろう大人の話をトレースは続けた。



 その夜、アルコールで気分上々になりながら飲んでいると、戻ってきたローラに目撃されて彼女は激怒。

 その後の出来事は覚えていない。
 けど一つ言えるとしたら、男同士で話せたのはとても楽しかった。
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