R18・心乱れて【完結】

雫喰 B

文字の大きさ
11 / 44

11. 話し合い④


 朝、目が覚めた時から憂鬱だった。
 今日で私とライアン様の婚約解消が決まる。
 いいえ、私の中では既に解消すると決めている。

 もう終わりにしてもいいと思う。
 幸いな事に彼女とは遭遇していない。
 
 でも、私達の婚約が解消されれば彼女の事だからライアン様の傍に終始いると思う。

 そうなれば同じ邸内にいるのだから遭遇する頻度は高くなる。

 単なる政略結婚だと割り切っていたのなら兎も角、愛とまではいかなくても大好きだった。
 今もまだその想いは消えていない。
 
 婚約解消後、そんな私の目の前で愛し合い見つめ合う二人の姿を見せつけられる。
 そう考えたら憂鬱でしかない。

 
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△


 そろそろ奥庭のガゼボに向かった方がいいかと部屋を出る私の服装は、騎士の正装服姿だった。。
 
 正直ドレスと騎士の正装服のどちらを着て行こうか悩んだ。

 けれど、婚約を解消するのにドレス姿というのも今更のような気がして騎士の正装服で行く事にした。

 ところが、自分の記憶の中よりも短い時間で奥庭に続く遊歩道の入り口に着いてしまった。

 考えて見れば二人でお喋りしながら歩くのと、一人でサクサク歩くのでは後者の方が歩く速さが速いに決まっている。

 遊歩道の入り口にいた侍女が私の姿を見て慌てていた。

「まぁ?!カレドニア様。」
「ごめんなさい。何だか早く着きすぎたみたいね。」
「いえ、そのような事は…。ガゼボまでご案内いたしますわ。」

 侍女に申し訳ないような気がしたのと、この美しい庭の花木を見る事ができなくなるのかと思うと名残惜しくて、最後にゆっくり見たいと思った。

「ありがとう。でも、ゆっくり花木を見たいから案内はいいわ。」
「畏まりました。」

 侍女が頭を下げる。
 その前を横切り、遊歩道をゆっくり進んで行った。

 遊歩道の両脇には山梔子くちなしが植えられ丁度今が見所とばかりに花が咲き乱れている。
 その花から漂う芳香を胸いっぱい吸い込んで花と香りを愉しむ。

『そう言えば、芙蓉の花も今が見所だったわね。』

 以前、お茶会に来た時に山梔子の花が満開で、芙蓉の花も今が見所だからと見せて貰ったのだ。

「確かこっちだったと思うんだけど…。」

 遊歩道から離れて芙蓉が植えられている方へと進んだ。

 すると、思った通り満開でその美しさに圧倒されながら進んで行くと、何処からか人の話し声が聞こえる。

 他に人がいるとは思っていなかったので、失礼になってはいけないと思い遊歩道の方へ戻ろうとしたその時

 何か切羽詰まったような女性の声が聞こえて、何事トラブルかと足音を忍ばせて、声のした四季咲きのバラが植えられているバラ園の方へ行った。

 この時、何故戻らなかったのだろう。戻っていれば今以上に傷付かずに済んだのに…。
 

 木の陰からそっと覗いた私の目が捉えたのは見つめ合う二人の姿だった。

 一人は流れ落ちる金糸に蒼色の瞳。豊満で艶めかしい体つきをした女性。
 もう一人は私の婚約者であるライアン様だった。
 
 女性の方は、恐らくラフレシア嬢である。

 潤んだ目で切なげに少し見上げるようにライアン様を見つめ、ライアン様も悲しみに堪えるようにラフレシア嬢を見つめている。

 そして抱き合う二人。

「っ!!」

 痛みに胸を押さえ、出そうになった声を止めた。

 これ以上見ていたくないのに目が離せない。
 おまけに金縛りに遭ったかのように身動きする事もできなかった。

 二人は体を離し、再び見つめ合っていたが、ライアン様の顔が彼女の顔に近付いていく。
 と、背伸びをしてラフレシア嬢の方から(?)ライアン様の唇に口づけたように見えた。

 堪えられなくなった私は身を翻して駆け出す。
 それまで金縛りにあったように動けなかったのが嘘みたいにまるで逃げているかのようだった。

『今、私が見たのは何?何だったの?』

 動揺して頭の中がパニックになりかけながらも走る。
 何処を如何走ったのか分からないままに。

 そして、気付くと庭奥のガゼボに居た。
 針で刺されたみたいに胸が痛み、目頭が熱くなる。
と、その時

「カレドニア様、如何かなさいましたか?」

 走って来た私に驚いたのだろう侍女に言われ、咄嗟に口にした。

「いや…あの…遅刻してしまうかと…。いえ、何でもないわ。」

 我ながら酷い受け答えだと思ったが、侍女はそれ以上の事は聞いてこなかった。

 椅子に脱力するように座る。
 まだ心臓の鼓動が煩い。
 息を整えていると侍女がお茶を私の前に置いてくれた。

「ありがとう。」

 彼女は短く「いえ。」と言うと頭を下げ、ガゼボのある一角の入り口まで下がって行った。

 淹れられたお茶を一口飲んだ後息を吐き出す。

 侍女に声を掛けられていなければ、みっともなく泣いていたかもしれない。
 そう思いながらもう一口お茶を飲んだ。

「ニア…。」

 ライアン様の声だった。

 
 先ほどの二人の姿がプレイバックされ、胸が引き絞られるように痛い。

 もう、私が彼の隣にいる事はできない。
 婚約を解消するしかない。

 けれど、もう一人の私が叫ぶ。
 まだ彼を好きなのだと。
 諦めきれないと。

 そんな想いを振り切り、立ち上がると胸に手を当て騎士の礼をした。

「ご無沙汰いたしております。ルビー卿におかれましては…。」
「何故名前で呼んでくれないんだ?」
「え…?」

 一瞬彼が何を言っているのか分からなかった。

「敬称ではなく名前で呼んでくれないか。」

 聞き間違いではなかったようだ。

 婚約を解消しようとしている私が何時までも名前呼びする訳にはいかないだろう。
 その話し合いもまだされていないけれど、彼から愛される望みなどない事がわかっているし辛いだけだから、未練がましく名前呼びなどするつもりはない。

「いいえ。訓練の事もありますから敬称の方がよろしいかと。」
「……わかった。」

 ふと、いつもと違う声の感じがして彼を見る。

『何であなたが傷付いたみたいな顔をしているのよ。』

 そう思えるような表情だったが、私の願望がそう見させただけだ。

きっと……。そうに違いない。
なんて私は未練がましいんだろう…嫌になる…。

 
 

 

 


 
 
 
感想 61

あなたにおすすめの小説

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない

柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。 バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。 カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。 そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。 愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

夫婦戦争勃発5秒前! ~借金返済の代わりに女嫌いなオネエと政略結婚させられました!~

麻竹
恋愛
※タイトル変更しました。 夫「おブスは消えなさい。」 妻「ああそうですか、ならば戦争ですわね!!」 借金返済の肩代わりをする代わりに政略結婚の条件を出してきた侯爵家。いざ嫁いでみると夫になる人から「おブスは消えなさい!」と言われたので、夫婦戦争勃発させてみました。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?