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10.話し合い③&閑話・魔獣
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夕食が終わる前に、北部辺境伯所属騎士団の副団長を務めるハロルド、東部辺境伯所属騎士団の副団長アイザック・モーリス卿、そして南部辺境伯所属騎士団の副団長であるライアン・ガーネット卿(私の婚約者)並びに彼等の補佐官達が食堂に入って来た。
立ち上がろうとした私達女性騎士を制してモーリス卿が言った。
「まだ食事が終わっていない者もいるのでそのまま聞いて欲しい。この合同訓練についてライアン・ガーネット卿から話がある。心して聞くように。」
それを受けてライアン様が全員の顔に目を走らせた。
その時、私と目が合ったと思ったのは私の思い違いか公私の区別を着けているからか。
彼の目が私の所で止まる事は無かった。
「皆、遠方より参加してくれて有難く思う。明日一日は休息に充て、明後日より合同訓練を開始する。各辺境領の連携を図るものであり、魔獣討伐に連携は欠かせない。重要な訓練であると肝に銘じて訓練に励んで欲しい。以上。」
そう言い終わると三人とその補佐官達は食堂から出て行った。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
夕食後、部屋に戻り湯浴みを済ませると、ベッドの上で寝転び持ってきていた資料を見ていた。
領内で一番最初に退治された魔獣から現在に至るまでの魔獣の姿形、特徴等について記述されたもので、各魔獣の弱点やどの様にして斃したかがわかる資料として、誰でも閲覧できるように騎士団本部の書物庫に置いてあるものだ。
魔獣が何処からこの世界にやって来るのか未だにわからない。
その生態や繁殖能力の有無等、謎に包まれた事が多い。
解っている事は、魔獣を斃すと魔石と呼ばれる輝石を体内に持っている。
この魔石は火にも融けず、硬くて加工し辛い。
故に、人間にとっては使い道が無いと言っても良い。
だが、魔獣はその魔石を食べて強くなる。
恐らく、自分に無い相手の能力を身に付けていくのだろう。
そしてレベルアップをする為に他の魔獣を襲う魔獣もいるのだが、そういった魔獣は強く、身体能力や知能も高く斃すのにも苦労する。
ただ個体数が少ないのが救いである。
何故ならば、知能の高い魔獣同士が群れる事はなく、遭えば殺し合うからだった。
そして、勝った方が相手の持つ魔石を喰らい更に強くなる。
過去に何度かそういう魔獣が出た事もあるらしいが、どんな種類の魔獣を斃して強くなったのか判らない為、能力は未知数で弱点も判らない。
その上、魔獣同士は相手の位置を把握しているらしい。
つまり、レベルアップを図る魔獣は偶々遭遇する訳ではなく、狩りをしている事になる。
出来ればこんな魔獣には遭遇したくないなと思った。
そして何より驚いたのが、魔獣同士が互いの位置を把握できるのは、魔石に引き寄せられているからという事だった。
だから魔獣を斃した後、魔石を回収しておびき寄せて討伐する事もあるらしい。
ただ、どんな魔獣が出てくるか判らないというリスクが高い討伐方法である為、あまり行われる事は無い。
魔法や異能等が無いこの世界では、よく目撃されるタイプの魔獣でも十人掛かりで
も一体斃すのがやっとなのだ。
それでも道具や薬学は昔に比べて発達(発明)されたが、それでも魔獣に重傷を負わせたり斃せるほどの道具は無く、深傷を負った者の傷を癒やしたり、死者を生き返らせる薬等は無い。
魔獣に深傷を負わす事ができるのは異能に似た(近い)【気】と呼ばれる物を武器に纏わせる事ができる者達と、正確に弱点を狙える者達だけである。
それ以外の者達は、地道に何度も攻撃するのを繰り返す事でやっと傷を負わせる事ができる。
あと、魔獣は知能の高さによって強さも違う。
普通の魔獣は人を見ると襲い掛かってくるが、それより少し上になると此方の隙を窺うようになる。
そして、その上になると自分よりも弱い魔獣を使役する事もあるという。
そんな風に、知能の高さで魔獣の強さも変わり、言葉を解したり話したりすると言われている。
自分が思っていた以上に魔獣は恐ろしい生物だ。
できる事なら訓練期間中に出会したくないものだと思った。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
明後日から訓練が始まる為、装備品の確認や武器の手入れをし終わり就寝しようと思ったところで扉をノックする音がしたような気がした。
様子を窺うように扉を注視していると、やはり遠慮がちにノックしているみたいな小さな音が聞こえる。
扉越しに誰何する。
「おやすみ中申し訳ありません。大至急にと若君からの返事をお預かりしたのですが…。」
『あのバカ様こんな時間に何考えてるのよ。』
と思いながら扉を開けて見ると、申し訳無さそうに背中を丸めて小さくなっている若い侍女が立っていた。
何度も頭を下げ「申し訳ありません。」と言う侍女が気の毒になってくる。
折り畳まれたメモを受け取り、広げて読んむ。
「承知しました。と伝えて頂戴。あと、まだ起きていたから気にしないで。」
そう言うと、ホッとしたような表情を浮かべ、頭を下げて戻って行った。
扉を閉めた後、もう一度メモを広げて見た。
“ 明日の午後二時な、奥庭にあるガゼボで話をしよう。”
とだけ書かれていた。
ほんの少し胸が締め付けられたみたいに痛む。
婚約を解消すると決めたけれど、ライアン様の顔を見た後もその決意が揺るがないか自信は無い。
彼に対する信頼は無いと言っても過言ではない。
が、だからと言って、彼への想いが全く無くなった訳ではないのだから…。
婚約を解消すると言ったら、彼女との事を後悔して戻って来てくれるかも?等という事を想像したりしてしまう。
そんな事など無いのは判っているにも拘わらず。
それでも、万が一彼女ではなく私を選んでくれるかもしれないと。
喩え天と地が引っくり返っても有り得ないのに……。
ほんの少しどころかゼロに等しい可能性でも期待してしまう。
そんな自分に嫌気が差す。
大きく息を吐き出した後、頭から布団を被り体を丸めた。
立ち上がろうとした私達女性騎士を制してモーリス卿が言った。
「まだ食事が終わっていない者もいるのでそのまま聞いて欲しい。この合同訓練についてライアン・ガーネット卿から話がある。心して聞くように。」
それを受けてライアン様が全員の顔に目を走らせた。
その時、私と目が合ったと思ったのは私の思い違いか公私の区別を着けているからか。
彼の目が私の所で止まる事は無かった。
「皆、遠方より参加してくれて有難く思う。明日一日は休息に充て、明後日より合同訓練を開始する。各辺境領の連携を図るものであり、魔獣討伐に連携は欠かせない。重要な訓練であると肝に銘じて訓練に励んで欲しい。以上。」
そう言い終わると三人とその補佐官達は食堂から出て行った。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
夕食後、部屋に戻り湯浴みを済ませると、ベッドの上で寝転び持ってきていた資料を見ていた。
領内で一番最初に退治された魔獣から現在に至るまでの魔獣の姿形、特徴等について記述されたもので、各魔獣の弱点やどの様にして斃したかがわかる資料として、誰でも閲覧できるように騎士団本部の書物庫に置いてあるものだ。
魔獣が何処からこの世界にやって来るのか未だにわからない。
その生態や繁殖能力の有無等、謎に包まれた事が多い。
解っている事は、魔獣を斃すと魔石と呼ばれる輝石を体内に持っている。
この魔石は火にも融けず、硬くて加工し辛い。
故に、人間にとっては使い道が無いと言っても良い。
だが、魔獣はその魔石を食べて強くなる。
恐らく、自分に無い相手の能力を身に付けていくのだろう。
そしてレベルアップをする為に他の魔獣を襲う魔獣もいるのだが、そういった魔獣は強く、身体能力や知能も高く斃すのにも苦労する。
ただ個体数が少ないのが救いである。
何故ならば、知能の高い魔獣同士が群れる事はなく、遭えば殺し合うからだった。
そして、勝った方が相手の持つ魔石を喰らい更に強くなる。
過去に何度かそういう魔獣が出た事もあるらしいが、どんな種類の魔獣を斃して強くなったのか判らない為、能力は未知数で弱点も判らない。
その上、魔獣同士は相手の位置を把握しているらしい。
つまり、レベルアップを図る魔獣は偶々遭遇する訳ではなく、狩りをしている事になる。
出来ればこんな魔獣には遭遇したくないなと思った。
そして何より驚いたのが、魔獣同士が互いの位置を把握できるのは、魔石に引き寄せられているからという事だった。
だから魔獣を斃した後、魔石を回収しておびき寄せて討伐する事もあるらしい。
ただ、どんな魔獣が出てくるか判らないというリスクが高い討伐方法である為、あまり行われる事は無い。
魔法や異能等が無いこの世界では、よく目撃されるタイプの魔獣でも十人掛かりで
も一体斃すのがやっとなのだ。
それでも道具や薬学は昔に比べて発達(発明)されたが、それでも魔獣に重傷を負わせたり斃せるほどの道具は無く、深傷を負った者の傷を癒やしたり、死者を生き返らせる薬等は無い。
魔獣に深傷を負わす事ができるのは異能に似た(近い)【気】と呼ばれる物を武器に纏わせる事ができる者達と、正確に弱点を狙える者達だけである。
それ以外の者達は、地道に何度も攻撃するのを繰り返す事でやっと傷を負わせる事ができる。
あと、魔獣は知能の高さによって強さも違う。
普通の魔獣は人を見ると襲い掛かってくるが、それより少し上になると此方の隙を窺うようになる。
そして、その上になると自分よりも弱い魔獣を使役する事もあるという。
そんな風に、知能の高さで魔獣の強さも変わり、言葉を解したり話したりすると言われている。
自分が思っていた以上に魔獣は恐ろしい生物だ。
できる事なら訓練期間中に出会したくないものだと思った。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
明後日から訓練が始まる為、装備品の確認や武器の手入れをし終わり就寝しようと思ったところで扉をノックする音がしたような気がした。
様子を窺うように扉を注視していると、やはり遠慮がちにノックしているみたいな小さな音が聞こえる。
扉越しに誰何する。
「おやすみ中申し訳ありません。大至急にと若君からの返事をお預かりしたのですが…。」
『あのバカ様こんな時間に何考えてるのよ。』
と思いながら扉を開けて見ると、申し訳無さそうに背中を丸めて小さくなっている若い侍女が立っていた。
何度も頭を下げ「申し訳ありません。」と言う侍女が気の毒になってくる。
折り畳まれたメモを受け取り、広げて読んむ。
「承知しました。と伝えて頂戴。あと、まだ起きていたから気にしないで。」
そう言うと、ホッとしたような表情を浮かべ、頭を下げて戻って行った。
扉を閉めた後、もう一度メモを広げて見た。
“ 明日の午後二時な、奥庭にあるガゼボで話をしよう。”
とだけ書かれていた。
ほんの少し胸が締め付けられたみたいに痛む。
婚約を解消すると決めたけれど、ライアン様の顔を見た後もその決意が揺るがないか自信は無い。
彼に対する信頼は無いと言っても過言ではない。
が、だからと言って、彼への想いが全く無くなった訳ではないのだから…。
婚約を解消すると言ったら、彼女との事を後悔して戻って来てくれるかも?等という事を想像したりしてしまう。
そんな事など無いのは判っているにも拘わらず。
それでも、万が一彼女ではなく私を選んでくれるかもしれないと。
喩え天と地が引っくり返っても有り得ないのに……。
ほんの少しどころかゼロに等しい可能性でも期待してしまう。
そんな自分に嫌気が差す。
大きく息を吐き出した後、頭から布団を被り体を丸めた。
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