S級パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる〜勇者より先に魔王討伐を目指す〜

灰色の鼠

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第1章 ー愚者編ー

第3話 『幸運なボクは女神の加護を授かる』

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 チリヂリと燃える焚き火の前で、苦労して捕ったトカゲを少女は遠慮もなくモグモグと頬張っていた。

「ムシャムシャ!! パクパク!! うんまぁい!」

 この少女、相当お腹を空かせていただろう。
 自分は別に空いていないため、黙って彼女を見つめていた。
 視線に気づき、少女は宝石のような水色の瞳をボクの方へと向ける。

「………もぐもぐ」

 無言のまま、結局何も言ってくれない。
 話題がないのだろうか?  仕方がない、いっちょ切り出そう。

「…………おいしい?」

「うん、とっても! 食べ物をくれるから、お兄さんは良い人ですね! モグモグ」

 返答してすぐ少女はトカゲの肉にがっついた。
 本当に美味そうに食べてくれている事に捕った甲斐があったと、妙な達成感を覚えさせてくれる。

 なんせこの時期でしか生息しない希少な食料(トカゲ)なのだから。
 冒険者の間では男女問わずに好まれていて、上流貴族の間でも人気を誇る代物である。

 あまりにレアなので生息場所を掴んだところで、捕獲までいくのは中々難しい。
 まぁ、あれもこれも《ラック》幸運値が高いからであって自身の実力には含まれない。
 胸を大きく張りながら誇らしく言えることなのか、それまた別だが。

「ふぃ、ご馳走さまでした!」

 4本の中型のトカゲを食べ終えた少女は満足そうにボクの寝袋へと寝っ転がって占領した。
 仕方ないのでボクは集めた枯葉などでクッションを作って寝ることにした。

 焚き火で向かい合いながらボクはねっ転がる少女に尋ねる。

「で、寝かけているところ悪いんだけど質問をしていいかな?」

 焚き火の火により気持ちよくしていた少女は瞑った瞼を開かせ、起き上がって真っ直ぐボクを見つめた。
 聞く気満々なのか、異様なほどまでの集中力が感じ取れる。
 そして笑っていた。

「私を救ってくれたメシアだものっ、断る理由なんてないですわ!」

「う、うん。そっか、力になれて良かったよ。それよりキミはどうしてあんな所に居たんだい? モンスターが沢山生息していることぐらい、お父さんかお母さんに注意されなかったの?」

 少々わざとっぽい大人の口調で質問をしてみせると、ボクを見た少女は夜空を見上げて指を差した。

「うーん、お父さんとお母さんは居ません!」

 口に付いたカスを舐め取りながら彼女は言った。

「それと私は1度も『地上』に来たことなくて、今さっき『神界』から下りてきたところだったんです」

「神界? 聞いたこともないな……? もしかして、大陸外?」

「異空間です。この世の何処にも存在しない神のみぞ知る世界。権利のない人間では絶対入ることなど出来ません」

 顎に手を当てて黙りこみながら、壮大に上昇していく彼女の夢話に耳を傾ける。
 感想は「頭でも打ったのか?」ぐらいだ。

「探究心により神界から地上へと下りようと試みたのですか、制御不能の状況に陥ってしまい、ワケの分からないこの森に辿り着いてしまいました。
 そこで、神界にも似た魔力のようなモノを感じとりながら森を彷徨っていたら、牙と爪をギラつかせるあの動物たちと遭遇しました。可愛いので撫でようかと思い手を伸ばしてみました」

 話は信じられないけど、モンスターに自ら無防備に近づくってことは、どうやら相当な箱入り娘ではないのだろうか? と頭に変な記憶がよぎる。決して悪い方向の記憶ではない。
 昔、国で知り合った貴族の箱入り娘がボクを異常なまでに溺愛したヤンデレちっくな記憶だ。

「そこで、襲われちゃいました! テヘ」

 舌を出して自分の頭をコツンと叩く仕草にドキンとした。
 それも、こんな小さくて美形な少女にときめかないハズがない(ロリコンではないぞ)。
 なんていうか、昔の妹を思い出す。
 こういう風に父さんに謝っては頭に一発、まったく無関係のボクにも一発。

 痛み分けだ! と父さんはよく言っていた。

「けど偶然に私の視界を奪う厄災が訪れ、これはなんですか!? もうダメだわ……と諦めかけていたところ、厄災を切り開くの如くに登場した光! すなわち貴方! ……名前を伺っても?」

「ネロ」

「そうそうネロ様! 心と体に傷を負ってしまった私、世界の御神体である偉人! 女神の『フィオラ』は貴方の差し伸べられた純粋な手により救われてしまいました! その時、私はネロ様に……神でありながら抱いてはいけない感情を抱いてしまいました!」

 延々と続きそうな話を苦笑いで聞き、ボクは目を輝かせて見てくるフィオラに首を傾げた。

「そ、そんな大層な……大げさだよ。はは」

「自分のことを過小評価しないで下さい! 私は決めたんです!」

 フィオラは頭の赤いリボンを揺らしながら小さく白い手をボクの方へと伸ばし、細長い指を差しながら言った。

「ネロ様に救われたこの命、借りを返すまでなど言いません! 永遠に貴方に着いていきます!」

「え、ちょっと待って。 そんな、キミのような女の子が一緒に? ボクは冒険者であって、毎日危険と隣り合わせの仕事に赴いているから危ないよ?」

「冒険者! やはりそうでしたか! ネロ様から感じ取れる異様な幸運の匂いと、うむ。
 勇者の気配……」

「大した冒険者ではないよ。それにボクじゃなく妹が勇者だ。ボクなんてステータスの能力値では幸運だけが高くてそれ以外は底辺。
 すなわち底辺な冒険者で。収入は現在ゼロ、パーティを作らなきゃやっていけないほどの雑魚なんだよ」

「つまり、力が欲しいってことですよね?」

 ボクを尻目にフィオラは可愛らしく微笑みながら夜空を見上げて言う。
 そしてボクの方へとすぐ向き直り、ニコリと笑みをみせた。

「いいでしょう、私の力にかかれば容易いことです」

 そう言うとフィオラは小さな指から霊感のような、赤く輝く物体を出現させてボクにかざした。
 魔法ではない、魔力が全然感じ取れないし呪文すら唱えない状態での魔法発動など賢者の域だ、信じられない。

「うおっ? な、何?!」

 驚きも隠しきれずボクはフィオラから後ずさろうとすると、それを制するかのように彼女はボクに近づき手をがっしり掴んだ。

「『女神の加護』を与えましょう。と言うものの、適正じゃなければ死ぬ場合があるから今のうちに謝っておきますね!!」

 避けれない状況でフィオラはかざしていた霊魂をボクの腹部へと叩きつけ、内臓が潰れるような衝撃を受ける。

 地面に倒れこむボクを心配そうに見下ろす赤髪の少女は、ボクの耳元に顔を近づけて囁いた。

「………ごめんなさい」

 瞼が完全に閉じてしまったボクは、いつの間にか意識を失っていた。
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