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初恋Returns 34
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気になり出すと目に付くのはよくある話かもしれないけど、わずか数日後に俺はふたたびシティホテルに入る武市とあの女の人を見つけてしまう。
「これって嫉妬なのかな?」
「は?」
学校帰りのファーストフード店で京介相手につい呟いてしまう。
「嫉妬って劉さん相手に?」
「俺さ……小五くらいかな。なんか急に気になって武い……リュウさんに「リュウさんは俺の父親になってくれるのか」って聞いたことあるんだ」
それはちょっとした期待も含まれていた。親父が死んだあと俺は血縁もなく一人きりで、引き取って一緒にいてくれた武市が家族だったらいいなってそう思っていたんだ。
「父親にはなれないって笑われたんだよな……あれってこういうことなんだよなぁ……」
もし武市が戸籍上だけでも俺の父親になっていたら、武市が結婚したときなんか困ったことになるんだ。あの女の人がどういう関係なのかは知らないけど、こんな数日の間に揃ってホテルに入っていくのなら親しい間柄なんだろうと思う。
「なんか……置いていかれるような気分……」
もちろんそれだけじゃないんだけど、京介相手に肉体関係のことまではしゃべれない。とはいえ、弱音を吐き出さずにはいられない。
京介が一口かじったアップルパイを俺に向かって差し出した。いわく、これでも食って元気出せよと言ったところだ。
「食いかけかよ」
つい文句を言ってしまうのはお約束だ。京介だってそのくらいで気を悪くしたりはしない。
「気晴らしに合コンでも行く?」
身を乗り出した京介がにやりと笑った。
「おまえ……彼女……」
「別れた。つか、振られた」
「は!?」
つい数日前にラブラブっぽい発言してたよな? しかももうすぐクリスマスだっていうのに、このタイミングで振られるとか、どれだけ怒らせたんだ。
「ちょっと他の子と出かけただけなんだけどな」
「出かけただけな……」
「キスしかしてない」
それは、浮気だ。俺は呆れて大きなため息を吐き出した。
京介は気が多いというか、誰にでも優しいところは長所なんだけど、こと恋愛においては間違いなく短所だ。本人は大した悪気もなくやっているから女の子からしたらタチが悪い。それでも、開き直ったり誤魔化したりしない分、振られてもその後の関係はあっけらかんとしたものになっている。
正直、今はそういう京介の性質にあやかりたい。
「で、どうする?」
「……行く」
よっしゃ。満面の笑みでガッツポーズをした京介に苦笑いを向け、気晴らしだって必要だよな、なんて自分に言い訳をした。
今度こそ本気の相手に出会えるかも知れねぇし。
武市のことは一旦忘れて楽しんでこよう。
京介の素早いセッティングで、合コンはまさかのクリスマスイブに決まった。一瞬だけ武市の顔がよぎる。
クリスマスとか、別に今さらいいよな……。
武市とはあれから顔を合わせていない。別に避けたとかそういうのじゃなくて、たまたまタイミングが合っていないだけだ。
どのみち年末は忙しくしている武市だから、俺がいなくても大して気にしないだろう。
「あーあ。卒業したら一人暮らししよっかな」
「おまえが? 劉さん許さなさそうだぞ」
「そっかなぁ……でも、ああいうの見たら同居してるのも気まずいじゃん?」
「あー……確かに。劉さんも家にオンナ呼べないしな」
そんなダイレクトに言わないでくれよ。志望の大学は今の家から通える範囲だけど、あえて家を出るのもいいかもしれない。家は、頼めばジイチャンとかでも相談にのってくれるだろうし。
「劉さんってさ、なんとなくオンナより祥真を優先しそうなイメージだった」
「まさか」
優先はしてくれていた。それは俺が子どもだったからだ。いつまでも甘えているわけにはいかない。
「ほら、元気出せって! パーっといこうぜ!」
京介の容赦ない平手が俺の背中を叩く。
ああ、友だちっていいよな――。
「これって嫉妬なのかな?」
「は?」
学校帰りのファーストフード店で京介相手につい呟いてしまう。
「嫉妬って劉さん相手に?」
「俺さ……小五くらいかな。なんか急に気になって武い……リュウさんに「リュウさんは俺の父親になってくれるのか」って聞いたことあるんだ」
それはちょっとした期待も含まれていた。親父が死んだあと俺は血縁もなく一人きりで、引き取って一緒にいてくれた武市が家族だったらいいなってそう思っていたんだ。
「父親にはなれないって笑われたんだよな……あれってこういうことなんだよなぁ……」
もし武市が戸籍上だけでも俺の父親になっていたら、武市が結婚したときなんか困ったことになるんだ。あの女の人がどういう関係なのかは知らないけど、こんな数日の間に揃ってホテルに入っていくのなら親しい間柄なんだろうと思う。
「なんか……置いていかれるような気分……」
もちろんそれだけじゃないんだけど、京介相手に肉体関係のことまではしゃべれない。とはいえ、弱音を吐き出さずにはいられない。
京介が一口かじったアップルパイを俺に向かって差し出した。いわく、これでも食って元気出せよと言ったところだ。
「食いかけかよ」
つい文句を言ってしまうのはお約束だ。京介だってそのくらいで気を悪くしたりはしない。
「気晴らしに合コンでも行く?」
身を乗り出した京介がにやりと笑った。
「おまえ……彼女……」
「別れた。つか、振られた」
「は!?」
つい数日前にラブラブっぽい発言してたよな? しかももうすぐクリスマスだっていうのに、このタイミングで振られるとか、どれだけ怒らせたんだ。
「ちょっと他の子と出かけただけなんだけどな」
「出かけただけな……」
「キスしかしてない」
それは、浮気だ。俺は呆れて大きなため息を吐き出した。
京介は気が多いというか、誰にでも優しいところは長所なんだけど、こと恋愛においては間違いなく短所だ。本人は大した悪気もなくやっているから女の子からしたらタチが悪い。それでも、開き直ったり誤魔化したりしない分、振られてもその後の関係はあっけらかんとしたものになっている。
正直、今はそういう京介の性質にあやかりたい。
「で、どうする?」
「……行く」
よっしゃ。満面の笑みでガッツポーズをした京介に苦笑いを向け、気晴らしだって必要だよな、なんて自分に言い訳をした。
今度こそ本気の相手に出会えるかも知れねぇし。
武市のことは一旦忘れて楽しんでこよう。
京介の素早いセッティングで、合コンはまさかのクリスマスイブに決まった。一瞬だけ武市の顔がよぎる。
クリスマスとか、別に今さらいいよな……。
武市とはあれから顔を合わせていない。別に避けたとかそういうのじゃなくて、たまたまタイミングが合っていないだけだ。
どのみち年末は忙しくしている武市だから、俺がいなくても大して気にしないだろう。
「あーあ。卒業したら一人暮らししよっかな」
「おまえが? 劉さん許さなさそうだぞ」
「そっかなぁ……でも、ああいうの見たら同居してるのも気まずいじゃん?」
「あー……確かに。劉さんも家にオンナ呼べないしな」
そんなダイレクトに言わないでくれよ。志望の大学は今の家から通える範囲だけど、あえて家を出るのもいいかもしれない。家は、頼めばジイチャンとかでも相談にのってくれるだろうし。
「劉さんってさ、なんとなくオンナより祥真を優先しそうなイメージだった」
「まさか」
優先はしてくれていた。それは俺が子どもだったからだ。いつまでも甘えているわけにはいかない。
「ほら、元気出せって! パーっといこうぜ!」
京介の容赦ない平手が俺の背中を叩く。
ああ、友だちっていいよな――。
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