夏の幻想

雫喰 B

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27.

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 その日私は、とある田園風景の中にいた。

 見渡す限り誰も居ない。

 遙か遠くに民家のような建物が点在しているだけで誰の姿も見えない。

奏*「何処だろう?」

 ポツリと呟くも答える者は誰もいる筈も無く、暫し呆然としていた。

 ふと前方の方に誰かいるのが見えた。 
 遠すぎて誰かまではわからないが徐々にその姿がわかるところを見るに此方に近付いて来ているようだった。

 が、

 何かがおかしい。

奏*「っ?!」

 人だと思っていたは、何故か苔みたいな色の全身タイツを着ているように見えた。

奏*「え!?」

 逃げなければと思ったのだが全く動けない。まるで金縛りに合ったかのようだ。

 なのにそれはどんどん近付いて来て、とうとう目の前まで来てしまった。

 それは子供の河童だった。

 私の顔を見上げたかと思うとポロポロと涙を流す。
 
 その姿に困惑するしかなかった。
 
河童*「ごめん…ごめんなさい。あの時僕が君に触れなければこんな事にならなかったのに…。まだ全部思い出せていないなんて…。」

 涙を流しながら言う、その言葉を聞いて私は思い出した。

 以前、夢で見た川底に沈んでいく少女の事を。

 あの後、意識を失う直前に『あの子を助けなきゃ…。』そう思って手を伸ばした。

 じゃあ、その後泣きながら私に誤っていたのはだったの?
 でも、あの顔は円珠君に似ていると思っていたのに…。

 と、途端に金縛りが解けてその子供の河童の後ろから女の子が、そっと顔を出した。

奏*「か、花絵ちゃん!?」

 そう、以前見た夢で出てきた少女の顔は花絵ちゃんそっくりだったのだ。

 しゃがんで花絵ちゃんを抱きしめた。

奏*「あの時、一緒に居たのに助けられなくてごめんなさい!私だけ助かって……。」

 涙が溢れ、それ以上言葉にならなかった。

奏*「私…の事…恨んで…るよね?」

 私から体を離し、泣きながら私の顔を見た花絵ちゃんは首を横に振った。

河童*「やっぱりまだ全部思い出せてないんだね。」

花絵ちゃん*「恨んでなんか…ない!だって……私はあなただから。」

 そう言って私をギュッと抱きしめた。

河童*「じゃあ、元に戻すよ。おでことおでこをくっ付けて。」

 花絵ちゃんが私の両頬に手を当てて私の額に額をくっ付けた。

 子供の河童が私と花絵ちゃんの後頭部に掌を当てて何か呪文のような言葉を唱えた。

 辺りを光が包み込む。

 そして私も花絵ちゃんもその眩しい光に呑み込まれていった。



 あの夢の続きを見た。

 子供の河童は、何処かで私の事を知っていたらしく、川で溺れた私を助けようとして触れたのだ。

 そして、私の体から抜け出た魂だったが、完全に抜け出ていなかった上に私が手を伸ばした為に二つに分かれてしまい、体に戻れなかった魂が“ 花絵ちゃん ”として“ 隔離世かくりよ”に取り残されてしまったのだという。

 私の体に触れたのが子供の河童だった事も原因だったと教えられた。

 大人の河童が触れていたらあの世に行っていただろうと。

 そして子供の河童は罰を受け、私の体に花絵ちゃんを戻すまで隔離世から出る事もできず、子供のまま時を止められてしまったのだと。

 本来ならば、人間とあやかしが関わってはいけないのだが、寿命のある者の命を奪う訳にはいかないという事で、特例として隔離世でのみ認められたのだった。

 花絵ちゃんの記憶から、この子供の河童に随分心を慰められていた事がわかった。

 けれど、彼(?)の名前を花絵ちゃんは知らなかった。

奏*「名前は?名前を教えて。」

河童*「ごめん。名前を教える事は支配される事だから教えられないんだ。」

 そう言って笑った顔は悲しそうだった。

 花絵ちゃんの記憶は、暫くしたら消えてしまうらしい。

河童*「この隔離世での事も、時と共にいき、本当にあった事かどうかも曖昧模糊あいまいもこな物としてやがては消えて無くなってしまうのだ。」

と寂しそうに言った後、子供の河童は消えていった。
 


奏*「ぅぐぇっ!!」

 お腹の上に何かが打ち付けられた衝撃で目が覚めた。

奏*「っな!?」

 起き上がろうとしたが起き上がれない。
 顔だけ上げてお腹を見れば環奈の足が乗っていた。

奏*「…マジ?」

 仕方がないので両手で足を持ち上げて退けた。

 もう足音騒動は起きていない筈なのに何で?と思ったが、彼女が幸せそうな表情で眠っているのを見て何だかこっちまで幸せだと思ってしまう。

 環奈はそんな不思議な魅力を持っている。
 だから、ファンクラブができるほどファンも多いのだろう。

 

 さっきまで見ていた夢を思い出す。

 言われていたように花絵ちゃんの記憶もほとんど無くなり、あの隔離世と言われている場所での出来事も何となく夢だったと思えるような気がした。

 そして、それに触発されて思い出した事もあった。

 花絵ちゃんの両親だと思っていた男女は、若かりし頃の祖父母にそっくりだった。

 いや、多分あの二人は祖父母だったのではないか。

 後日、実家に戻った時に見たアルバムにはあの時と同じ笑みの二人がいた。

 やっぱりあの二人は祖父母だったのだと私は泣いたのだ。

※今話で出た“ 隔離世 ”は、作者の創作造語であり、あの世とこの世の間という意味で使用しています。
 なので、本来の“ 隠り世 ”とは意味が違います。

~~~~~~~

*いつもお付き合い(お読み)いただきありがとうございます!
(ラストに向かって猛ダッシュ!!)

*投票して下さった方々本当にありがとうございます!!
 
*お気に入り、しおり、エールやいいね等もありがとうございます!
 
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