28 / 38
牛追い女、対決②
しおりを挟む
「目撃証言は上がってるんだ。すぐにこいつらのやったことは明るみに出るから少しの辛抱だよ。ソルガ男爵、午後のティータイムの時間帯に申し訳ございません。聞きたい事を聞いたらとっとと消えますので」
「場合によっては、牢屋の中に消えていただくことになるかもしれんがね」
ソルガ男爵のその言葉に、ロバート氏は不機嫌そうにぴくりと眉を動かしました。
「左様でございますか。では単刀直入に参りましょう。昨夜、王国の所属である牛舎から、繋がれていた牛たち数十頭全てをこちらのお嬢さん方が持ち出しているところを、複数の近隣住人が目撃しています。何やらいかにもイベントで使うかのごとく牛に装飾をしていたので通報が遅れたようですが、そのようなことはこちらでは認識していません。つまり、公然と泥棒を働いたことになる」
そこまで言って、ロバート氏はじろりと私の方を見ました。
「盗んだ牛はどうせこの屋敷のどこかに隠してでもいるのでしょう。どこか安い労働力を探している国にでも売りさばくおつもりですか?その割りにはずいぶんと大雑把で稚拙な犯行ですねえ」
“何か反論があるか?”と言いたげに、ロバート氏は視線を送ってきます。
私は自身を鼓舞するように、両手をぎゅっと握り締めました。
「失礼ながらロバートさん、私は牛を盗んだのではありません。助けたのです」
「ほう。詳しく聞きましょうか」
ロバート氏は、あくまで自分たちのやったことが明るみに出るわけがないといった余裕の態度です。
牛笛の効果で静かに牛を歩かせ、極力人目につかなくする対策は取りました。しかしさすがに平民街までの道のりを誰一人に見られることなく歩くのは不可能だというのも織り込み済みです。なるべく時間を稼ぎ、ロバート氏の陣営が私たちのことをかぎつけるまでに証拠を固める、というのがこちらの作戦でした。
しかし、ロバート氏だって何の考えもなしにやってきたわけではないでしょう。慎重にやらなければいけません。
「ロバートさん、三日前のことですが、私はたまたま王国の牛舎に放火をし、牛たちごと牛舎を燃やしてしまおうという輩の話を立ち聞きしてしまったのです」
あれこれと複雑な策を持ってすれば、かえって敵の術中に嵌る可能性がありました。まずは直球を投げて、相手の出方を伺うことにします。
「ほほう。それは聞き捨てならんことだ。しかし、それならわざわざお嬢さんが牛を連れ出さずとも、我々に事の次第を報告していただきこちらに対策を任せてくださればよかった。違いますか?」
案の定、ロバート氏は柔和な表情で冷静に返します。しかし、その目の奥は決して笑ってはいません。
「場合によっては、牢屋の中に消えていただくことになるかもしれんがね」
ソルガ男爵のその言葉に、ロバート氏は不機嫌そうにぴくりと眉を動かしました。
「左様でございますか。では単刀直入に参りましょう。昨夜、王国の所属である牛舎から、繋がれていた牛たち数十頭全てをこちらのお嬢さん方が持ち出しているところを、複数の近隣住人が目撃しています。何やらいかにもイベントで使うかのごとく牛に装飾をしていたので通報が遅れたようですが、そのようなことはこちらでは認識していません。つまり、公然と泥棒を働いたことになる」
そこまで言って、ロバート氏はじろりと私の方を見ました。
「盗んだ牛はどうせこの屋敷のどこかに隠してでもいるのでしょう。どこか安い労働力を探している国にでも売りさばくおつもりですか?その割りにはずいぶんと大雑把で稚拙な犯行ですねえ」
“何か反論があるか?”と言いたげに、ロバート氏は視線を送ってきます。
私は自身を鼓舞するように、両手をぎゅっと握り締めました。
「失礼ながらロバートさん、私は牛を盗んだのではありません。助けたのです」
「ほう。詳しく聞きましょうか」
ロバート氏は、あくまで自分たちのやったことが明るみに出るわけがないといった余裕の態度です。
牛笛の効果で静かに牛を歩かせ、極力人目につかなくする対策は取りました。しかしさすがに平民街までの道のりを誰一人に見られることなく歩くのは不可能だというのも織り込み済みです。なるべく時間を稼ぎ、ロバート氏の陣営が私たちのことをかぎつけるまでに証拠を固める、というのがこちらの作戦でした。
しかし、ロバート氏だって何の考えもなしにやってきたわけではないでしょう。慎重にやらなければいけません。
「ロバートさん、三日前のことですが、私はたまたま王国の牛舎に放火をし、牛たちごと牛舎を燃やしてしまおうという輩の話を立ち聞きしてしまったのです」
あれこれと複雑な策を持ってすれば、かえって敵の術中に嵌る可能性がありました。まずは直球を投げて、相手の出方を伺うことにします。
「ほほう。それは聞き捨てならんことだ。しかし、それならわざわざお嬢さんが牛を連れ出さずとも、我々に事の次第を報告していただきこちらに対策を任せてくださればよかった。違いますか?」
案の定、ロバート氏は柔和な表情で冷静に返します。しかし、その目の奥は決して笑ってはいません。
10
あなたにおすすめの小説
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
愛しい義兄が罠に嵌められ追放されたので、聖女は祈りを止めてついていくことにしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
グレイスは元々孤児だった。孤児院前に捨てられたことで、何とか命を繋ぎ止めることができたが、孤児院の責任者は、領主の補助金を着服していた。人数によって助成金が支払われるため、餓死はさせないが、ギリギリの食糧で、最低限の生活をしていた。だがそこに、正義感に溢れる領主の若様が視察にやってきた。孤児達は救われた。その時からグレイスは若様に恋焦がれていた。だが、幸か不幸か、グレイスには並外れた魔力があった。しかも魔窟を封印する事のできる聖なる魔力だった。グレイスは領主シーモア公爵家に養女に迎えられた。義妹として若様と一緒に暮らせるようになったが、絶対に結ばれることのない義兄妹の関係になってしまった。グレイスは密かに恋する義兄のために厳しい訓練に耐え、封印を護る聖女となった。義兄にためになると言われ、王太子との婚約も泣く泣く受けた。だが、その結果は、公明正大ゆえに疎まれた義兄の追放だった。ブチ切れた聖女グレイスは封印を放り出して義兄についていくことにした。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます
さくら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。
望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。
「契約でいい。君を妻として迎える」
そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。
けれど、彼は噂とはまるで違っていた。
政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。
「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」
契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。
陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。
これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。
指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる